第七話 迷子の仔猫
「おかあさん! どこ?」
近くのスーパーで食材を買った帰り、道の隅で泣いている子を見つけた。白猫の獣人だろうか。右耳に赤いリボンをつけていて、赤色のワンピースを着ている。お母さんどこと言っているから迷子なのだろう。道を通る人は子供のほうをチラリと見るだけで助けようとする人は少なそうだ。ねこが助けるだろうと思っているのだろう。
僕は仔猫に話しかけるか否か迷っていた。この町には引っ越してきたばかりで、土地勘があるわけじゃない。助けたい気持ちはある。だけど助けようと話しかけて僕まで迷子になったら……と考えると、話しかけるのを躊躇ってしまう。仔猫は大泣きでお母さん、お母さんと叫んでいる。
「ね、ねぇ。どうしたの?」
考えていてもしょうがない。僕は仔猫に話しかけた。仔猫は驚いた顔で僕を見ると、再び泣き始めた。何か泣き止む物でもあるだろうか、とカバンを漁るとパン屋で貰ったクッキーがあるのに気づいた。確か誰でも食べられるクッキーを試しに作ったと言っていたはず。僕は彼女にクッキーを見せると、ぱぁっと表情が明るくなる。
「これ、獣人も食べられる物だから、どうぞ」
「……いいの?」
「うん」
「ありがと、お兄ちゃん!」
仔猫は袋からクッキーを取り出して食べ始めた。よほど美味しかったようで、物の数分で食べ終わった。
「それで、どうして泣いてたの?」
「……お、おかあさんが、いなくなっちゃって」
「どこで居なくなっちゃったか、覚えてる?」
「わ、かんない。きづいたらいなくなっちゃってたの」
「そっか。ありがとう、教えてくれて」
はぐれた場所に行けば見つかるかもと思ったけれど、判らないならしょうがないか。交番に行ってみるか?
仔猫と一緒に交番へ行く。POLICEBOXと書かれた看板が目印だ。交番の中に入ると、警察帽を被ったねこが頬杖をついていた。
「人間と獣人が一緒に居るなんて珍しいにゃ。迷子の迷子の子猫ちゃんにゃ? 自分の家が言えるかにゃ」
ねこは僕たちに気がつくと敬礼をしながらそう言った。
「迷子を連れてきたんだけど、誰か来てませんかね……?」
「だぁれも来てないにゃ。まーあ本人確認が出来たらすぐにでも会わせてやるにゃ」
「お嬢ちゃん、名前は?」とねこは仔猫に質問をする。
「えっと、えっと……かわいい……?」
「……それ以外で良く言われている言葉は?」
「えらいこ……?」
「………………愛されてるんだにゃ! じゃあ、親の見た目を教えるにゃ。流石にそれは答えられるよな?」
「白くてきれいな毛なみをしてるの! かっこよくて、やさしい!」
「なるほどにゃ。服装は?」
「わたしと同じ色のふくをきてるの!」
「にゃるほど~」
ねこはタブレットを操作しながら仔猫に相槌をうっている。やがてねこはコピーされた紙を僕に手渡した。
「ここに子猫ちゃんの親が居るにゃ。こちらから連絡をして動かないように言っとくからさっさと子猫ちゃんを連れて出てけにゃ」
「わ、判りました。ありがとうございます」
渡された紙を見てみると、お母さんが居る場所はクラヤミタウンのスーパーのようだ。仔猫にそのことを伝え交番から出る。仔猫はお母さんの場所が判って嬉しいようで、鼻歌を歌いながら歩いていた。
クラヤミタウンまでは難なく来ることができた。仔猫のお母さんが居るスーパーはどこだろう。入り口にあるマップを見ると、この町のスーパーは3つあるようだ。近くに居た人魂を捕まえて紙を見るが、書かれているのは「スーパー」だけで具体的な店名は判らない。……とりあえず近くのスーパーから行こう。
「あの、迷子の子を連れてきたんですけど……この人は来ましたか?」
クラヤミスーパーの迷子センターで仔猫のお母さんの顔写真を見せる。職員は顔写真を見ると「嗚呼!」と手を叩いた。
「この方なら数刻前こちらに来ましたよ! ですがすぐにどこかへ行ってしまいました。連絡いたしましょうか?」
「お願いします」
迷子センターのソファで待つこと約5分、センターのドアが荒々しく開き、仔猫と同じ服を着た白猫の獣人がセンターに入ってきた。
「おかあさん!」
「リネ! ああ良かった、無事だったのね! 怪我してるところとか、ない?」
「ないよ!」
仔猫とお母さんは抱きしめあい再会できた喜びを享受していた。仔猫_リネさんのお母さんは僕に気が付くと、何度も何度も礼を言い、20クルミを僕に差し出す。拒否しようとしたが、お母さんは有無を言わせず僕にお金を握らせると再び礼を言い去っていった。
獣人親子が去り、これからどうしようか? と悩んでいると迷子センターの扉が開いた。入ってきたのは鬱之さんで、彼女は焦ったような顔で受付の人に何かを言っていた。
「鬱之さん、どうしたの?」
数分後、彼女は肩を落としてセンターを出ようとしていたから話しかける。鬱之さんは僕に気づくと赤茶色の眼を潤ませてしくしくと泣き出した。
「ど、どどどうしたの!?」
彼女はすすり泣きながら事情を話してくれた。曰く、現世へ旅行に行っている友達から預けられた黒猫が気づいたら外に出てしまっていたのだそう。友達から渡された説明書には「外に出ちゃっても一時間程度で帰ってくる」と書いていたそうだが、二時間経っても帰ってこないため探しに来たのだそう。それは判ったけど、どうして迷子センターに来たのだろう……。
「クロちゃんはこのスーパーの迷子センターに遊びに来ることが多いんです。だからここでくつろいでるかなって……」
「あ、ああー。なるほど。他の場所には行ってみたの?」
「いえ、まだここだけ……」
「じゃあ一緒に探すよ! 他にクロさんがよく行く場所ってどこ?」
「い、良いんですか? えぇと、後は……」
クロが他によく行く場所は花畑と服屋らしい。花畑に来た僕たちはクロの名前を呼びながら探したが、居る気配は無かった。
「あら、憂病ちゃんじゃない! どうしたの?」
クロがよく来る服屋へ来たら鎖骨まである茶色の髪を緩く縛った女性が出迎えてくれた。
「天瀬さん、クロちゃんってここに来ましたか?」
鬱之さんが質問をすると天瀬さんは「あら〜」と言いながら口元を抑えた。
「入れ違いになっちゃったみたい。クロちゃん、もう帰っちゃったわ」
「あ、そ、そうですか……ありがとうございます」
天瀬さんに礼を良い、服屋を出た。
「1回、家に帰ります。もしかしたら帰ってきてるかも」
「そっか。居なかったらまた連絡して。一緒に探すよ」
「ええ。本当に、一緒に探してくれてありがとう」
鬱之さんは微笑むと、急いでその場を離れた。僕はクラヤミタウンの広場のベンチで鬱之さんからの連絡を待つことにした。自販機でホットココアを買い待っていると、黒猫が僕の隣に座った。
毛艶が良くて、赤い首輪をつけている猫だった。金色の瞳が光っている。ものすごく撫でたい。けど逃げちゃったら嫌だな……と悩んでいると_。
「撫でないのか? 人間」
と声が聴こえた。辺りを見るけど誰も居ない。
「何処を見てるんだ?」
「……喋ってる?」
「獣人が居るんだ。動物が喋っても何ら可笑しくないだろう?」
黒猫はそう言うと膝の上に乗ってきた。そのまま僕の匂いを嗅ぐ。扱いに困っていると黒猫は僕の膝で丸まった。
「主の匂いがする」
「主? ……って、飼い主さん?」
「嗚呼。主は5歳の時この国にやってきた、私の恩人なのだ。貴様は主と同じ匂いがする」
同じ匂い……どういう意味なのだろう。何も判らない。返事に迷っているとスマホが振動した。画面を見ると「鬱之憂病」と書かれており、僕は電話に出た。
「永夢さん、クロちゃん私の家に居ませんでした……」
「主のご友人か? 私はここに居るぞ」
「その声、クロちゃん? 永夢さんのところに居るんだね? 今、どこに居るの?」
「広場のベンチに居るよ」
「判った、今から行きます!」
通話が切れて数分後、鬱之さんは息を切らせてやってきた。黒猫は膝から降りて鬱之さんの足元に擦り寄る。彼女は「ああよかった!」と黒猫を抱えると、僕に何度も礼を言った。
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