第三十一話 フリーマーケット2
昼時というのもあってかキッチンカーには人が沢山いた。おにぎりにホットドッグ、サンドイッチなど手軽に食べられるものが多い。僕は海老天おにぎり、ユリアさんがサルサドッグを購入した。エルさんは持参したものをすでに食べていたとのこと。曰く、あまり人前で食事をしたくないということだ。
僕たちが食べている間、エルさんは僕が買った本を読んでいた。異世界転生もので、前々から気になっていたけれどあまりにも数が多すぎて何から読めばいいか判らなかったらしい。書店員である僕が選んだものなら間違いはないだろうとのことで、だいぶ僕にプレッシャーがかかっている。
「そういえばお二人はご飯を食べ終えたらどうするんですか?」
食事を終えたユリアさんが口元を拭きながらそう問いかけた。
「そうですね……わたくしはもう満足していますけれど、人間はどうしたいですか?」
「僕? そうだな……どうせなら全部のコーナーを回ってみたい、かな」
そう言うと、ユリアさんは「良いですね」と微笑んだ。
「残りのコーナーは……家具にゲーム、衣類とクリエイト、ですね」
懐からパンフレットを取り出し、エルさんは「どこから向かいますか?」と問いかけてきた。
「クリエイトコーナーが気になるかも。手作りの扇子とかブックカバーとか売ってるらしいし」
「なるほど。ではクリエイト、衣類、ゲーム、家具の順番で回りましょうか」
「異論はないですか?」とエルさんは僕たちを見る。特に異論はないので肯定すると、彼女はパンフレットをしまい紙袋からムービックキューブを取り出し遊びはじめた。なんだか怪しげな模様が描かれているけど、オカルトコーナーで買ったものなのだろうか。
「オカルトコーナーで買いました。色を揃えると良いことが起こるらしいですよ」
「良いことが……ずいぶんふわっとした文言ですね」
「そうですね。だからこそ買ってしまったわけですが」
そう言ってる間にもエルさんは回し続け、ものの数秒で全面の色を揃える。パンパカパーン! と大きな音が鳴ったと思ったら、ムービックキューブは霧散していった。周囲の人の視線が集まる。彼女は心底不快そうに顔を歪めた。
「……買わないほうが良かったわね」
地を這うような声だった。殺気のようなものが出ていて怖い。作った人が思う”良いこと”がエルさんには合わなかったんだろうなと彼女の反応を見て思う。
「え、えと……おにぎり食べ終わったので、そろそろ行きますか?」
そう提案した僕の声は驚くほどに震えていた。たぶん動揺してるんだろうなと他人事のように思いながら、エルさんを見る。彼女は深呼吸をすると「そうですね」と頷いた。
クリエイトコーナーではいろんな物が売っていた。前述した通りの物もあれば、同人誌や自作PCなども置いてある。
和系の物が売っている店でユリアさんは簪を眺めていた。
「誰かにあげるんですか?」
「そうですね。ユリアンはいつも和服を着ているし、髪も長いので似合うかなと思ったのですが……迷ってます」
彼はそう言って二つの簪を手に持った。青い紙風船モチーフのものと、青いちょうちょがモチーフのものだった。どっちもユリアンさんに似合いそうなデザインだと思う。
「どっちも似合いそうですね」
率直に伝えると、ユリアさんは「でしょう?」と言い苦笑した。
「どちらにするのか迷ってらっしゃるのなら、両方買えばいいじゃない」
「両方、ですか?」
「えぇ。わたくしならそうしますわ」
彼女の言葉に、ユリアさんはしばらく考えた素振りを見せたあと「たしかにそうかもしれませんね」と簪を二つ買った。
僕は蝶柄の扇子、エルさんは鉄扇を買い移動した。
「何に使うんですか、それ?」
「護身用として使えたら面白そうでしょう?」
「あー、あぁ……そうですね……?」
ユリアさんたちがそんな会話をしている。確かに鉄扇を使えたら面白いだろうな。
気になっていたブックカバーや栞を買いながら回っていると、衣類コーナーに入っていた。衣類コーナーにはレディースの服が多く、その影響だろう、女性が多い印象を受けた。
エルさんは琴線に触れるものが多いのか、興味深そうにきょろきょろと周囲を見ていた。
「……あ。少し、待っていてくれますか」
彼女はある店の前に立った。なにかお気に召すものでもあったのだろう。黒が基調のゴシックドレスを手に取り、サイズを確認している。ちょうどいいサイズだったのか、エルさんはドレスとボンネットを購入していた。
それからも、衣類コーナーには彼女のお眼鏡にかなうものが多かったようで、アクセサリーを中心に沢山買っていた。
「いいお買い物をしましたわ」
だいぶ満足気だ。彼女はウキウキした様子で先程買った赤薔薇のヘアアクセサリーをつけていた。金色の柔らかい髪に似合ってるな。
ゲームコーナーでは主にアナログ系のゲームが売られている。誰でも知ってる有名なボードゲームからTRPGに使うダイスなどが置いてあった。デジタルゲームはアナログよりも審査が厳重だったからか数が少ない。
アワネちゃんが動画でやっていたものも多いなと思いながら見ていると、エルさんが立ち止まった。ある一点を凝視している。見ると木製の立体パズルのようだ。
「気になるんですか?」
「えぇ。こういったパズルがあることは存じておりましたが、実物を見たのは初めてでしたので」
彼女は少し悩んだ様子だったが、購入することにしたらしい。色んな型の中から射影機型のものを選んでいた。
ユリアさんはカード系のゲームを沢山買っていた。ユリアンさんと一緒にするらしい。僕はなにか買おうか迷ったが、結局何も買わなかった。
家具コーナーではソファやテーブルなどの大きいものからクリスマスツリーやジャック・オ・ランタンなど季節に関係したものなどが売られていた。
「あんまりそそるものがありませんわね……」
エルさんがつまらなさそうに息を吐く。ユリアさんも琴線に触れるものがないようで、ぼんやりとしていた。
素敵なものが多いけれど、家具は”絶対に欲しい!”というもの以外は買う勇気が出ないんだよな……。
そんなことを思いながら、僕たちは家具コーナーをあてどなく歩いていた。
「このコーナーに出店してる方は引っ越し前の人も多いのですね」
「そうなんですか?」
「”次の家は狭いから大きめの家具は全部売りさばきたい”って思っている人が多くいらっしゃるので、そう思ったまでですわ」
「他人の思っていることが判るのですか?」
ユリアさんは驚きで目を見張る。そう言えば彼には言っていなかったっけ。エルさんもそう思ったのか、謝罪の言葉を口にした。
「ごめんあそばせ。失念しておりましたわ。わたくしはある呪いによって他人の思考が読めるようになってしまったのです」
「思考を……さとりみたいなものですね」
「さとり……? あぁ、そういうものなのですね。そういった認識で間違いないですわ」
そう言って彼女は僕に話したことをユリアさんにも話した。彼は同情したような表情で「そうだったんですね」と言った。
「今まで大変だったでしょうね」
「えぇ、そりゃあもう」
微笑みを浮かべ、エルさんはユリアさんの眼を見る。長い前髪から覗く青い瞳を見て、笑みを深めた。
「あなたの眼は青いのですね。お姉様と同じ色ですわ」
「……そうなんですね」
彼は前髪を払い目を隠す。どこか居心地が悪そうな雰囲気を醸し出していた。
「そ、そうだ。一通り見て回りましたし、二人は閉会までどうします?」
僕は空気を入れ替えるように手を叩いた。ユリアさんはどこかホッとした様子で僕を見る。エルさんは人差し指を唇に当てて考えるそぶりを見せた。
「わたくしはそろそろ帰宅しますわ。久しぶりに人里に降りてきたせいか、疲れがたまっておりますの」
「閉会まであと一時間半くらいか……僕はもう少し見て回ろうかと思います。永夢さんはどうしますか?」
「僕もそろそろ帰ろうかなって思ってます。荷物がめちゃくちゃ多いので……」
「これにて終了、ということですわね。ではわたくしはおいとまさせていただきますわ」
そう言ってお辞儀をすると、エルさんは踵を返し去っていった。僕もユリアさんと別れて帰路につく。
電車に揺られながら僕はアワネちゃんのチャンネルを開く。最近は初見の人が多く来るようで、着々とチャンネル登録者が増えていると喜んでいたのを思い出した。コラボに力を入れるようになってから伸びが良い、とも言っていた気がする。
このまま順調に行って目標達成できたら良いな。そう思いながら今日投稿された動画を見ていると、アワネちゃんからメッセージが届いた。
ハワちゃん:永夢クン、今大丈夫っすか?
朔間永夢:うん。どうしたの?
ハワちゃん:来週宇宙に行こうと思うんすけど、一緒にどうすか?
ハワちゃん:星座作成プロジェクトに参加するんすよ!
送られてきたURLを見ると、その名の通りオリジナルの星座を作ることができるイベントのようだ。完成した星座は夜空に浮かばせることができるらしい。実施日は何も予定が無いから行ってみようかな。
朔間永夢:行ってみようかな
ハワちゃん:マジっすか!ありがとうございます!!!!
ハワちゃん:ほかにも誘う予定なので参加人数が決まったらまた集合時間の相談をさせてください!
ハワちゃん:では、また後で連絡しますね!




