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Dystopia  作者: 団子餅
1/1

His Curse

 

 この腕の正体を知った時、俺は真っ当に生きるのを諦めた。


 ◆


 突き刺す。右肋骨を砕き、彼の心臓を握り潰す。男は白目を剥き、血を吐いて絶命した。男のポッケを漁ると八本のタバコとライターが入っていた。良い収穫だ。そのうちの一本に火をつける。ローライトの17ミリ。愛煙家というわけでもないけれど、タバコは嫌いじゃない。あれば吸うし、なければ吸わない。義手についた血を男の服で拭う。臭いは取れないけど、見た目は元通り。太陽の光を反射して煌めいている。

 この腕は呪いの腕だ。

 切り落とそうとしても、勝手に動いて切り落とせない。まるで奇生生物のように意識を持っているかのようで、気味が悪い。でも、この腕のおかげで俺は今日まで生きてきた。

 この腕で、たくさんの人間を殺してきた。

 あの男は言っていた。

 『この腕で世界を救ってくれ』と。そんな希望に満ち溢れたものじゃない。この腕はただの殺人鬼だ。

 

 「お前が噂の『右腕』だな」

 『右腕』なんてコードネームが勝手につけられていた。そのままじゃないか。

 「ふん、随分とガキじゃねえか。おい、朝倉。斎藤さんとこ連れてくぞ」

 背の高い男はタバコを吸いながら、隣にいた背の小さい男にそう言った。チビは、へい、と返事をするとジャケットを脱いで、ワイシャツ一枚になった。

 「大人しく着いて来てくれりゃあ、楽なん…」

 ノッポが宣戦布告を終える前に駆け出す。ノッポの心臓目掛けて右腕を突き出す。

 が、右腕はノッポの心臓ではなく虚空を突いた。

 「歩いてるのかと思ったぜ」

 右からノッポの声が聞こえる。それと同時に左にいたチビが殴りかかってきた。

 体を捻って左足でチビを蹴り飛ばす。左足の脛はチビの首にめり込み、ゴキっと鈍い音を鳴らした。チビの首はありえない角度で曲がり、そのまま地面に倒れ込んだ。

 「おいおい困るぜ。大事な部下によ」

 ノッポがタバコを捨てて襲いかかってくる。チビよりも速いし、隙がない。ラッシュを間一髪で躱し続ける。右、右、左、左、右、左。旗揚げとなんら変わらない。

 避けるのも飽きたので、男の右手首を掴む。そのまま上に持ち上げて、捻る。ノッポはうっ、という呻き声をあげた。せっかく捕まえたので、離すのは勿体無い。そのまま左手でノッポを殴りまくる。ガードする余裕もないようで、マシンガンのようなラッシュ全てをモロに食らっている。拳が血だらけになったところで、蹴り飛ばす。アスファルトの地面に激突し、ノッポは気を失った。あっけない。

 チビの衣服を漁る。特に目ぼしいものは入っていない。ノッポの方も漁る。なんと拳銃を持っていた。使わなかったのはしょうもないプライドのせいだろう。使っても結果は同じだっただろうけど。

 こんなにいいスーツを着ているのだ。ただチンピラということはないだろう。しかも俺を知っていて、俺を誰かに会わせようとしていた。後先考えずに行動するのはやめよう。

 しょうがないのでノッポが目を覚ますまで待つことにした。

 すると、先にチビが目を覚ました。起き上がろうとすると、首に激痛が走ったのか、嘔吐した。騒がれると面倒だ。立ち上がってチビの元まで歩く。叫ぶこともできずに、怯え切った表情で俺を見ていた。

 顔面を蹴り飛ばす。首がまた変な方向に曲がっていた。今度こそちゃんと死んだようだ。

 気を失ったノッポを担いで、その場を後にする。

 相変わらずタバコが美味い。



 廃墟マンションの一室…とも呼べない。

 外壁は崩れて、太陽の光が部屋中を照らしている。地上四階ということもあって、無駄に景色がいい。こんなに景色がいいのに、ここはただの地獄だ。日本再生を掲げて集まった同志が、今では分裂しまくって殺し合いをしている。『鋼鉄』『黒金』『髑髏』『八戒』だの、馬鹿馬鹿しい武力組織がこの地を闊歩している。さらには『焔子』なんていうカルト宗教もある。人間ほど愚かな生き物はいないも断言しても、もう誰も否定しないだろう。

 部屋の壁には四肢の骨を折ったノッポが横たわっている。あれから二時間経ったのでそろそろ目を覚ましてくれると有難いのだが…。

 「うっ!!」

 良いタイミングだった。ノッポはチビ同様起きあがろうとしていた。しかし四肢が折れているので立ち上がることができなかったようだ。

 「い、いてえ…!」

 「正直に話せば殺さない。どこの組織だ」

 「ふん、仲間は売らねえよ」

 「そうか」

 右腕をハンマーに換えて、男の右足を叩き割る。

 「ぅあああ…っつあ」

 涎と鼻水を撒き散らしながら、激痛に耐えていた。右足を押さえようとして折れた両手を無理矢理動かしている。

 「次は左足だ。もう一度聞くぞ。どこの組織だ」

 「…言わねぇょ…」

 左足を叩き割る。骨と血が部屋の床に散乱する。

 男は叫ぶこともせずに上を向いて白目を剥いた。空気を吐くと同時に絶叫めいた泣き声をあげている。

 「最後だぞ。どこの組織だ」

 「っう……斎藤さん…が…お前…を…」

 「斎藤はどこにいる」

 「…死んじまえ、馬鹿野郎…」

 「そうか。死ぬまで苦しむと良い」

 そう言って部屋を後にする。

 「待て…!殺して…いけ!!殺してくれ!クソッ……ああああああああ!!」

 男の縋るような叫び声が聞こえる。

 (斎藤か…とっとと見つけて…)

 右腕を見る。血は一滴もついておらず、キラキラと煌めいている。


 ◆


 「餅井と朝倉が死にました」

 「『右腕』か」

 「そのようです。朝倉は脳挫傷と骨折。餅井は拷問により死んだと」

 「噂通りの残虐さだな。それで、『右腕』は行方知らずか」

 「見つけ次第、今度は全員で襲いに行きます」

 「いや待て……俺が行こう」

 「え…危険です。いくら斉藤さんと言えど…」

 「おい南崎。俺が奴に負けると思っているのか?」

 「い、いえ…そういうわけではないです。ただ、相手の力量が未知数のため……」

 「はっはっはっ。まあ小手調べよ。なに、負けるわけないさ。勘だが、俺は奴と気が合う気がするんだ」

 「は、はぁ…」

 斎藤、と呼ばれた男は椅子の隣に置いてあった日本刀を手に取って立ち上がる。鞘から引き抜いた刀の刀身は暗い青色に変色してギラついていた。

 (『右腕』か…)

 彼はニヤリと笑うと勢い良く刀を鞘に収めて、歩き出した。

ありがとうございます。

完全不定期で書いていこうと思います

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