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12/17

昼に笑った日

ゼロが“広場に出てきた”という噂は、村中を駆け抜けた。


 正午。

 日差しは強く、広場の真ん中には、ぽつんと一匹の魔物が座っていた。


 角のある頭。

 ざらついた鱗の腕。

 口が悪くて、態度がでかくて、だけど目だけはどこか、笑っていた。


「……よぉ。日向ってのは、こんなにあったかかったか」


 ゼロは独り言のようにそう言い、地面に寝そべった。


 子どもたちは遠巻きに見ていた。

 大人たちは、通りすがりにちらりと視線を送って、すぐ目を逸らした。


 ――それでも、誰も追い出しに来なかった。



 昼休み。

 カナトが駆けつけると、ゼロは石垣に腰かけていた。


「遅ぇぞ。おれ様、日焼けしたらどうすんだ」


「鱗、焼けるの?」


「……知らねぇ」


「じゃあ大丈夫だよ、たぶん」


「その“たぶん”が信用できねぇ」


 ふたりは、何気ない会話を交わす。

 まるで昔からここにいたように。


 そこへ、一人の少女がやってきた。

 ゼロに花を差し出し、ぎこちない声で言う。


「あの……この間、相談のってくれて……ありがとう、ございました」


「は?」


「うちの兄、元気出たみたいで。だから、その……これ、少しだけど」


「花なんか、いらねぇよ。水やりめんどくせぇし、虫つくし、落ちたら掃除大変だし」


「……すみません……!」


 少女がしょんぼりしそうになった瞬間、

 ゼロは花をひったくるようにして受け取った。


「……でも、もらっといてやるよ。おれ様、王様だからな」


 少女は目をぱちくりさせたあと、小さく笑った。


「……また、来てもいいですか?」


「好きにしろ。次は相談料とるぞ」


「はい!」


 ぱたぱたと走り去る背中を見ながら、ゼロはつぶやく。


「……なあ、カナト」


「うん?」


「なんか、おれ様……昼に笑ってる気がする」


「そりゃあ、今、昼だし」


「そーいう意味じゃねぇ!」


「冗談だよ」


 カナトも、同じように笑った。



 あの日、崖の下で出会ったふたり。

 その片方が、いまこうして“日の当たる場所”にいる。


 たったひとつの勇気と、

 たったひとつの諦めなさが、

 少しだけ世界を変えていく。


 ゼロは花を鼻先に近づけて、照れくさそうに言った。


「におい、わかんねぇな。花の香りって、どれが正解なんだ?」


「たぶん、それが正解だよ。笑えるくらい、へんな匂いでも」


「……ふっ。やっぱおれ様、正解だったか」


 ふたりの笑い声が、広場にぽつりと咲いた。

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