表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fated Oath ―誓約の果て―  作者: りんごあめ
第ニ章 真贋の饗宴─ Carnival of Blood
87/92

番外編2 正月とおみくじ

■ レナ・ファリス

魔術学院Eクラスの少女。控えめで、できれば普通に生きていたい派。初詣も「静かにお参りして帰る」つもりだったのに、気づけば変人三人と屋台の列に並んでいる。


■ レオン・ヴァレント

学院でもトップクラスの実力を持つSクラスの少年。無口で無愛想。信仰にも年中行事にも興味はないが、レナが行くなら同行が前提。


■ エリック・ハーヴィル

元Sクラスの好青年。今はEクラス所属。明るくて面倒見がいい常識人。初詣を成立させる推進力であり、同時にツッコミと空気調整役。


■ オルフェ・クライド

銀髪・紫眼のSクラス魔術師。護符も結界札も「効くかどうか」で見る理系。祠に対しても敬意より観察が先に出る。

挿絵(By みてみん)


 正月の学院は、いつもより静かだった。

 休暇で街に行く者も多く、回廊の足音も少ない。


 その静けさを破って、エリックが妙に張り切った声を上げる。


「よし、初詣行くぞ! 屋台もあるし、おみくじも引ける!」


「……学院の敷地内にある祠を“初詣”って言い張るの、さすがだよね」


 オルフェが淡々とツッコむ。


「細けぇことはいいんだよ。ほらレナも行こうぜ。気分転換!」


 レナは苦笑しながら頷いた。


 その横で、レオンは何も言わずに歩いている。


(この世界で、初詣に行く必要あるか?)


 顔にそう書いてある。だいぶ大きめの字で。

 だがレナが行くのなら、ついていくのだった。


***


 祠は学院の奥、石畳の小道を抜けた先にあった。

 小さな祠。「魔除け」の札が結界っぽい雰囲気を出している。

 その結界札の横に、なぜか「露店許可」の札が貼ってあった。


「ほら、ちゃんとそれっぽいだろ!」


 エリックが誇らしげに言う。


 祠の前だけ屋台がずらりと並び、甘い香りと油の匂いが混ざっている。串焼き、香草茶、護符、魔除けの鈴。


 オルフェは少し離れて歩きながら、屋台の護符を手に取っては戻していた。興味深そうに見ているのに、買う気はない顔だ。たぶん“効くかどうか”しか見ていない。


「おみくじ、あるって!」


 エリックが嬉しそうに言って足を止めた。


 木箱の中に巻かれた紙がぎっしり入っている。横には「引いた紙があなたの運勢」と書かれた札。


「やろうぜ。新年っぽい」


「……うん。やってみたい」


 レナが頷く。


 オルフェも「まあ、データとしては面白い」と言って手を伸ばした。

 レオンは──無言のまま、しかし“参加するのが当然”という顔で箱を見ている。


 エリックが勢いよく引いて、紙を広げた。


「中吉! えーと……『人望あり。友人増える』……は? 俺、今でも充分友達いるけど?」


 レナがくすっと笑う。


「増えるんじゃない? 良かったね」


「え、じゃあ俺、今年さらに人気者!? やった!」


「ただし、調子に乗ると失う」


 オルフェが即座に釘を刺した。


「なんでそういうこと言うの!?」


 次にオルフェが引く。

 紙を開く指がやけに丁寧だった。


「吉。『研究、順調。倫理は置き忘れる。拾え。事故には気をつけよ』」


「神様から直々に“拾え”って言われてるぞ」


「神が俺に倫理を期待するのがまず間違いだよ。それに事故など起こしたことないが」


「それフラグだよ!」


 エリックが即ツッコミを入れる。


 レナもそっと引いて、紙を開いた。


「末吉……『周囲の力を借りよ』」


 レナが少しだけ首を傾げた、その瞬間。

 レオンが頷いた。頷き方だけが、やけに強い。


「借りろ」

「うん……」

「特に、俺の」

「う、うん……」


 レナが赤くなって俯く横で、エリックが目を丸くする。


「え、今の文にそんな『特に俺の』ってニュアンスあった?」


「ない、本人が付け足した」


 オルフェが即答する。


「……次、レオンだな」


 エリックが急に慎重になった。


 そのとき、背後の人波が一瞬だけ割れた。

 白いコートの青年が、祠の影を横切る。

 視線だけこちらに落としている。


 その一瞬を見たレオンが、眉だけをほんの少し動かす。


「……嫌な予感がする」


 レナが反射的に振り向いた時には、もういない。


 レオンが紙を開く。空気が、わずかに冷える。


「……凶」


 レオンの一言にエリックが「えっ」と声を漏らし、レナが思わず紙を覗き込む。

 オルフェだけが、ほんの少しだけ口角を上げた。


 そこには、妙に具体的な文言が並んでいた。


『執着は身を滅ぼす。手放せ。兄に会う兆しあり』


 レオンの眉が、初めて分かりやすく歪んだ。

 紙が握り潰される音がした。


「……何だ、これは」

 

 低い声が、静かに落ちる。


 レナが慌てて言う。

 

「え、えっと……おみくじだし、そんな深く──」


「神はどこにいる? 殺してくる」


「正月から物騒なこと言わないで!」

 

 レナがレオンの袖を掴んだ。


 その間にエリックは紙を指でなぞりながら、心底わからない顔をした。


「え、兄? レオンって……兄いるの?」


 オルフェは笑みだけ保っている。目は笑っていない。


「……いない」

 

 レオンは冷たく吐き捨てた。


 その時、オルフェが追い打ちを入れた。


「レオン、君は家族運がいいみたいだ。さっき君の兄さんいたよ」


 声は柔らかい。中身は、嫌味として完璧だった。


「黙れ」

 

 レオンが低く言う。


 エリックは空気を変えようとして、屋台を指差した。


「よし! 屋台に行くぞ! 魔獣肉串、買おう。脂と一緒に厄落とししてくれるらしい」


 四人が屋台へ向かう。

 喧騒と笑い声が、冬の空気に軽く跳ねた。


 レオンは最後に、握りしめたおみくじをちらりと見下ろして、紙の端だけを破った。


 『手放せ』の行だけ、ちぎって捨てる。


 そして、何事もなかったようにレナの隣へ戻る。


「……よし」

 

「何が“よし”なの……?」

 

 レナが小さく呟くと、レオンは真顔で頷いた。


「手放した」


 今年も、騒がしい。

 そしてたぶん、平常運転だった。

 

読んでいただきありがとうございました!

ブクマやアクション、⭐︎評価など頂けると励みになります。

これからも頑張りますので、よかったらよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ