第八話 お祭り
浴衣を着た人達が道を歩いている。両端には屋台が所狭しと並んでおり、店員が呼び込みをしていた。
僕は今、ゲッコウシティで開催されている祭りに赴いていた。いつもの3人を呼びはしたものの3人とも用事があるようで、1人で来ている。
りんご飴や焼きそば、射的など、様々な屋台を楽しんでいると、見知った人影が見えた。緑色の帽子につなぎ、ガタイのいい後ろ姿は_。
「た_」
名前を呼ぼうとしたところで踏みとどまった。彼が誰かと話しているからだ。肩甲骨まである白い髪を下の方で1つに結んだ男性と話をしている。喧騒でどんな話をしているか判らないが、男性の楽しそうな表情を見るに雑談でもしているのだろうか。
「あれ? タイヤンくん、お客さんが居るみたいだよ」
このままスルーするか彼らが話終わるまで待つか悩んでいると、男性は僕を指さしてそう言った。タイヤンさんは振り返り僕を認識すると驚いたように目を丸めた。
「永夢、居たのか」
「……ああ! その子が新しく出来たっていうお友達? 初めまして朔間くん。俺はファン。ファンって呼んでよ」
「は、初めまして。……タイヤンさんとはご友人なんですか?」
「んん〜……まぁ、大体そんな感じ?」
ファンさんは顎に手を添え悩ましげな顔でそう言った。
「まぁそんなことはどうでもいいでしょ! それより朔間くんはタイヤンくんになにか用でもあるんじゃないの?」
「ん。なんかあったのか?」
「いや、特に用はないけれど……ここで何をやってるのかなって」
「ファンに"今日は絶対お祭り行くから護衛として一緒に来て"って言われてな……本当はお前の誘いに乗りたかったんだが」
「やだな〜タイヤンくん! そんな目で見ないでよ、照れちゃうからさ!」
「それより!」とファンさんは青色の目を輝かせて僕を指さした。
「ここで会ったのも何かの縁だ、一緒にお祭りを楽しもうよ!」
ファンさんのその提案に乗った僕は彼らと共にお祭りを楽しむことになった。
・
「やっぱりお祭りと言ったらりんご飴だよねりんご飴! 朔間くんはりんご飴、好き?」
「好きですよ。生きてた頃は奈子さんに強請ってたな」
「それくらい好きなんだね! タイヤンくんはりんご飴、好き?」
「まぁ、うん」
「歯切れ悪いな〜?」
ファンさんは7本のりんご飴が入った袋をキラキラとした表情で眺めている。食べないのかな。そう思っていると彼はなにか見つけたのかパァっと明るい表情になって走り出した。
「急にどっか行くんじゃねぇ!」
型抜きの屋台の前で立っている彼を小突くタイヤンさん。彼は何も言わずに屋台を指さしている。目がすごく輝いていて、まるで子供のようだ。
やるまでここを動かないと言うファンさんと共に僕たちは型抜きをすることになった。1クルミを支払い、型抜きのセットを渡される。僕はリンゴの柄にした。ピンク色の型を爪楊枝でくり抜いていく。順調にくり抜いていき、残るは葉っぱがついたヘタだけになった。慎重に、割れないように線に沿って爪楊枝を動かしていく。
「あ」
パキりとヘタの部分が取れた。失敗してしまった……。
「見て2人とも! 綺麗にくり抜けたよ!」
ファンさんがうさぎを自慢げに見せる。確かに綺麗にくり抜けている。僕は拍手をし彼を称えた。
「タイヤンくん_って待って永夢くん見て、なんか子供たちに囲まれてるよ」
「ほんとだ」
隣の机を見ると、子供たちに囲まれたタイヤンさんが居た。どうやら子供たちに型抜きのコツを教えているようだ。
「タイヤンくんって意外と面倒見が良いんだよ。生前もそうだった」
「生前……ファンさんとタイヤンさんって生前からの仲なんですか?」
「そうとも言えるし、そうでは無いとも言えるね。俺は知ってて、僕は知らない」
「?」
何を言っているのだろうか。よく判らなかったが、僕たちは景品を受け取り集団の中に入っていった。
「タイヤンくん、そろそろ行こっか」
「ん、判った。じゃあ俺たちはもう行くから」
「えー! もう行っちゃうのかよ!」
「まだ型抜きのやり方教えてもらってないんだけど!」
「今度教えてやっから」
「嘘つきタイヤンのまた今度は信用すんなって親父が言ってた!」
「まだそんなこと覚えてんのかよ! もう600年くらい前の話だろそれは! ……判った判った、日付決めるからその日に教えてやるよ」
「絶対?」
「絶対絶対」
子供たちと約束をした彼は申し訳なさそうな顔でこちらへ来た。
「いや〜、モテモテだねぇタイヤンくん。さっきの子は君のお隣に住んでいたリウさんちの子かな?」
「いや向かい側の……」
「ああタイヤンくんたちを毛嫌ってたヤンさんちの! まだ子供のままなんだね?」
「成長する意志がないんだろ。子供のままのほうがいろいろ便利だからな」
ファンさんはカラカラと笑い肯定する。……正直、2人の会話に入っていけない。僕の知らない話をしているから会話に入れないのはしょうがないことだけど、なんというか、2人の世界に入っているというか、そんな感じがする。
気を紛らわせるためになんの屋台があるか見てみると、かき氷が売っている屋台があった。
「2人とも、かき氷食べない?」
そう言うと、2人は顔を輝かせて僕の提案に乗った。一杯2クルミで、シロップはかけ放題。そのほかにも様々なトッピングを付け放題の屋台だった。僕は苺のシロップに練乳とアイスクリームのトッピングにした。タイヤンさんはブルーハワイのシロップだけで、ファンさんはマンゴーシロップにマンゴー、アイスクリーム、練乳のトッピングだ。
「頭がキーンってする……」
「一気に食べすぎだお前は」
「水とか飲むとなりにくいらしいね」
「うげぇ……最初に聞きたかったかもそれ……」
ファンさんは頭を押さえて唸った。それくらい痛いのだろう。僕たちは駄弁りながらかき氷を完食した。
いろんな屋台を巡っているうちに花火が打ちあがる時間になったようだ。ファンさんにおすすめのスポットまで案内してもらった。神社の裏山にある開けた場所。ここは彼のお兄さんが見つけた場所で、人が全然来ないから安心できるのだそう。
僕たちは手すりに持たれ花火が打ち上がるのを待つ。ヒューという音と共に、大きな花が空に咲いた。初めて見た花火はとても綺麗で、夢中になって色とりどりの花火を見つめた。気づけば花火はもう終わっていて、静寂が周囲を包み込んでいた。
「初めて花火を見たんですけど、壮観ですね!」
「だな。ファンはどうだ?」
彼はファンさんを見る。ファンさんはぼんやりとした顔で正面を見ていた。心ここにあらず、とでも言えばいいのだろうか? タイヤンさんが肩を揺すると彼はハッと顔を上げ、周囲を見渡した。
「あれ。ここ、どこ?」
ファンさんは僕たちを認識すると勢いよく後ろに下がり睨みつけた。
「君たち、誰?」
「え、え? どういうこと?」
「……俺だ、タイヤン。こっちは朔間永夢」
タイヤンさんがそう言うと、彼は眉を吊り上げ、やがて納得したかのように「ああ!」と言うと僕たちに近づいた。
「また、あいつが迷惑をかけたみたいだね。すまない。僕はこれで失礼するよ。……ああ何時まで離れていたんだろう。兄さん、大丈夫かな」
そう言いながら彼はどこかへ行ってしまった。僕はタイヤンさんに説明を求めると、彼は頬を掻いて「どう説明したもんかな……」とつぶやいた。
「あいつは、生前の腐れ縁の生まれ変わり……だな、うん。本来は死んだとしても前世の記憶が蘇るわけじゃないが、稀に、二重人格みたいに前世の人格が出てくる時があるんだ。今世の人格は前世の人格であるときの記憶がないから_」
「だから警戒心が丸出しだったんだ。……ファンさん自身は彼の記憶があるの?」
「あるらしい。……なんか、すまんな」
「なんで謝るの? 大丈夫だよ。びっくりしたけど、ファンさんと遊ぶの楽しかったし! 僕はもう帰るけれど、タイヤンさんはこれからどうするの?」
「帰るよ。憂病に土産を渡したいし」
「そっか。それじゃあまたね、タイヤンさん!」
「ああ、また」
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