第六話 宇宙へ行こう!
黄泉の国に来てから2週間が経過した。その間、僕はオール書店という本屋で働き始めた。今は注文された本を包装している。
僕がオール書店でやることはレジ打ちと注文された本を包装することだけだ。それ以外は全部店長であるリブロさんがやっている。
リブロさんは緑色のスライムで、1つ目が特徴だ。丸っとしていて手のような触手が二本生えている。全長は160㎝くらいだろうか、僕よりもでかい。彼が言うには頭の双葉がチャーミングポイントらしい。
「朔間君、包装は終わったか?」
「はい、終わりました」
「そうかそうか! 手際が良くて助かるよ。……ああ、そういえば」
リブロさんは手を叩くとエプロンのポケットから紙を取り出した。宇宙ツアーのチケットを印刷所の人から貰ったらしい。ただ行く暇がなく、もう少しで有効期限が切れるから僕にくれるそうだ。チケット1枚で1人~5人まで入れるみたい。僕は喜んでそれを受け取り、その後はつつがなく業務を終えることが出来た。
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翌日、僕と鬱之さん、タイヤンさんと羽尾さんの4人で宇宙に来ていた。宇宙観光案内センターで落ち合い、受付で空気と掘られた木の札を貰った僕たちは今エレベーターに乗っている。西側がガラス張りになっていて外の景色が見えた。段々と空が暗くなり、宇宙が近づいてくるのを感じる。
エレベーターに乗って30分ほど経っただろうか、宇宙に着いたようだ。宇宙ではケンタウロスが案内を務めるらしい。僕たちの前に金髪の女性ケンタウロスがやってきた。
「やぁ初めましてお客さん! 今回アンタたちの案内役を務めるケラヴノスだ!」
快活な笑顔を見せ、ケラヴノスさんは注意事項を話す。宇宙ツアーではケンタウロスが引くソリに乗って観光するようだ。
ソリに降りること。ソリの外に腕や頭を出すこと。動いている最中に立ち上がること。
この3つは客の安全を守るためのもので、これを破った人の安全は保証しないとのことだ。
説明が終わり、僕たちはケラヴノスさんに繋がっているソリに乗った。ソリはサンタさんが乗っているような形をしている。前に僕と羽尾さんが、後ろに鬱之さんとタイヤンさんが座ることになった。
「それじゃ、走り始めるよ!」
ケラヴノスさんの合図と共にソリが動き始めた。車と同じ位の速度で景色が流れていく。風は全く感じない。……そういえば、気にしてなかったけど僕たち呼吸ってどうしてるんだろう。
「ケラヴノスさん、質問って良いですか?」
「嗚呼! 別に構わないよ!」
「宇宙に空気はないのに、どうして僕たちは呼吸ができてるんですか?」
「受付で札を貰ったろ? それを持ってれば地上と変わらずに過ごすことができるんだ。札を落としたら破裂するから絶対に無くさないようにな」
「ひぇっ」
僕と羽尾さんが短い悲鳴を上げる。羽尾さんは青ざめた顔でカバンをしっかりと持つと「絶対に落とさないようにしなきゃ……!」と言った。
「ははは! そんな心配しなさんな。破裂するっつっても消滅するわけじゃないんだ。この国では死者の魂は_なんか特別な術で守られてる。だからここで破裂しても1週間くらいあれば役所のやつが修復してくれんだろ。まぁ医療費は結構かかるらしいがな!」
がはは! と豪快に笑うと彼女は足を止めた。
「ここはアタシたちの食糧畑だよ」
周囲を見ると、星が所狭しと浮いていた。食糧畑ということは、ケンタウロスは星を食べているのか?
「ここらに存在する星は食えるように加工されてんだ。色によって味が違ってな、例えば_」
彼女の説明を聴きながら、ぼんやりと周囲を見る。星は輝いていて、金平糖のような形をしている。上を向くと満天の星空が見えた。黄泉マップに書かれていたことを思い出す。
この宇宙は本物の宇宙じゃなくてボクが生み出したまやかしだから、現実と違うところがあっても気にせんといてね☆彡 By天上院エンマ
『宇宙について』の欄に注釈として書かれていた文だ。黄泉の国は現実世界を反映している。宇宙ができた経緯は現在のトップ_天上院エンマって人がお巫山戯で作ったもの。わりかし最近できたものらしい。最初はツアー方式じゃなくて好き勝手に行動できたものの、行方不明になる人が多く出たから現在の方針に変えたって書いてあった。
ソリが動き出し、食糧畑から離れていく。宇宙ツアーでは目的が決められて、僕たちは『景色を楽しむ』ことを目的としてるから案内人が好きな場所を走っている。レビューを見た限り、ほとんどのケンタウロスは食糧畑で立ち止まっている。確かに綺麗だったし自慢したい気持ちも判る。
「なんか不思議だね。車と同じ速度なのに全然風を感じない」
「違和感がすげぇ」
「鬱之さんたちは宇宙に来るの初めてだっけ?」
僕の質問に答えたのはタイヤンさんだった。
「否、宇宙ができ始めたころに行ったことがある。ただその時はツアー形式じゃなかったからなぁ」
「行方不明者が多発したから今の形式になったんだっけ?」
「あ、ネットで見たことあるっすそれ。発見まで2か月くらいかかったやつだよね? こんなだだっ広い空間で2か月も独りぼっちって考えると寒気が……」
「その事故のイメージが強いんだろうね。宇宙へ遊びに来る奴は少ないんだよ。1回来ればそれで満足ってやつも多くてな……アタシとしては人間と話せる機会が減ってつまらん」
そんな会話をしながら僕たちはいろんな場所を観光する。太陽系の惑星を眺めたり、ワープすることができるブラックホールにくぐって宇宙の端を見たり。今は月に来ている。
「あれ地球っすよ地球! ……あの地球って本物なんすかね!?」
羽尾さんが目を輝かせて僕の肩をゆする。僕はそれに生返事をしながら乗り物酔いから醒めるのを待った。
結構……運転が荒い……。
「お2人とも、お茶どうぞ」
「あ! ありがとっす!」
「ありがとう……」
鬱之さんからお茶を受け取る。飲んだらだいぶ酔いが醒めた気がする。正面を見ると、真っ暗闇の中にぽつんと地球が佇んでいる。この宇宙はトップが作ったものだから、あの地球は本物ではないのだろう。模型……とかなのかな。
「月の裏側ってどうなってるのかな」
「月の裏は特にここと変わらないよ。あの地球に関してはアタシたちの寝床がある場所で、まぁ……立ち入り禁止区域とでも言えばいいのかね」
「そうなんですね」
ケンタウロスたちは地球を寝床にしているのか。ここから見たら模型のように見えるけれど……でも、僕たちもあそこに住んでいたんだよな。
「こうしてみると、私ってこんなにちっぽけな存在なんだなって思えるな」
「……確かに、これだけ広大な景色を見ていると不安になってくるよね」
「ワタシはむしろワクワクしますね! だってまだまだ色んな世界が見れるってことっすから! ……生きている時に見たかったっすけど」
「俺も、生きてる時に世界が広いんだって知りたかったな」
2人のセリフに、己がもう死んでいることを思い出す。僕は生きている意味が判らなくて、奈子さんたちの提案を拒絶して自分の世界に篭っていた。……今思えば、ちゃんとリハビリをしていれば色んな世界をこの足で見れたかもしれない。なんて考えてももう後の祭りだけど。
「……ま、だからこそこの国があるんだろうな。生前の後悔、未練を無くすためにこの世と何ら変わらない世界で暮らさせている」
「それもそうっすね! ワタシは転生するまでにチャンネル登録者数100万人を目指したいですし! お歌とか、ゲーム制作とか、やりたいことをとことんやるためにこの国で生きてるんすから!」
羽尾さんがそう言って笑う。その笑顔が眩しく見えて、僕は顔を逸らした。隣に居る鬱之さんもそう見えていたようで明後日の方向を向いていた。
ツアーの終了時間が迫ってきているので僕たちはソリでセンターまで向かった。お土産コーナーで惑星チョコと、リブロさんが欲しいと言っていた星屑糖を買い、地上で解散した。
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