第三十二話 星座作成プロジェクト
週末。僕は宇宙観光案内センターのロビーでスマホをいじっていた。
時刻は午前八時半。久しぶりに行く場所で不安だったから早めに出たんだけど、思っていたよりも早くついてしまった。待ち合わせ時間まであと一時間もある。
待っている間暇だから、今日のイベント内容の確認をしよう。
まず、僕とアワネちゃんと憂病さん、タイヤンとユリアさんユリアンさん、あと狐ヶ崎心春というアワネちゃんの知り合いも入れて計七人が参加する。
この星座作成プロジェクトは最大十人規模のグループに講師役のケンタウロスが一人ついて、出来上がった星座を空に打ち上げようという企画だ。いくらでも作ることができるが、二つしか空に打ち上げることができない。
サイトを見た限り、今回は僕たちのグループを合わせて三グループあるみたい。
午前十時から始まり、前半二時間、二十分の休憩が入り、後半一時間の制作時間の後、選んだ二つの星座を空に打ち上げて終了だ。
(打ち上げたものは新しい星座として夜空に浮かぶんだったよね)
この星座作成プロジェクトは十年ごとに行っているらしく、過去のイベントで作られた星座が紹介されていた。彼岸花の形もあれば、有名な絵画を模したものなど色んな形の星座があった。ほとんどの星座が点つなぎの絵みたいで判りやすいものだった。
「あ、永夢クン、もう来てたんっすね!」
肩を叩かれ後ろを見るとアワネちゃんが立っていた。白いTシャツに黒のオーバーオール、ベレー帽とどこか画家っぽい服装をしている。
時計を見てみると集合時間の四十分前だった。だいぶ早い。……僕が言えた義理じゃないけど。
「アワネちゃんも早いね」
「すこーし早くに来て、アイデアをまとめておこうかなと!」
彼女は僕の隣に座るとスケッチブックを取り出した。見てもいいとのことなので覗き見ると、星座のアイデアが綺麗にまとめられていた。
「すごいね」
賞賛の言葉を送ると、彼女は相好を崩し頭をかいた。
「自己満足っすけどね! 予めアイデアを考えた方がスムーズに制作できるかなと思い」
そう言って彼女は特に気に入っているという一枚を僕に見せてくれた。
それは狐の親子のイラストだった。子狐が親狐に寄り添っているもので、どこか暖かみを感じる絵だ。
「優しい絵だね」
「え、えへへへへ。そうっすかね? そう言ってくれて嬉しいっす」
「ほかにはどういうアイデアがあるの?」
「お、見ますか? どうぞ!」
スケッチブックを渡され、さっくりと中を見る。動物や食べ物、電子機器など、とにかくいろんなモチーフのイラストが描かれていた。
眺めているとアワネちゃんがそわそわとした様子で僕を見ていることに気づいた。
「僕はキングライオンが特に好きかな。威厳があってかっこいい」
そう言うとアワネちゃんの表情がぱぁっと華やいだ。
「マジっすか? 嬉しいです! ワタシも結構気に入ってるんすよ、キングライオン!」
いろいろ話していると、集合時間までもう少しなことに気が付いた。
「あ? 早いな二人とも」
「一番乗りじゃなかったねー」
憂病さんがタイヤンのほうを見てほほ笑むと、彼は「うるせぇ」と言ってそっぽを向いた。タイヤンは緑のつなぎ、憂病さんはワイシャツにロングスカートといつもと同じ服を着ていた。
「こんにちは」
「こんにちはー。……あれ、もしかして僕たちビリだった?」
「いえ、まだ一人来ていないようですよ」
ユリアさんユリアンさんも来た。ユリアさんは黒のTシャツにジーンズ、ユリアンさんは黒の着物に青い蝶の簪をつけていた。
これで残りはあと一人、心春さんだけになった。
「お。……ちょっと心春チャン迎えに行ってくるっす」
スマホをちらりと見たアワネちゃんがそう言ってセンターを出ていく。数分後、赤髪の少女を連れて帰ってきた。狐のような耳と尻尾が生えた、巫女服の少女だ。彼女が狐ヶ崎心春さんなのだろう。
「紹介するっす。狐ヶ崎心春チャン。小学校の頃の同級生です」
「初めまして。狐ヶ崎心春と言います。ぜひ、心春と呼んでください」
彼女は落ち着いた様子で礼をする。利発そうな少女だった。
雑談をしていると、イベント開始時刻になった。僕たちは案内されて会議室に案内される。広いテーブルが三つあり、上には筆記用具と紙のほかに、でかくて丸いタッチパネルが中央に置かれていた。三匹のケンタウロスがそれぞれのテーブルについている。その中に、以前会った案内役のケラヴノスさんが居た。
「本日は星座作成プロジェクトに参加していただき、誠にありがとうございます」
職員さんがそう言って礼をする。簡単な説明の後、星座作りを開始した。
「よっ、久しぶりだね、アンタら」
ケラヴノスさんがそう言って手を上げる。金髪の髪を後ろでまとめており、メガネをかけていた。目が悪かったりするのだろうか?
「アタシは基本的に手出しはしないが、判らんことがあったら気軽に質問してくれ」
それだけ言うと、彼女は地べたに座る。
「それじゃあ、どういう物を作るか話し合うか」
タイヤンのその言葉で、アワネちゃんはスケッチブックをテーブルの上に置いた。始まる前に彼女が考えたアイデアをみんなで見たが、どれにするかはまだ決めていなかったから。
「あ、一応言っておくっすけど、ここに書いているもの以外でも作りたいものがあったらジャンジャン言ってほしいっす。これはあくまで参考程度で」
「饕餮作りたいな、私」
憂病さんがおずおずと言った様子でそう口にする。饕餮……イメージしてみたけど、何も言われなかったら羊だと思いそうだな。
「良いっすね! ほかには何かありますか?」
「チェスの駒とかどうだろう」
ユリアンさんが手を上げる。ほかにも色んなアイデアを出し合い、出た中で一番最初に作るものを多数決で決めた結果、キングライオンから作ることになった。
「どういう構図にするっすか?」
「咆哮してるところとかどうだ? 見栄えもいいだろうし」
「ぼくもそれが良いと思うな」
タイヤンが提案し、心春さんがそれに同意する。
「後ろに従者を数匹置くのはどうだろう? そっちのほうが王様感がでると思いますし」
「戦士でもいい気がするな。開戦の合図として咆哮してる、みたいな感じでストーリーを作るとか」
憂病さんとユリアンさんが続けて発案する。アワネちゃんはその提案を基に三つのラフを描いて僕たちに見せた。
「時間はめちゃくちゃありますし、全部作ってみますか」
ということで、星座作りを開始した。タッチパネルを使うようで、ケラヴノスさんに操作方法を教えてもらった。星を線でつないで形を作るというものらしい。その説明を聴いたアワネちゃんが「小さい頃遊んだゲームと同じ感じっすかね」と呟いていた。
「誰か線を繋げたい人は居るっすか?」
アワネちゃんが手を挙げてそう問いかける。手を挙げたのはユリアンさんと憂病さんの二人だった。
「……じゃんけんで決めようか」
二人がじゃんけんをし、憂病さんがパー、ユリアンさんがグーを出す。アワネちゃんからタッチペンを渡された憂病さんは渡されたラフを基に線を引いていく。最初はさらさらと描いていったがだんだん難しくなっていったのか首を傾げた。
「どうしたんだ?」
「キングライオンは描けたんだけど、従者や戦士をどうやって描けばいいのか判らなくて……」
「後ろに並んでいるようにしたらどうでしょうか。星座ですし、大勢を描かなくても問題ないと思いますよ」
「確かにそうかも……ありがとうございます」
三十分くらいで描き終わり、見比べる。アワネちゃんは従者と戦士の二つを指さして「この二つ、あまり違いがないっすね」と言った。言われてみれば、確かに星座として見たら違いがない。どっちも二匹しか居ないからだろうか。
「戦士のほうは威嚇してるように見せるとか、どう?」
心春さんの案を聞いて、憂病さんは戦士を臨戦態勢に見えるように描き直した。
「こんな感じですか?」
「うん、良いと思う!」
二人が笑いあっているのを横目に、僕は壁にかけられている時計を見た。開始してから一時間くらい経っているようだ。
「よし! じゃあ次は何にしますか?」
「次に多かったのって、饕餮だったよね」
ユリアンさんが憂病さん、タイヤンを見る。
「これは……憂病チャンに任せたほうが良い気がするっす」
「え? でも私もう描いたし、他にも描きたい人が居るんじゃ……」
憂病さんが僕たちを見る。僕も他の人達を見たけれど、皆描きたい様子ではなかった。
「じゃあ、僕が描いてみようかな」
手を挙げる。他の人も異論はないようで、タッチペンを渡された。
「どういう風にしたらいいだろ」
饕餮はおじさんの顔に羊のような角が生えていて、羊の身体に人間の手足が生えているのが特徴だ。問題はそのまま星座にすると羊にしか見えないところだ。
「饕餮っぽさを出すにはどうすればいいかな……」
「妖を食べてるところを描くとかどうでしょう。少なくとも羊には見えなくなるかと」
ユリアさんの案を基に、妖を食べている饕餮を描いてみる。なかなか良い出来になった気がする。
「どうかな、これ」
聞くと、皆は渋い顔で出来上がった饕餮を見た。
「人襲ってる羊にしか見えねぇ……」
「星座で饕餮を表現するのはかなり無茶な気がするね、これを見ると……」
タイヤンとユリアンさんが険しい表情で星座を見る。冷静になって見てみると、確かに人を襲ってる羊だな、これ……。
「どうすれば良いんだ……」
「手足の部分をもっと人間っぽくするとかどうですか」
「人間っぽくかぁ……」
確かに、手足が普通の蹄っぽいから羊に見えるのかもしれない。あと妖は普通に人魂っぽい感じにしたほうが良いな。
「こんな感じかなぁ」
皆に見せる。ほとんどの人はこれでいいと言ってくれたが、タイヤンはまだ納得がいっていないようだった。
「上手く言語化ができねぇんだよな……饕餮らしさは出てるけど、これじゃないっていうか」
訳を聴くと、タイヤンは首をひねりながらそう答えた。タイヤンは饕餮が住んでいる廃墟☆彡ワンダーランドの従業員だ。毎日見ているからこその違和感があるのかもしれない。
「あっタイヤンの違和感判ったかも。もこもこ感がないんだ」
憂病さんがぽんと手を叩いた。首をかしげる僕に、彼女は饕餮の写真を見せてくれた。
確かに、この写真の饕餮はめちゃくちゃもこもこしている。だとするともう少し丸くしたらもこもこ感が出るかもしれない。
「これでどうかな」
描き直したのを二人に見せると、納得してくれたみたいだ。これで饕餮も描き終わり、計四つの星座が出来上がる。
時計を見るとあと三分で休憩時間を迎えるみたい。時間的になかなかいいペースなんじゃないかな。
「次作るのはチェスの駒っすね! ……あ、でも時間的に休憩後に着手したほうが良さそうです」
とアワネちゃんが言ったところで休憩時間が始まった。ほとんどの人が会議室を出ていく。僕もお茶を買うために外に出た。




