第四話 超かわハワちゃん登場!
「うわっ見てみてこれ! 一番最初に作られたシューティングゲームが置いてる! 実物初めて見た!」
ゲームセンターでいろいろと遊んでいると、奥のほうから非常に明るい声が聴こえてきた。台詞的にお客さんだろうか。あれ? でもここには僕たち以外居ないはず……。僕は説明を乞うためにタイヤンさんを見る。僕の視線に彼は頬を掻き「どう説明したもんかな……」と呟いた。彼の言葉が整理するまで待っていると声の主が来ていたようで、「あー!」という声と共に赤髪の女の子がこちらへ駆け寄ってきた。
「アナタたちお客様ですよね!? うわ~ここで会うなんて運命じゃないですか!」
金色の瞳を輝かせて、自撮り棒を持った女の子はぴょんぴょんと飛ぶ。女の子のテンションに押されていると、彼女は「おや?」と首を傾げた。
「従業員さんも一緒なんですね? お三方の関係性が気になります! どんな関係なんですか?」
「お客さん、まずはカメラを止めてくれないか?」
「おっと、こりゃ失礼」
女の子はスマホを操作するとスカートのポケットの中にしまった。
「すみませんね。さっきのは配信じゃないので安心してくださいな。_では、改めてワタシは羽尾アワネと申します! 今日この場でアナタたちに会えたこと、嬉しく思いますですよ!」
羽尾さんはそういうと順番に僕たちの手を握った。なんというか、元気な人なんだな。
……じゃなくて、なんでここに僕たち以外の人が居るんだ? レイヤー機能があるから人に会うことはないって言ってなかったっけ。
「お名前をお聞きしてもよろしいかしら?」
「……朔間永夢、です」
「永夢クン! 漢字は永い夢と書くのかしら。良い名前ですね!」
「あ、ありがとう……?」
羽尾さんはそのまま2人にも同じ質問をし、名前を聴くと大げさともいえるリアクションを取った。鬱之さんの名前を聴いたときは「憂鬱の病!? とても創作チックなネーミングですね……!?」と驚いていた。
自己紹介が終わり、僕はタイヤンさんに「どうして羽尾さんがここに居るのか」の説明を乞うていた。
「波長が合うって言葉があるだろ。違うレイヤーに居ても波長が合う人間同士は高確率で出くわすんだ」
「そうなんです! この特性を活かしたイベントもあるくらいなんですよ!」
「アリス☆彡ワンダーランドとかで定期的に行われているな」
「ワタシも何回か参加したことあるんですけど、友達を増やすのに便利なんですよ~! 中には配偶者を探すために参加するって人も居ますしね!」
「へぇ~……」
だから羽尾さんは”運命だ”と言ったのか。波長が合うということは長く関係を続けられる可能性があって、羽尾さんと僕たちは波長が合う。羽尾さんはこの機会を逃したくないのだろう、スマホを取り出すと連絡先が書かれた画面を見せてきた。
「お三方が良かったら連絡先を交換しましょ!」
知り合いは多いほうが良いだろう。僕たちは連絡先を交換し、彼女の押しで共に行動することになった。
・
ジェットコースター、カップコースター、メリーゴーランドと様々なアトラクションで遊び、今はお化け屋敷の前で班分けの相談をしていた。お化け屋敷は一組最大二人までしか入れないからだ。
「タイヤンさんは鬱之さんと一緒のほうが良いよ絶対! 幼馴染だし! 幼馴染だし!」
「お、おう。じゃあそれで……」
タイヤンさんと鬱之さん、僕と羽尾さんのペアに決まった。先にタイヤンさんたちが入って、その三分後に僕たちがお化け屋敷のゲートをくぐる。和風のお化け屋敷で、穴の開いた障子や赤い手形が僕たちを出迎えた。
「ザ・定番って感じですね! 趣があります!」
「確かに、お化け屋敷を想像したらこの内装が浮かぶかも」
おどろおどろしい効果音をBGMに、僕たちは雑談をしながら屋敷内を探索する。普段は進入禁止のところも入れるから面白い。ネットに投稿しなかったら写真も撮って良いらしく、羽尾さんは興奮しながらいろんなところを撮っていた。
「そう言えば、羽尾さんって動画を撮ってたみたいだけど、動画投稿者なの?」
「そうですよ!」
羽尾さんは大きくうなずき、動画配信サイトの画面を僕に見せてきた。
超かわハワちゃんという方のチャンネルのようだ。登録者数は1万人ほどで、動画数は三百個ほど。赤い髪をお団子ツインテールにしているのが特徴的なキャラクターのイラストがアイコンだ。どことなく羽尾さんに似ている。
「これがワタシのチャンネルです! 主にゲーム実況や料理動画を出してます! 永夢クンさえ良かったらぜひチャンネル登録してほしいな~、なんて!」
「判った、お化け屋敷を出たらアカウント作るね」
「ほほほ、ほんとに!? サンキュっス!」
彼女は頬を染め「やったー! 登録者一人ゲット!」と歓喜の声を上げる。微笑ましいなと眺めていると、羽尾さんが突然消えた。それはもう、突然。
「羽尾さん? ど、どこですか!?」
周囲を見回すけれど、どこかに隠れられそうな場所はないし床に穴が開いているわけでもない。脈絡もなく彼女が消えてしまった。……もしかして、ミラーハウスと同じ現象が起きてる?
『タイヤンさん。お化け屋敷で羽尾さんが消えちゃったんだけど、どうすれば良い?』
闇雲に探しても時間を浪費するだけだと思った僕はタイヤンさんに連絡をする。すぐにタイヤンさんから返事が来た。今上司に連絡をしているからその場から動かないでくれとのことだ。
……一応、羽尾さんにメールを送ってみよう。どこに居るかだけでもわかればいいんだけど。
「……なんか、独りでここに居ると寂しいな」
スマホを握りしめ、その場にしゃがみ込む。この場には僕以外誰も居ない。孤独を感じるのは物寂しいBGMが流れているからだろうか。目を瞑り時間が経つのを待っていると着信が入った。すぐにスマホの画面を見る。羽尾さんからだ。
『永夢クンどこに居ますか? 通話って可能でしょうか!?』
僕は簡単に返事をすると彼女に電話をかけた。通話はすぐにつながり、羽尾さんの安堵の溜め息が聴こえた。
「羽尾さん今どこに居ますか!?」
『永夢クンはワタシたちがはぐれた場所から離れてないですか? 離れていないならすぐ近くに穴が開いてるはず! そこに落ちてしまったんです!』
「あ、穴!? うん判った、探してみる!」
僕はすぐに羽尾さんが居た場所を見る。けど穴は開いていない。もしかして隠し扉でもあったのか? と床に触れると触れた先から床が崩れていった。辛うじて落ちはしなかったものの、穴の中は真っ暗闇で羽尾さんが居るかどうか判らない。
「羽尾さん、何か目印になるものってある!? スマホの明かりとか……」
『スマホのライトを天井に向けてます! み、見えてますかね!?』
目を凝らし穴の中を見ると小さな点のような光が見えた。あれが羽尾さんなのだろう。近くにロープがないか探すと、薄汚れた白い布があったから先を結んで穴に垂らす。
『あっなんか当たった! 何!? 怖!』
「ロープ垂らしたからそれだと思う! 掴まって!」
『マジすか! ……ワタシ結構重いけど行けるっすか!?』
「がんばる!」
彼女がロープに掴まったと教えてくれたので思い切り引っ張る。肉体が無いからだろうか、思っていたよりも簡単に彼女を引き上げることができた。羽尾さんは目に涙を浮かべながら僕に謝罪と感謝の言葉を述べる。
「永夢! 羽尾さん_って、なんだ。もう見つかってたか」
そこにタイヤンさんが息を切らせてやってきた。よほど急いでいたのだろう。彼は羽尾さんが居るのを見て安堵したようにため息を吐いた。
穴の調査はほかの従業員さんがやるらしい。僕たちはタイヤンさんに連れられてお化け屋敷から出ることになった。従業員用出口から外に出ると、羽尾さんがその場にしゃがみ込んだ。少し顔が青くなっていて、左足首を抑えている。落ちた時に足を挫いてしまったのだろうか。
「大丈夫?」
「まぁ、歩けないほどでは無いっすけど……痛みがやたら続いてるんすよね~……なんでだろ」
羽尾さんは黒のブーツを脱ぎ傷を確認する。青あざが痛々しくて思わず目を逸らす。彼女は「え~? これくらいならもう治ってるはず……」と首を傾げた。どうすれば良いか迷っていると、鬱之さんがこちらへ駆け寄ってきた。彼女は羽尾さんの様子を見るとしゃがみ顔を覗き込んだ。
「どうしたんですか?」
「あ~、それが……傷が何故か治らなくて」
「それは大変。タイヤン、何か知らない?」
鬱之さんはタイヤンさんのほうを見る。タイヤンさんは帽子を被りなおすと腰に巻いている鞄から液体が入った瓶を取り出した。あの魔物に投げていたものと同じものだろう。蓋を開け、羽尾さんの足首に液体をかけると彼女の痣がみるみる消えていった。
「おぉ~、すごっ」
「これで問題ないが、いちおう禍医師に見てもらえ。これは応急処置にすぎないから」
「はい! 感謝っすタイヤンくん!」
「お、おう……」
羽尾さんの無邪気な笑みに、タイヤンさんは顔を背けると鬱之さんの後ろへ行った。帽子で隠れて見えづらいが顔が赤くなっている。照れているのだろう。
気づけばもう午後三時だ。僕たちは遊園地エリアを離れ、お土産コーナーでお土産を買い終えるとそのまま現地解散した。
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