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第二十八話 ケイウ街の魔術商店

 奈子さんがこの国に移住してきた翌日。僕はケイウ街にやってきた。

 奈子さんがここに住み始めたかもしれないから、というのもあるけれど……単純にこの街に来たことがなくて、どんな雰囲気なのかが気になったからだ。

 ケイウ街は現在小雨が降っている。この街の住民と思わしき人達はみんな傘をささずに歩いていた。雨が好きな人が多く住んでる街だとアワネちゃんが言っていたし、雨に当たるのが好きな人も多いのかもしれない。


「あれ、永夢?」

「え?」


 声をかけられ、声のした方を見ると紗夢さんが立っていた。水色の可愛らしい傘をさしている。


「奇遇ね、こんなところで会うなんて。何か用事でもあったの?」

「まぁ、用事と言えばそうなのかな」


 ここに来た経緯を説明する。育て親がこの国にやってきたこと、もしかしたらこの街に越してきたかもしれないということを。紗夢さんは納得したようでぽんと手を叩いた。


「そうだったのね! じゃあこれから柏木さんに会いに行くの?」

「あ、いや。本当にここに住んでいるのか判ってなくて」

「それじゃあなんでここに来たの?」


 呆れ眼で僕を見つめる紗夢さん。その通りすぎてぐぅのねもでない……。


「この街を彷徨い歩くより役所に行ったほうが早いんじゃない? 身内なら教えてくれるかもしれないわよ」

「それはそうだけど……」


 でも、引っ越したばかりだといろいろ忙しいかもしれないからなぁ。


「奈子さんがここに越してきたかもしれないから来たのは事実だけど、この街がどんな場所が知りたかったのもあるから……」

「そっか。なら一緒に街を探索しない? 私もここに越してきたばかりで何があるか判らないから」


 紗夢さんはふふんと胸を張る。僕は彼女のその提案に乗り、この街を探索することにした。


 ケイウ街には色とりどりのアジサイが街中に咲いていて、アジサイの写真を撮っている人が多い。それ以外にも、大通りにはカフェが多くておしゃれな恰好をした人たちがカフェテラスでコーヒーを嗜んでいるのが見えた。


「なんというか、おしゃれな街なんだね」

「ファッション系のお店も多いみたいよ、ここ。まぁお高めのお店がほとんどなんだけど」

「あ、ほんとだ。有名デザイナーさんがやってるお店が多いんだね」


 スマホで調べると一番上に名前が出てくる人が多い。……というかケイウ街って全体的に単価高いんだな。サジェストに高級街って出てくるほどだ。奈子さんこの国に来たばかりでここに引っ越すのは金銭的にしんどいんじゃないか……?


「あ、見て永夢。魔術商店ですって」

「え? ……あ、ほんとだ。胡散臭そう」


 紗夢さんが指さす方向を見ると、何やら怪しい物が雑多に置かれた店があった。看板には魔術商店と達筆な漢字で書かれており、雰囲気とミスマッチしているように見える。


「気になるわね。行ってみようかしら」

「冷やかしになるけど良いのかな……」

「今調べたけど冷やかし歓迎ってホームページに書いてあったわ」

「それなら良いか。良いのか……?」


 少し躊躇いがあったけど、好奇心が抑えられず僕たちは魔術商店に入った。中には大釜や竹ぼうき、干しカエルにマンドラゴラなど、とにかくファンタジー作品でよく見るような商品が置いてあった。


「いらっしゃい、よく来たね」


 店長と思わしき白髪の美少女が薄笑いを浮かべる。こういう店は怪しそうなおばあさんが経営しているイメージだったけど、今目の前に居る少女は至って普通の女の子に見えた。


「何か欲しい物でもあるのかな? それとも冷やかし? 質問があるなら遠慮なくどうぞ!」

「この店ってどういう物を売ってるんですか?」

「そうだねぇ」


 店長さんは店内をぐるりと見まわした。


「漢方の材料とか……後は錬金術に必要な素材を販売しているよ。一般人向けにコスプレ系の物やちょっと珍しい食材を売ってたりするから、ぜひ何かしらを買ってくれると売り上げ的に助かるんだけど」

「コスプレ……」


 確かに、一般人向けのやつは判りやすくポップ広告が書かれている。……うわ、妖精肉が売ってる。妖精って食べていいやつなの?


「あぁあと、魔導書とかも売ってるよ。知り合いが書いたやつがほとんどだけどね。一部を除いて一般人でも簡単に、安全に使えるものしか置いてないから安心して買ってくれ」

「魔導書って本物なんですか?」

「そりゃあ本物だよ! こう見えてマジモンの魔女なんだからね、わたしゃ。本物かつ安全だというお墨付きをもらっているから大々的に魔導店を構えられてるんだよ」

「魔女に偽物ってあるんですか?」

「あるよ、あるある! 産まれたときから魔力を持っている魔法使いと、外的要因で魔法使いになった存在の二種類が居るんだよ。後天性の魔法使いは人間で、先天性の魔法使いは人間とは違う別の種族だと思ってもらえると判りやすいかな。因みに先天性だと女しか存在しないよ。だから魔女」


 店長さんは己が魔女であることに誇りを持っているようで、自慢げに説明をしてくれた。

 彼女との会話もほどほどに店内を見て回ろうかと思ったとき、軽快な声と共に勢いよく扉が開いた。


「てぇんちょ! 新しく魔導書を持ってきたわよ~!」


 白髪の女性がウキウキした様子で分厚い本を掲げる。店長さんが大人になったら彼女になるのだろうなと思うほど女性と店長さんの顔は瓜二つだった。


「ってあら? もしかしてご新規さん? 初めまして~店長の姉弟子の魔女で~す!」

「は、初めまして……」


 魔女さんは本をカウンターにほっぽると商品を見て回っている紗夢さんと僕の顔を交互に眺めた。


「うぅん、そっくりな顔立ちを見るにご姉弟さんかな? ぜひあてくしが綴った魔導書を買って欲しいわ~! マジで日々の生活のストレスがなくなるって評判なの!」


 そう言って魔女さんは本棚から青い本を取り出した。受け取り中を軽く見てみる。服が綺麗になる魔法(洗濯が面倒なあなたに!)に、皿を綺麗にする魔法(これで洗い物をなくそう!)……この本に書いてあることは確かに日々のストレスを無くすような魔法ばかりだった。

 魔法の手順がかなり複雑なことを除けば。


「…………」

「おい君、素直に言ったらどうだい。こいつの魔法ってクソ複雑なんだよ。そのせいでクレームが絶えないんだよな」


 店長さんに小声でささやかれる。クレーム絶えないんだ……。


「あの、その評価って誰から頂いたものなんですか……?」

「え? 魔女仲間からだけど」

「あー……」


 魔法を使い慣れている者からしたら楽なんだろうな、きっと。


「で、どう? どう!? 買ってくれる?」

「ちょっ……と今は金欠なので……」

「そう……」


 肩を落とし、あからさまにショックを受けたような動作をする魔女さん。そのあまりの落ち込みように罪悪感が募ったが、魔法を使ったことがない僕がこの魔法を使う時間と皿を洗う時間を考慮したら……まぁ、皿を洗った方が早い、かな。


「本当に買わないの? 確かに初心者には難しい魔法だと思うけれど、コツとかもちゃんと書いてあるのよ……!?」


 すごい食い下がってくるな……。

 苦笑いをうかべていると、店長さんが魔導書で魔女さんの頭を叩いた。


「金欠って言ってるでしょうが! アンタも金欠なのは判るけど、無理強いは良くないよ!」

「うぅ〜……だってぇ……」

「だってぇじゃない! ごめんね少年。クソアホ姉弟子が迷惑をかけて」

「い、いえいえ……僕は気にしてないので、謝らないでください」


 魔導書をカウンターに置き、紗夢さんの行方を探す。彼女は冷蔵庫の前で中の商品を眺めていた。


「なにか買うの?」

「え? あぁ。珍味が沢山あるから、資金の許す限りの商品を買って憂病たちと食べ比べしようかな〜って」

「食べ比べ……」


 冷蔵庫に入っている商品を見る。妖精の肉にドラゴンの脚、カエルの燻製に……え、悪魔の肉がある。食べていいのこれ? っていうか肉体あるの? 悪魔って。


「これ食べても問題ないやつなの……?」

「…………そう言われるとちょっと不安になってきたわ」


 カウンターを見る。店長さんはニヤニヤとした顔で僕たちを見ていた。戸惑っている僕たちを見て悦に浸っているように見える。


「一応言っておくけど、一般人向けの商品は安全なものばかりだよ」

「そうなのね……じゃあ一通り買ってみようかしら」


 紗夢さんは冷蔵庫に入っている食材を全種類購入し、僕たちは店を出た。


「……なんというか、濃い店だったわね、色々と」

「たしかに……」


 なんというか、ごっそりと体力が持っていかれた気がする。

 

「あっ、永夢クンに紗夢チャンじゃないっすか!」

 

 近くの喫茶店で一休みしようかと話していたら明るい声で僕たちを呼ぶ声が聞こえた。声をした方をむくと、アワネちゃんが大きく手を振ってこちらに駆け寄って来るのが見えた。

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