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第九話 生前の仲

 祭りの日から三日が過ぎた。僕はレジの前でお客様が来るのを待っていた。今日はもう包装の仕事は無いし、お客様も居ない。……正直、暇だ。

 寝る前に読む本を考えているとお客様がやってきた。バーコードを読み取り、ブックカバーをつけるか質問をする。するとお客様は「あれ、その声……」と独り言ちた。


「? ……ユリアン、知っているのですか?」

「?」


 僕はそこでお客様の顔を見た。青い目に、白い髪。髪は1つに結んでいて黒色の着物を着ている。数日前に出会った人_正確に言えば別人だけど_がそこに立っていた。隣には前髪が長くて白いマフラーを巻いた男性が居る。髪の色で判断するけれど、去るときに言っていた「兄さん」なのだろうか。


「あいつが先日の祭りで出会った子だよ」

「へぇ、あの子が……」


 ……お兄さんの視線が痛い。目が隠れているから判りづらいけど、視線が本当に痛い。なんか背後に負のオーラが見える気がする。敵意とでも言えばいいのか。


「………………」

「あ、あの……それで、ブックカバーはお付けしますか?」

「ああごめんなさい。お願いします」


 会計が終わり、2人は店を出る。その後はつつがなく業務が終わった。


 ・


 数日後の休日。僕は繁華街で買い物をしていた。主用を済ませ、何をしようかと思いながら街をぶらぶらしていると、誰かに声をかけられた。後ろを見るとカメラを持った赤髪の女の子が小走りでこちらへ来ていた。羽尾(はお)さんだ。


永夢(えいむ)クン! こんなところで会うなんてキグウっすね!」

「奇遇だね。アワネちゃんはどうしてここに?」

「動画用の小道具を買うついでに写真撮ってました!」


 彼女はカメラを抱えてにぱりと笑う。SNSに投稿するための写真だろうか。僕たちは会話に花を咲かせながら歩いていると彼女は誰かを見つけたようで「おーい!」と言いながら手をブンブン振った。視線の先を見ると、白髪の青年とそのお兄さんが歩いていた。彼らは振り向くと彼は軽く手を振り、お兄さんは彼の後ろに隠れた。


「まさかまさかユリアンくんとも出会えるとは! 調子はどうっすか?」

「僕は元気だよ。兄さんも、今日は幾ばくか調子が良いみたい。……そこの少年とも再開するとは、これも何かの縁なのかな?」

「ん? 知り合いなんすか?」

「ああ、もう1人の僕とね」


「ね?」とユリアンさんは笑い僕を見る。すごく完璧な笑顔だ。僕は戸惑いながら頷くと、彼女はへぇ! と頷き僕の肩に腕を回した。


「それなら自己紹介の必要は無いっすね? じゃあ喫茶店に行きましょうよ! 最近できたホットな喫茶店に!」


 僕たちは拒否する暇もなく羽尾さんに連れられて裏路地の喫茶店へやってきた。

 店内はアンティーク調に飾り付けられ、上品な印象を受けた。店員はメイド服や燕尾服を着ており、僕たちは窓際にある四人席に案内された。僕と羽尾さん、彼とお兄さんが隣同士だ。注文を終え、沈黙が流れた。


「……そ、そういえばさ。アワネちゃんと……えと、ユリアンさん? ってどういう関係なの……?」


 沈黙がいたたまれなくなり質問をする。彼は「ユリアンで合ってるよ」と微笑み、羽尾さんは顎を手に乗せ唸った。


「生前の仲_とでも言いましょうか。彼らのお祖母様と関係がありまして、お盆や正月に遊ぶような仲だったんですよ」

「君が死んじゃった時は本当にびっくりしたよ。こうもあっさりと死んじゃうんだなって……」

「それを言うならワタシもですよ! まさかこんなにも早く再会するなんて思ってなかったものですから」


 羽尾さんが下を向く。お兄さんは彼女の方に頭を向けている。彼女のことを心配しているのだろうか? 彼は僕が見ているのに気づくと顔を背けた。


「……そういえば、ユリアさんとこうして会うのも生前ぶりですね」


 彼女はお兄さん_ユリアさんの方を見る。ユリアさんは下を向いて何も喋らない。……そういえば、マフラーは取らないのだろうか。そんなことを考えているとユリアンさんが口を開いた。


「兄さんはちょっと、人と関わるのが苦手になってしまったんだよね」

「あら、それは……なにか深い事情があるのですね。詮索はしませんよ。ただ、ワタシは今まで通りに接しても良いですかね?」


 羽尾さんの言葉に、ユリアさんはゆっくりと頷いた。ここまで話したところで注文したものが来たようだ。僕と羽尾さんは苺のパンケーキを、ユリアンさんはブラックコーヒーで、ユリアさんはクリームソーダを注文した。


「わ、わ! 見てくださいよこのパンケーキ! 分厚い上に3枚もありますよ!?」

「クリームもめちゃくちゃ多い……初めてかも、こんなに豪華なパンケーキを食べるの」

「兄さんのクリームソーダもすごいね! ……食べ切れる?」


 ユリアさんはコクコクと頷く。その様子を見た彼は嬉しそうに笑った。

 食事は皆無言で食べた。会計を終え外に出る。時刻は午後3時をすぎたところで、これからどうするかを話していると_。


「あ、あの!」


 声をかけられた。いっせいに声のした方を見ると、赤茶色の髪をした女の子が立っていた。白のブラウスに赤いスカートを履いた、小さな子だ。


「どうしたんすか?」


 羽尾さんはそう言いながらしゃがむ。女の子は顔を赤らめさせて「えっと、あの……」と吃った。


「もしかして、お姉ちゃんのお友達ですか?」

「お姉ちゃん?」

「あ、えっと。わたし、小鳥遊(たかなし)まひるって言います」

「……もしかして、ひまりの?」


 ユリアンさんがそう言うと、まひるちゃんの表情はパァっと明るくなり「そうです!」と肯定した。


「……ひまり」


 ユリアさんがボソリと呟く。表情は判らないけれど、後悔と懐かしさが混ざったような声だった。


「あ、あのさ……まひるは、私たちのことを知っているんですか?」

「はい! たまにお姉ちゃんに会いに現世へ旅行に行っているんです。あと、毎日観測所に行ってるので……お二人のことは、よく知っています」

「……そう」


 彼は頷くと、まひるちゃんの傍に近寄り彼女の顔をジッと見た。


「……ひまりに似ていますね」

「そ、そうですか? 嬉しいです!」


 彼女はえへへと笑うと、僕たちのほうを見た。どうやら2人と話がしたいようだ。僕たちはユリアンさんたちと別れて近くのベンチで休憩をすることにした。羽尾さんはぼぅっと空を眺めている。それにつられるように、僕も空を見た。雲ひとつない晴天だ。


「なんか、この国で生前の知り合いに出会うと、何とも言えない気持ちになりますね」

「……そうかも。僕も、奈子さんとここで出会ったら複雑な気持ちになるな」

「奈子さん? ……って、誰っすか?」

「僕の育て親だよ」

「あー、育て親。確かにそれは複雑っすね。……母様は元気にしてるかなぁ」


 彼女が呟いた言葉に、僕は声をかけようとして辞めた。声をかけても無駄だと思ったから。羽尾さんは頬を掻くと「そう言えば」と話を切り替えた。


「永夢クンは、この国での生活は楽しいですか?」

「楽しいけど……どうしたの?」

「ワタシも、この国の生活は楽しいです。好きなことができるし、眠らなくても平気だし。……でも、どこか虚しい」


 虚しい。そんなこと考えたこともなかったな。どうしてそう思うのか聞くと、彼女は笑顔を浮かべて答えてくれた。

 孤独を感じてしょうがない。

 自分が今こうして交流している人たちは皆、幻覚なんじゃないかと思ってしまうのだ。自分は今長い夢を見ていて、目が覚めたら何もない空間に居るんじゃないかと。


「現実感が無いんです。自分の脚でこの地に立っているはずなのに、ふわふわとして、まるで夢みたい」


 夢。僕は現実世界より夢の世界に居た時間のほうが長いから違和感を覚えていないだけなのだろうか。……羽尾さんがこんな気持ちを僕に吐露するとは思っていなかった。何か言うべきなのだろうか。でも、何を言えば良いのか判らない。


「はは、生前の知り合いと再会したからでしょうか。ちょっと落ち込んでるみたいです。今日は一緒に食事をしてくださりありがとうございました! ワタシはこれで失礼します」

「あ、うん。バイバイ」


 言葉に迷っていると、彼女はそう言い残し去っていった。

お読みいただいてありがとうございます。

これからもがんばって続きを書いていきますので、ブクマやこの下の星でポイントをつけて応援していただけるととても嬉しいです。

どうぞ、よろしくお願いします!

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