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第三十話 フリーマーケット

 ひだまりタウンの外れにある大広場。人が大勢居て賑わっている中、僕はゲートから少し離れた場所でエルさんを探した。メッセージによると地味めな黒のドレスを着ているらしい。


「あ、居た」


 人通りがほとんどない場所にエルさんは立っていた。スマホを見ていて僕には気づいていないらしい。


「エルさん、お待たせしました」

「お待ちしておりました、人間。では早速行きましょうか」


 彼女はスマホをポケットにしまうとスタスタと歩きだし、それに慌ててついていく。もしかして、彼女は何か欲しいものがあったから僕の誘いに乗ってくれたのだろうか。

 エルさんは迷いのない足取りで会場の奥、オカルトコーナーへ向かった。1週間前に行った魔術商店と似た雰囲気の店が並んでいた。中には"本当にそれは安全なのか?"と思うような物まで売っていた。置いてるだけで体調不良になる壺とか、誰が買うのだろうか……。


「つきました。ここですわ」


 立ち止まり、彼女はある店の前に立つ。看板には【アーティファクト専門店】と書かれており、キラキラしたアクセサリーがずらりと並んでいた。商品の隣には名称と使用効果が書かれている。彼女は商品の一つを手に取ると、店員さんに話しかけた。


「これをくださいな」


 彼女が手に取った商品の名称と効果を見て合点が行った。呪詛遮断の指輪。効果は”自身にかけられた呪いの効果を無くす”というもの。彼女にとって妖精からの祝福は呪い同然だ。だから賭けたのだろう。”この指輪をはめれば心の声が聞こえることがなくなるだろう”と。


「おっ、お嬢さん。なかなかお目が高いね。誰かに呪われてたりするのかい?」


 茶髪の女性がカラカラと笑いながらチケットを受け取る。エルさんはニヒルな笑みを浮かべて肯定した。


「はい。とても……とても厄介なものから呪いを受けてしまいましたの」

「へぇ……。本当に厄介なものからお呪いを受けてしまったんだね。効果があると信じてくれた手前こういったことは言いづらいのだけれど、この指輪を使っても君のお呪いは無くならないよ」

「あら。そうなのですか?」

「うん。だってこの遺物の効果は”相手が呪いとしてかけたものの効果を遮断する”もので、相手がお呪いとしてささげたものには効果がないんだよ。そして現状、お呪いを遮断する遺物は見つかっていない」

「そうなのですね」

「うん。だからまぁ……そうだねぇ……言いづらいけれど、現状お嬢さんにかけられたお呪いの緩和及び解消は難しいと思うよ。永久的なものならなおさら」

「そう、なのですね」

「あぁでも! 今後そう言った遺物が見つかるかもしれないから、その時は連絡してあげる。あとこれチケット、返すよ」

「……ありがとうございます」


 エルさんのしょんぼりとした雰囲気に同情したのだろう。店員さんから受け取ったチケットを財布に入れると、彼女は指輪を返そうとする。それを店員さんは首を振って拒否した。


「いいよいいよ、返さなくて」

「どうしてですか?」

「アタシが参加したのは有り余っていたアーティファクトを処理するためだ。一個くらい無償で提供しても黒字になるくらい持ってんだよ。だからそれはお嬢さんにやる」

「ですが」

「お嬢さんのお呪いを何とかすることはできないけど、呪詛防止にはなるからさ。貰っても損はないと思うよぉアタシは」

「……では、ありがたく頂戴いたしましょう」


 彼女は指輪を薬指にはめると僕を見た。タダで貰えるとは思っていなかったのだろう、少し困惑したような顔をしていた。


「人間。これでわたくしの用事はすみました。……貴方はどこに行きたいのですか?」

「うぅん。僕は特に欲しいものがあるから来たわけじゃないんですよね。ただフリーマーケットの雰囲気を楽しみたかったというか」

「なるほど。では雑多に見て歩きましょうか。何か欲しいものが見つかるかもしれませんし」

「そうですね」


 ということで、僕たちはまずオカルトコーナーから見て回ることにした。とにかく怪しいものがたくさんで、見てて飽きなかった。


「あ、そこのお嬢さん! どうでしょう、この呪いのネックレスとか! 似合うと思うんですよね! どうですか!?」

「購入すると一生手放すことが出来ない呪いの人形! 一体なんと一クルミ! お買い求めしやすくなっております!」

「魔女による魔法説明書! 一般人でも簡単に魔法が使えるようになりますよ! 今ならなんと魔力が込められた宝石がついて十クルミ! 破格の値段となっております!」


 いろんな店が呼び込みをしており、オカルトという薄暗い雰囲気とはかけ離れた活気を見せていた。というか今、呪いのネックレスを人に勧めていなかったか?


「楽しいですね、ここ」

「興味深い商品が多いという点は同意です。……ですが、少し疲れましたね」

「どこかで休憩しますか?」

「……そう、ですね。わたくしは少し休憩してまいります。人間はお好きなように過ごしてください」

「え、でも……」

「独りで休憩したいのです。そちらのほうが、心が休まりますので」

「そっか……そうだよね。判りました。それじゃあいつ集合するか決めますか?」

「えぇ」


 ということで、僕とエルさんは別れて行動することになった。オカルトコーナーは一通り見て回ったし、次は書籍コーナーに行こう。

 書籍コーナーを見て回っていると、知人を見つけた。ユリアさんだ。真剣な表情で本棚を眺めている。


「ユリアさん」

「うわ! ……永夢さんでしたか。奇遇ですね」


 ユリアさんの隣に立ち、彼が眺めていた本棚を見る。自己啓発本がずらりと並んでいた。


「何か気になるものでもあるんですか?」

「あぁ、まぁ、そうですね。たまにはこういう物を読んでみようかと」

「自己啓発本をですか?」

「生前の向き合い方の参考にしようと思いまして」


 そう言って彼はテキトウな本を手に取りパラパラとめくった。しっくり来たものがあったのだろう。彼は数冊の本を手に取ると財布を取り出した。


「あっ待ってください」


 僕は慌てて冊数分のチケットを取り出し彼に渡す。ユリアさんは困惑した様子でチケットの文字を読んでこちらを見た。


「良いのですか?」

「はい。たくさん持ってるので、ぜひ使ってください」

「……では、ありがたく」


 買い物が終わり、ユリアさんと僕は一緒に見て回ることになった。


「それにしても、ユリアさんが居るとは思いませんでしたよ」

「ここでの用事が思っていたよりも早く終わったのでよってみたんです。気になってましたから」

「そうだったんですね」


 雑談をしながら書籍を見て回る。気になっていたが入手困難な本や、状態のいい特典付きの本など、普通に買ったら高くなるような本が1、2クルミ程度で売っていた。そのせいか、気になった本を片っ端から買ってしまい、気づけば大きな紙袋を二つも持っていた。

 二時間ほど経っただろうか。スマホが震え、画面を見るとエルさんからメッセージが届いていた。


 Elle:気持ちが落ち着いてきたので合流したいと思っているのですが、今どこに居ますか?


 エルさんに居場所と知人が一緒に居ることを伝えると、”そこに向かうので待っていてくれ”と返信が来た。


「誰からですか?」

「僕の知人からです。ちょっとだけ別行動してて、そろそろ合流しようかって」

「そうなんですね。……もしかして、僕は居ないほうが良いですか?」

「どうだろう……」


 彼女がユリアさんのことをどう思うか判らないからなぁ……。

 答えに迷っていると、エルさんから再びメッセージが届いた。書籍コーナーに来たが先ほど伝えた場所から移動していないかの確認だった。移動していないと送ったあと、すぐにエルさんがやってきた。現代的な服を着ている人が多い中、中世的な服を着ているエルさんはだいぶ判りやすい。

 ……もしかして、僕が探しに行ったほうが早かったか?


「ずいぶんたくさん買ったのですね」

「あ、あぁ。うん。安価で買えるものが多かったから、つい」


 穏やかに微笑む彼女に、僕は照れくさくなってあいまいに笑った。よく見たらエルさんも何か買っているようだった。赤い宝石らしきものが紙袋からはみ出ている。小さいけどだいぶ重そうだな。


「それで、こちらの方はご友人さんですか?」


 エルさんはユリアさんのほうを見る。その目は冷ややかで、少しだけ嫌悪の色を示していた。彼は居心地が悪そうな顔で自己紹介をする。その様子が愉快だったのだろう。エルさんは微笑むと優雅にお辞儀をした。


「お初にお目にかかりますわ。わたくしはエルと申します。あなたとは仲良くなれそうですわね」


 その言葉で、ユリアさんは困ったように僕に視線を向けた。彼女の言葉に困惑している様子だった。自己紹介しただけで急に交友の意思を示されたら驚くのもしょうがない。嫌悪の色を示していたのなら尚更。

 ユリアさんはエルさんを見た。彼女は愉快そうに口角を上げている。ますます判らなくなっているようで僕に耳打ちした。


「なぜ嬉しそうにしてるんですかこの方は……」

「ユリアさんが嘘を吐いていないから、かなぁ……?」

「んっふふ」


 彼女は口元に手を添え、くすくすと笑いだした。


「その通りですよ、人間。動揺しただけかもしれませんが、貴方は感情を隠すようなことをしなかった。好感ポイント+1です」

「ポイント制なのか……」

「ポイント制なんだよね……」


 と、そこまで話したところで_僕のお腹が盛大に鳴った。恥ずかしくてすぐにお腹を押さえる。2人はびっくりしたように目を丸め僕を見ていた。


「……そういえば、もう昼時ですね。近くのキッチンカーで何か食べますか?」

「そうですわね。わたくしもお腹が空きましたし、行きましょうか、人間」

「そ、そうですね……!」


 顔に熱が集中するのを感じながら、僕たちは近くのキッチンカーへ向かった。

お読みいただいてありがとうございます。

これからもがんばって続きを書いていきますので、ブクマやこの下の星でポイントをつけて応援していただけるととても嬉しいです。

どうぞ、よろしくお願いします!

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