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Fated Oath ―誓約の果て―  作者: りんごあめ
第一章 絡まる運命 ─ Entwined Fates
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第26話 プレゼントを買いに来ただけなのに

夕暮れの街は、学生たちの喧騒と、商人たちの掛け声で賑わっていた。


「わぁ……やっぱり放課後は人が多いね」


レナが嬉しそうに声を上げる。彼女の手には、薄く折りたたまれたメモ帳。そこには走り書きで「レオンの好きな色」「学院で身につけてた小物」などの情報が記されていた。


(……いや、そんな真面目に分析してんのかよ。こわ)


エリックは隣で苦笑しながらも、そっと視線を街路の上空に向ける。結界感知、魔力索敵、空間の歪み。異常は──なし。


……にも関わらず、寒気が止まらなかった。


(これ、絶対どこかから見られてる……)


背筋を這う悪寒。胃の奥が絞られる。


「ねえ、何がいいかな?」


レナの声に振り返ると、彼女はアクセサリー屋のウィンドウを覗き込んでいた。


「実は、最近ちょっとずつバイトしてたんだけど……どれも失敗しちゃって。資金、あまりなくて」


そう言って、レナは困ったように笑った。心からの笑み。飾らず、穢れのない表情。


「……はあ」


エリックは深いため息を吐き、額を押さえる。


「まあ、プレゼントってのは、金じゃなくて……真心だし。うん、たぶん」


「そうかな?」


レナは嬉しそうにエリックを見上げた。だが、エリックの心にはひとつだけ、どうしても消えない疑問があった。


(……“あいつ”に、真心って通じるのか?)


 レオン・ヴァレント。


暗殺も、脅迫も、裏稼業も、狂気も、その全部が“レナのため”なら平然と成される男。その男に、“心を込めたプレゼント”が届くのだろうか。いや、届いたら届いたで、また面倒なことになりそうな気がしてならない。


(……これ俺、巻き込まれてないか?ど真ん中で)


エリックは無意識に辺りを見渡した。夕暮れの雑踏。だが、何かが“いる”。気配がないのに、気配だけがある。そんな矛盾が皮膚を撫でた。


「じゃあ、次はあっちの路地の店も見てみようか?」


レナが無邪気に歩き出す。エリックはその背中を見て、ぎこちなく笑った。


「……いいけど、なるべく目立たないものを選ぼうな。頼むから」


「うん?」


「いや、なんとなく、うん……そうした方がいい気がする」


 ──つまり、殺意が薄まる可能性が1%でもあるなら、全力でその選択を取るしかない。


そんなサバイバル感覚を胸に、エリックは今日も“命がけの付き添い”を続けていた。




***




魔術雑貨店のショーウィンドウに映る自分をぼんやり眺めながら、レナは深いため息をついた。


(レオンに渡す誕生日プレゼント……うーん、何がいいんだろ)


悩んだ末に、少しだけエリックと別行動を取ることにして、人気の通りへと足を伸ばす。通行人のざわめき、屋台の呼び声、どこか甘い香り。学院近くの商業区は賑わっていて、なんとなく浮ついた気分になれる。


「お嬢ちゃん、可愛いね。迷子かい?」


声をかけてきたのは、派手なシャツを着た中年の男だった。明らかに品のない目つき。レナは一歩、後ずさる。


「あ……いえ、大丈夫です……」


「そんな怖がらないでさ。一緒にお茶でも──」


そのとき、背後からスッと人の気配が現れた。


「おーい、探したぞ。レナ、次の店こっちだって」


エリックが何でもない風を装って、レナの腕を自然に取った。男は舌打ちをして去っていく。


「ありがと……」


「まったく、目を離すとすぐコレだな。気をつけろよ?」


苦笑する彼の声には、少しだけ緊張が混じっていた。



***



その後、レナは近くの屋台で見つけた“期間限定ミルクアイス”に目を輝かせ、外のテーブル席で待機することになった。

エリックが注文の列に並んでいる間、レナは鞄の中のメモを取り出して、改めて買い物の計画を見直す。


(アクセサリーも良いけど……あの人、似合うかな?一体何を渡したら喜ぶんだろ)


その時、前方で聞き覚えのある声がした。


「あれ? レナさん?偶然だね!」


学院の制服姿の女子生徒が近づいてくる。確か、教室は違うけど同じEクラスの……名前は思い出せないが、派手な女の子だったので覚えていた。


「こんにちは。どうかしたの?」


「うん……あのさ……少しだけ、お金貸してくれないかな」


「え?」


「金貸しに借りちゃってて……返さないとヤバいって……あ、やばっ、来た──!」


その言葉と同時に、男たちが路地の向こうから姿を現した。黒服の2人組。目が合った瞬間、レナは理解する。


「走って!」


(え、待って。なんで私まで!?)


少女に腕を引かれ、レナは訳も分からないままその場を離れた。



***



「……嘘だろ?」


アイスを受け取って戻ってきたエリックの前には、空になったテーブルと、ほんの少しの風だけが残っていた。


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