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第二十四話 三途の川の祭り

 日曜日の昼。僕は三途の川付近にある花畑へと来ていた。

 この花畑には百合と彼岸花が混ざったような見た目をした深紅の花が植えられている。追悼華(ついとうか)、と呼ばれている。隙間なく植えられた花はまるでカーペットのようだった。

 僕は近くのベンチに座って、テキトウに買ったジュースを飲む。三途の川の近くではねこによるねこのための屋台が並んでいて、これはその屋台で買ったものだ。なんだったっけ……あの日の夏の思い出の味、だったっけ。なんかすごい比喩的で何味なんだか判らない商品名だった。スイカ味のジュース、なのだろう。きっと。

 三途の川の祭りは不定期に開かれるようで、ねこがたくさんいた。それはもう、たくさん。集合体恐怖症の人には耐えられなさそうだな、この光景。

 全員同じ見た目をしているから、見ていてすごく不思議な気持ちになる。たまに人も見かけるけれど、ねこの波に飲まれていた。

 僕が今日三途の川に来た理由は、あまりにも暇すぎてどうせならあんまし行かないような場所に行こうと思ったからだ。三途の川はあの世とこの世を隔てる場所であるから、ここに来る人は基本的に、現世に未練がある人か、現世へ観光に行く人くらいしか居ない。この国には色んな観光地があるからわざわざ何もない三途の川に来ようと思う人は居ないのだ。


(それにしても、ねこってこんなにいるんだなぁ)


 ジュースを飲みながら、ぼんやりと思う。ねこは獄卒であるため、色んな場所で僕たち亡者を監視しているのだ。と言っても、僕たちがねこを見るのは交番か、暴力沙汰が起きた時くらいなんだけど。そのせいか、僕の中でねこの数はそんなに居ない者と認識していた。今日までは。

 もう本当に多い。川かな? と思うくらいに。どうやって目的地へ歩いているのか不思議なくらい密集している。人間だったら雪崩が起きても不思議ではない。

 でも不思議なことに、この祭りに参加しているねこたちは触れないのだ。この中を歩いたから判る。この空間ではヒト同士の当たり判定が無くなる。気になって調べてみたら、祭りの時限定で当たり判定が無くなるらしい。すごく便利だなと思うと同時に、原理が判らなさすぎて怖いと思う。


「となり、いいかにゃ」


 ストローを噛みながらぼぉっとしていると、顔に切り傷の痕がついたねこが隣に座った。無からタバコを取り出し、慣れた手つきで火をつけた。


「ニンゲンがここにいるにゃんて珍しい」

「そうかな? 今日は屋台が出てるし、いつもより人は多いと思うけど」


 ねこは僕の顔を見る。口をあんぐりと開けて、まるで驚いたような表情だ。


「あれがニンゲンに見えとるんか? キサマ、されは鈍感だにゃ?」

「え、違うの?」

「今日、ここに居るのは獄卒や黄泉の国の管理職員くらいにゃ。今ここにニンゲンはキサマ1人だけ」


 そう言うとねこはその理由を話し始めた。


「三途の川の祭りに参加できるのは獄卒だけと、エンマ様が決めたんだにゃ。今日亡者が三途の川に来ても、見れるのはせいぜいそこに生えてる追悼華だけ。屋台でなにか買うことなんてできんのにゃ」


 でも、とねこは僕の持ってる入れ物を指さす。


「キサマは屋台のものを買えている」

「……それが本当だったら、なんで参加できてるんだろ?」


 ねこは「はふーん」と息を吐きながら理由を教えてくれた。だいぶ抽象的で要領を得なかったため何度も質問して(だいぶ面倒くさそうな顔をしていた)、たどり着いた答えを簡単に言うと_。


 波長が合った。

 ただそれだけ。


 それだけではあるのだけれど、この祭りで波長が合うことはなかなかないらしい。僕のような人は管理職員になることができると転職をおすすめされた。転生ができなくなるので丁重にお断りした。


「それにしても、ねこってこんな沢山居るもんなんだね」

「そりゃあそうにゃ。黄泉の国の治安維持は完全にねこの管轄だからにゃ〜。アホみてぇにでかい黄泉の国を完璧監視するにはこれくらい居ても足りないくらいなんだにゃ」


 ねこはなにか嫌なことを思い出したのか、眉をしかめケッ!! と唾を吐いた。


「黄泉の国は天上院エンマの一存で土地が増えたり減ったりしてるんだよね。じゃあねこはどうやって増えるの?」

「極秘情報だから教えることはできないにゃ。ただ……そうだにゃあ……ねこは猫であった、とだけ言っておくにゃ」

「? 意味同じじゃない?」

「そこは自分で意味を考えろにゃ」


 ねこは腕をヒラヒラと振ると立ち上がった。


「タバコ休憩も終わったし、ねこはもう行くにゃ。あんまにゃがいすんにゃよ〜!」


 タバコを地面にこすりつけると、ねこは爆速でねこたちの中に紛れていった。僕はコップをゴミ箱に捨て、鬱之さんたちへの土産を買って三途の川を後にした。

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