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東京ラビリンス  作者: 瑞原唯子
本編
64/68

63. 曖昧な境界線(最終話)

 十年後——。


 たびたび流れるアナウンスと途切れることのない雑踏の中、悠人は通行の邪魔にならないよう端の方に立っていた。ロビーには椅子も用意されているが、はやる気持ちのためか座る気にはなれない。特に意味もなく大きな電光掲示板を眺めながら腕を組むと、ふと周囲の慌ただしさが増したような気がして、腕時計を確認する。

 そろそろか——。

 到着した人々が出てくる場所に目を向ける。十数人ほど立て続けに出てきたあと、彼が姿を現した。遠目だが長年の親友を見間違いはしない。スーツケースや大きな旅行鞄を持った人が多い中、彼はボストンバッグひとつという身軽な格好をしていた。

 彼もこちらに気付いているようだ。探す素振りもなくまっすぐ進んでくると、悠人の前で足を止める。そのまま互いに真顔で対峙していたが、やがて彼の方がふっと柔らかく目を細めた。

「ただいま」

「おかえり」

 大地が日本の土を踏んだのは十一年ぶりである。

 もっとも、悠人は年に数回ほどドイツに出張して彼と会っており、また日頃から頻繁に連絡も取り合っているので、感動の再会というわけではない。それでも日本で彼を迎えるというのは感慨深いものがある。ましてや十一年ぶりの帰国となる彼の方はなおさらだろう。

「澪は?」

 彼女の姿を探すように、大地は軽くあたりを見まわして尋ねる。

「渋滞に巻き込まれて少し遅れるそうだ」

「一緒に来たんじゃないのか」

「互いに仕事の都合があるので現地集合にした」

「ったく、出迎える方が遅れてどうするんだよ」

 そう笑った彼の目元に皺が浮かんだ。ところどころに年齢を感じるが、雰囲気は昔のまま変わっていない。内面もそれほど成熟したようには見受けられず、今も何かにつけて悠人をからかっては面白がっている。しかし、からかわれても昔ほど頭にくることはなくなった。大地のことは今でもまだ理解しきれていないが、必要とされていることだけはわかっているのだから。

 ジャケットの内ポケットで携帯電話が振動した。見ると澪からのメールだった。

「あと、二、三十分かかるようだ」

「じゃあ、喫茶店で待っていよう」

 大地の提案に賛成し、この近くで落ち着けそうな店を探して入る。パスタなどの軽食も食べられるカフェで、座席がやや狭いのが難点だが贅沢はいえない。店員に注文したあと、カフェで待っていることを澪にメールで知らせておいた。

 さほど待たずに注文したものが運ばれてきた。

 悠人がコーヒーで、大地はパフェである。彼がカフェでこういったデザート類を頼むのはめずらしい。そこまで甘いものが好きなわけではないはずだが、たまたまそういう気分だったのだろう。盛りつけられたパフェをじっくりと眺めてスプーンで口に運ぶと、途端に顔をほころばせて満足げに頷く。

「やっぱりこういうものは日本の方が断然いいよな。上品で、繊細で、丁寧で、味はもちろん見た目にも気が配られている」

 このパフェがそれほど素晴らしいとは思わないし、ドイツでも良いパフェを出す店はあるはずだが、彼の言うことは何となくわかるような気がした。一般的に何においても日本の方が繊細で丁寧である。もしや、それを実感したいがためにパフェを頼んだのだろうか。

「あっちは何でも大雑把で不親切だからな。慣れるまでは苦労したよ」

 彼は生クリームをすくいながら軽く笑った。もともと日常生活に支障のない程度にドイツ語を話せたので、言語ではさほど苦労していないようだが、生活習慣や食生活、価値観、文化の違いには戸惑ったのだろう。たったひとりで、よくここまでやってこられたものだと思う。

「美人で巨乳の嫁さんは家にいるのか?」

 唐突にそう尋ねられ、悠人は口をつけたコーヒーカップをソーサに戻した。

「今日は仕事で帰りが遅い」

「ふぅん、仕事……ねぇ」

「あしたには会わせてやる」

 理由をつけて会わせないつもりではないかと疑っているようだが、邪推である。仕事が忙しいのは事実だ。二人とも悠人を通じて互いの存在は知っているが、面識はないので、この機会にきちんと紹介しておこうと考えている。

「息子は学校か?」

「そろそろ帰るはずだ」

「おまえに似てる?」

「性格はな」

「それは難儀だな」

 大地はスプーンを片手に愉快そうに笑う。

 彼にはこれまで家族のことをほとんど話してこなかった。彼女と結婚した、子供が生まれた、という簡単な報告くらいである。決して隠したかったわけでも蔑ろにしていたわけでもない。あまり興味を示さなかったので話さなかっただけだ。実の子を持てず、妻を亡くした彼に対する遠慮もあったのかもしれない。

「遥たちは?」

「きのうからホテルに泊まっている。準備もあるからな」

 明日は、遥の結婚式と披露宴だ。

 大地が一時的に帰国を許されたのはそのためである。戸籍上は遥の実父ということになっているので、世間体を考えれば呼ばないわけにはいかない。遥もそうするしかない事情は理解している。それでも可能な限り接触は避けようとしているようだ。彼自身のためではなく、妻となる女性を守るために。大地がしてきたことを考えれば当然の対処だろう。

 遥はすでに数年前から仕事で大地と関わるようになっていた。互いに橘の要職に就いている以上は避けようがない。今のところ直に顔を合わせる機会はまだないようだが、必要に応じてメールや電話で連絡を取り合っている。しかし、二人ともあくまで仕事の話しかしていないらしい。

「まあ、避けられても仕方ないけどね」

 遥の真意を見透かしたように、大地はアイスクリームにスプーンを差し入れながらそう言った。申し訳なさなど微塵も感じていなさそうな平然とした顔で。悠人は何となくではあるが嫌な予感がして眉を寄せる。

「妙なことを考えてないだろうな」

「結婚式をぶちこわしにするとか?」

「…………」

「おいおい、何て顔してるんだよ」

 冗談か本気かわからず探るように向けたまなざしを、彼は軽く笑い飛ばした。

「心配しなくても何もしやしないさ。おとなしく座っていればいいんだろう? スピーチも用意されたことしか言わない。下手をしたら今度こそ父さんに殺されるからな」

 彼が言っているのは十一年前のことだ。

 剛三はどんな事実が明らかになっても手を上げなかったが、澪を陵辱したときだけは本気で殴りつけていた。悠人が止めなければ一発ではすまなかっただろう。まさに殺さんばかりの勢いだった。それでも大地に反省した様子は見られなかったのだが。

「……恨んでいるのか?」

「父さんもおまえも当然の対応をしたと思っているよ。客観的に見ていかに最低な所業だったかは自覚している。ただ、僕の中では澪と結ばれるのは自然なことだったし、今でもある種の合意はあったと思っているけどね」

 大地は淡々と答える。そこに嘘はないように思えた。だとすれば——。

「メルローズの方か」

「確かにあの子を恨んだことはあったけど、今さら復讐しようなんて考えていないさ。さっきの些細な冗談が精々だよ。彼女が幸せになることに特に異存はない……僕には関係ないしね」

 まるで何の感情もないような取り澄ました顔をしているが、それが仮面であることはわかっている。悠人にはその奥に秘められた激情がちらりと垣間見えた。さすがに事を起こすほど愚かでないと信じているが、彼女の幸せを快く思っていないのは間違いないだろう。

 おまえは、幸せになる気はあるのか——?

 彼はいまだに変わることなく美咲への異常な執着を持ち続けている。あのようなかたちで彼女を喪ってしまったのだから、仕方がないのかもしれない。しかし、呪縛にも等しいその想いのせいで雁字搦めになっているようにも見えた。かつての悠人のように。

 ただ、それは悠人の想像でしかない。

 幸せのかたちは人それぞれである。もしかすると、美咲にいつまでも執着し続けることが彼の幸せなのかもしれない。どちらにしろこのような心配は余計なお世話でしかないだろう。わかってはいるのだが。

「何だよ、そんな顔して」

「どんな顔をしている」

「心底同情しているような」

「…………」

 端的に言い当てられてしまい、返す言葉を失う。その反応に彼はくすりと笑った。

「おまえが思うほど不幸じゃないさ」

 そう言いながらスプーンを置き、ゆっくりと身を乗り出しながら頬杖をつくと、唇に薄く笑みをのせて悠人を見つめる。遠慮のかけらもないまっすぐなまなざしで。

「こんな僕でも見捨てないでくれた人がいる。それが僕の生きる理由だ」

 静かに声が落とされた。

 からかっているのだとは思うが、そこに多少の本音があることもわかっているので、いちいち腹を立てることも動揺することもない。ただそこはかとない気恥ずかしさを感じつつ、それを悟られないよう努めて冷静に言い返す。

「言い過ぎだろう」

「少し言い過ぎかもな」

 大地は素直に認めて軽く笑うと、再びスプーンを手にとって目の前のパフェを食べ始めた。よほど気に入ったのかいたく満足そうな顔をしている。そんな彼を見て幾分か安堵しながら、悠人も湯気のおさまりつつあるコーヒーに口をつけた。


「澪!」

 大地は急に腰を浮かせて立ち上がり、手を振った。

 彼の視線をたどると、店の入口付近できょろきょろしている澪がいた。膝上丈の春らしい軽やかなワンピースに、黒の短いジャケットを羽織っている。こちらに気付くやいなやパッと顔を輝かせ、小走りで駆けてきた。

「すみませんでした、出迎えるはずがこんなに遅れてしまって」

「構わないよ、おかげで悠人とゆっくりできたしね。座って」

 そう促されると、澪は小さく頷いて迷うことなく悠人の隣に腰を下ろし、水とおしぼりを持ってきた店員にホットコーヒーを注文した。グラスの冷たい氷水で喉を潤してほっと息をつき、おしぼりに手を伸ばす。

「お父さま、老けましたね」

「まあ、多少はね」

 まじまじと見つめたあげく無遠慮な感想を口にする澪に、大地は苦笑した。澪が婚姻届持参でドイツを訪れて以来の再会だ。二人は電話どころかメールさえもしておらず、十一年ぶりに言葉を交わしたというのに、どちらも感慨に耽る様子はない。

「澪はあまり変わってないね」

「そう言われるのも微妙ですけど」

 今度は澪が苦笑し、背筋を伸ばしたまま肩をすくめる。

 子供のころは年齢より上に見られることも少なくなかったが、今は高校生のころからあまり外見や印象が変わっておらず、実際の年齢よりも若く見える。大地もそういうつもりで言ったのだろう。しかし、色気がないだの成長しないだのと篤史に言われ続けているせいで、彼女はそちらの意味で捉えてしまったのかもしれない。

「研究の方はどうしてる?」

「地道にやってますよ」

「美咲に追いつけそう?」

 そう尋ねられると、澪はこころなしか寂しげに曖昧な笑みを浮かべた。

「私ひとりでは無理です。でも優秀な研究員がいますから」

 彼女は天才ではなかった。大学はそれなりに優秀な成績で卒業したのだが、美咲の研究を継ぐには能力が足りなかった。本人もそのことを自覚していたのだろう。所長就任後、どこからか二人の研究員を連れてきたのである。二人とも天才だが性格に難があるという人物だ。それでも澪とは衝突することなく上手くやっている。いきなり突拍子のないことを言い出しても、澪はきちんと聞いて、理解して、真剣に検討してくれるので、今ではすっかり信頼を寄せているようだ。

 しばらくして注文したコーヒーが運ばれてきた。

 澪は砂糖には目も向けず、ブラックのまま口をつけてほっと一息ついた。

「離婚はしてないんだね」

 コーヒーカップに添えた澪の左手を目にして大地が言う。十年前の結婚式から変わることなく、薬指にはシンプルで上品なプラチナの指輪が輝いている。彼女は胸元で白いコーヒーカップを持ったまま、にっこりと微笑んで答える。

「家族三人、仲良く暮らしてますよ」

「子供がいるの?」

「ええ、娘がひとり」

「へぇ……」

 大地の瞳に仄暗い光がともった。

「美咲に似てる?」

「あした結婚式に連れて行きますので、ご自分の目で確認してください。ただし声は掛けないでくださいね。紹介するつもりはありませんので」

 予想していたのか、澪はうろたえることなく冷ややかに言い放った。

 その態度は、母親として娘を守るという意志の表れだろう。たとえ彼女自身は過去を水に流していたとしても、娘に関わることはまた別の話である。大地が興味を示したのであれば、なおさら近づけるわけにはいかない。その子も美咲の遺伝子を引き継いでいるのだから。

「警戒してるんだ?」

「当然です」

 少し苛立ったように答えて再びコーヒーを口に運んだあと、カップを戻しながら尋ねる。

「お父さまは再婚しないんですか?」

「僕は美咲しか欲しいと思えなくてね」

「……そうですか」

 澪は一瞬困惑を滲ませたものの、どうにか相槌で受け流す。

 しかしながら大地は逃げることを許さなかった。伏し目がちになる澪を、頬杖をついて覗き込みながらじっと見つめる。そのまなざしは、今にも食らいつかんばかりにぎらついていた。

「久しぶりだよ。こんなに血肉の沸き立つ感覚は」

「おい、おまえ……」

 さすがに黙っていられなくなって、悠人は横から口をはさむ。からかっているだけなのか、本気でそう思っているのかはわからないが、澪の古傷を抉る言動を無視するわけにはいかない。そう思ったのだが——。

 彼女はすっと視線を上げて大地を見つめ、微笑んだ。

「変な気は起こさないでくださいね。私、少しですけど、武蔵やメルローズと同じ力を使えるんです。たとえ両手両足を拘束されたとしても、お父さまを弾き飛ばすくらいわけないですから」

 明るいながらもはしゃいだところのない口調で、冗談めかしたように言う。とはいえ冗談ではなく本当のことだ。武蔵に訓練を受けて潜在能力を引き出すことに成功し、少しだけ生体高エネルギーを発動できるようになっていた。たいした威力はないが護身用には十分といえるだろう。

 大地は両の手のひらを上に向けて、肩をすくめた。

「つれないね。あんなに燃え上がった仲なのに」

「誤解を招く言い方はやめてください」

 動じるでもなく、怒るでもなく、たいしたことではないかのように冷ややかに窘める。もしかすると本心を隠しているだけかもしれないが、これだけ平静に対処できていればとりあえずは大丈夫だろう。

「生まれて初めてかな、失恋したのは」

「なにバカなこと言ってるんですか」

 それでも失恋発言にはさすがにギョッとした様子を見せていた。が、まんまと挑発に乗ってしまったことに気付いたらしく、すぐに不本意そうに口をとがらせて上目遣いで睨んだ。いきり立つ気持ちを鎮めるようにコーヒーを流し込み、ふうと小さく息をつく。

 しかし、大地の言ったことは案外本当なのかもしれない。彼が自ら請い求めた人物は片手におさまるほどしかおらず、そのうち拒絶したのは澪ただひとりだけである。もっとも、その気持ちが恋かどうかは微妙なところだ。一般的な観点でいえば違うような気がするが、彼自身が本気でそう思っている可能性はある。

 いまだに、おまえが何を考えているのかわからない——。

 四十年以上の付き合いである悠人がそう思うのだから、澪にはもっとわからないだろう。十一年前に本音を聞いて見えてきた部分もあるが、それでも思考回路が特殊なので、根底は単純でも言動が不可解に感じることが多い。そういうところが腹立たしく、憎らしく、そして離れがたくさせられるのだ。


「あしたもいいお天気になりそうですね」

 外に出ると、澪はハンドバッグを後ろ手に背筋を伸ばし、穏やかな青空を仰ぎ見ながら息を吸い込んだ。心地よさそうに微笑を浮かべて目を閉じる。ほのかにあたたかいそよ風が、くせのない長い黒髪をさらさらと軽やかに揺らしていた。

「なあ」

 隣に立つ大地は、空を見上げながらぽつりと声を落とした。

 澪は不思議そうな顔で小首を傾げて彼を見上げる。

「どうして迎えに来たんだ?」

 それは悠人も気になっていたことだった。もともと悠人がひとりで迎えに行くつもりだったのに、彼女の方から自分も一緒に行きたいと言ってきたのである。大地の帰国を心待ちにしていたわけではないはずだ。それでも彼女なりに何か思うことがあるのだろうと、あえて理由は尋ねなかったのだが。

「……自信がなかったんですよ」

 澪はしばらく無表情で逡巡したあと、口を開いた。

「お父さまと会って、どんな気持ちになるかわからなかった。冷静でいられるのか自信がなかった。結婚式で取り乱したり動揺したりするわけにはいきませんから、前もって会っておいた方がいいと思ったんです。娘にみっともないところを見せたくないというのもありますし」

 話が途切れ、隣の大地はちらりと横目を流す。

「で、どうだった?」

「わりと平気でした」

 澪はにっこりと笑顔で答えた。黒髪をなびかせて上空を見やり、目を細める。

「子供のころってもっと単純だったと思うんです。良い悪いも、好き嫌いも。でも、年を重ねて経験を積むにしたがって、だんだんと境界が曖昧になっていって。それが良いのか悪いのかはわかりませんけど、きっと仕方のないことなんですよね」

「僕の気持ちも少しはわかった?」

「さあ、どうでしょうか」

 彼の方を見ようともせず煙に巻くようにそう言うと、一呼吸おいて言葉を継ぐ。

「私は選択を誤りたくありません。決して自分を過信することなく、他の人の意見にも耳を傾けて、けれど安易に流されないように、自問自答を繰り返して慎重に決断するようにしています。昔の自分を裏切りたくはないですし、みんなの信頼を失うのも嫌ですし、それに……」

 彼女は真顔になり、ゆっくりと隣の大地に向き直って目を見つめる。

「何より、大切な人を悲しませたくありませんから」

 それは自分自身に向けた言葉であり、大地に向けた言葉でもあるのだろう。彼も気付いているようだ。澪に振り向いたまま曖昧に微笑んでいる。その表情に滲むものは、後悔なのか、反感なのか、悲痛なのか——悠人にはわからない。

 飛行機の飛び立つ音が大きく響く。

 そのとき大地の口が動いたが、声は離陸音にまぎれて悠人の耳には届かなかった。しかし、大地のすぐそばにいた澪には聞き取れたようで、彼と目を見合わせたまま若干表情をやわらげる。その横顔がどことなく寂しげに見えたのは、気のせいだろうか——。

「行きましょうか」

 澪はそう言うと、怪訝な顔をしていた悠人に振り向いてくすりと笑い、ワンピースをひらめかせて颯爽と歩き出す。すぐに大地もあとを追うように足を進め、悠人も小さく呼吸をしてから足を踏み出した。

 空港の喧噪が次第に遠ざかっていく。

 三人の前には、水色の空がどこまでも続くかのように広がっていた。


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