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マライサアの瞳が紫色に光る~かつて大陸の覇者であった民族の末裔は、蔑まれながらも抗い続ける~  作者: 成吉灯篭


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第九章『始点に戻り確かめる』

 第九章『始点に戻り確かめる』


 その店の中に入った瞬間、店中の視線がこちらに集中するのをカラルは感じた。


「お前は!何しにきやがった!」

 奥の席に座っていたデブは、こちらに視線を向けると、その表情を苦々しい物に変え、上ずった声で怒鳴りつけてくる。


「何でもいい、それなりにいい銘柄のウィスキーを入れてくれ。あぁ、他の席の奴等にもこれで酒をご馳走してやってくれ」

 そんなデブを無視するように、面倒ごとの種であるカラルを追いだそうと近づいてきた屈強な店員に札を何枚か握らせると、そのまま呆気に取られている客達を無視して、カラルは、デブが取り巻きと座っている席に近づいた。


「何の用だ。この店にお前の席は無いぞ?」

 座席に、その肉がたっぷりとついた尻を預けながら、デブはこちらを睨みつけながら、周囲を軽く確認をしている。

 恐らく、こちらに護衛がいないか気になっているのだろう。

 取り巻き達は、デブの指示を待ちながら、こちらを牽制するように周りを取り囲んでくる。


「酒を飲みに来ただけだ。お前にもこの間の礼に、ご馳走をしてやるよ。好きな物を頼めばいい」

 ワザとらしく、ニッコリと笑みを浮かべながら、カラルは、金貨を数枚テーブルの上に投げる。

 デブはその金貨を無視したが、数名の手下が、物欲しそうな目で、その動きを追っている。


「ふざけるな。お前みたいな面倒の種が店に来られると迷惑なだけだ。金は返すからさっさと出て行け」

 これ以上に無い怒りを抑えるように、デブは低くドスの利いた声でこちらを脅してくる。

 だが、その声に、どこか怯えが混ざっているようにも思えた。


「誰が命じた?」

 怯えは思い込みかもしれない。

 だが、これを一つの突破口に仕様と考え、カラルは強気でデブに問いかける。


「どういう意味だ?」

 少し考え込むようにして、デブはこちらの質問に応えた。

 そして、その回答を聞き、カラルは心の中で軽く笑った。


 デブの受け答えは失敗だ。

 こちらに本気で怒りを感じているのであれば、こちらの問いなど、無視して前と同じように追い返せばいいだけなのに、こちらの問いかけに応えてしまった。

 つまり、デブには何か思い当たり事があるのだろう。


「あの女はなんだ?」

 向こうに考える暇を与えるな。

 自分の手札はそう多くはないが、手持ちの札を利用して、目の前のデブから必要な情報を引き出すために、思いついた単語をぶつけてみる。


「…女?」

 デブは、何かを考え込むように、こちらの言葉を繰り返す。

 本当に何か思い出そうとしているのか。

 それとも、時間稼ぎをしているだけなのか。


「応える気はないのか?」

 そう言いながら、懐に手を入れる。

 その動作に、周りを取り囲んでいるチンピラ達が殺気立つ様子が目に入る。


「何のことか分からんな。誰の事を言っている?」

 だが、デブはこちらの様子に怯むこともなく、淡々と、言葉を返してきた。

 その目には、困惑と怒りが込められている。


「そうか。後悔するなよ」

 その言葉に嘘偽りが無いかは分からない。

 だが、この場でこれ以上話しても、水掛け論になるだけだろう。

 こいつは、話さない。


 そう理解した瞬間、カラルは、懐から手を出し、デブの座っている机に、それを放り投げた。

 ガチャン、と軽い金属音を立ててそれは机の上に落ちて転がる。

 同時に、周囲の取り巻きが、一斉にこちらに武器を向けてくる。


「これは?」

 そう言いながら、デブは目の前に落ちた物、鷹の意匠が彫り込まれたコインが取り付けられた指輪に手を伸ばす。

 あの女殺し屋が身に着けていた中で、一際目立った装飾品。

 何かの手掛かりになるかと思い、とりあえず回収をしておいたが、これを誰かに見せるのは初めてだった。


「心当たりは?」

 デブの表情を見ながら、ゆっくりと問いかける。


 デブは、指輪を手に取ると、取り付けられたコインに目を向ける。

 そして、彫り込まれた鷹の意匠に視線を向けると、それをまじまじと眺めると、指輪をこちらに放り投げて戻してきた。


「わからんね」

 デブは、こちらの問いに冷静に、淡々とした落ち着いた声色で返事をする。

 だが、その目には明らかに怯えの色が浮かび、無表情を試みたであろう表情には、明らかに動揺が広がっていた。


「そうかい」

 そう言いながら、指輪を受け取る。

 目の前のデブの様子を見るに、少なくても何かを知っては確かなようだった。

 だが、こちらに怯えを含んだ視線を向けながらも、何事もなかったように振舞う強い意志を見るに、目の前のデブが素直に何かを話すことは無いだろう。


 このまま問答を続けるか少し考え、カラルは、このやり取りを終えることにした。

 これ以上無駄な時間を過ごすことも無い。

 今は、このデブと、あの殺し屋の間に、何か繋がりがあることが分かれば十分だろう。


「悪かったな。金は、迷惑料として受け取ってくれ」

 指輪をしまうと、軽く頭を下げ、店の出口に向かう。

 これ以上、収穫も無いのなら、もうこんな所に長居は無用だ。


「おい待て!」

 だが、そんなカラルの動きを止めるように、デブの仲間達がカラルを取り込む。

 ご丁寧に、店の出入り口や裏口も、何名か武器を構えたチンピラ達が立ち塞がっている。


「勝手に荒らすだけ荒らして、この落とし前どうつけるつもりだ?端金で済む話じゃねーぞ!」

 頭が悪そうな細身の男が、こちらに唾を吐きながら怒鳴りつけてくる。

 その口から発せられる、低所得層特有の口臭、安い油と酒に、薬の臭いが混ざったような不快な臭いが鼻を刺激してくる。


 その不愉快さがカラルを苛立たせ、瞬間、カラルの目の色が、禍々しい紫色に変わる。

 同時に、カラルの中に、抑えきれないような破壊衝動が発生をした。


「いい。帰してやれ。金は十分だ」

 だが、デブの声が店内に響き、事態は一変した。


「えっ、でも」

 カラルに絡んでいたチンピラは、突然のボスの言葉に混乱をしたように言葉を発しながら、そちらに視線を向ける。

 同時に、カラルの中で広がっていた、禍々しい気持ちも収まり、目の色も元に戻る。


「二度と、この店に来るな。俺達は関係ない」

 デブは、その視線を無視して、カラルを睨みながら、低く、強い声で、一語一語絞り出すように言葉を発すると、カラルから視線を外し、目の前に置かれた酒を呷り始めた。

 そんなリーダー格のデブの動きに合わせるように、チンピラ達は、思い思い席に座り、酒を飲み始め、店内は、これまでの緊張が嘘のように活気を取り戻していった。


「それを決めるのは俺だ」

 デブに視線を向けて一言声をかけると、カラルは、その応えも聞かずに店を出た。

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