第十三話 シューティングライドで遊ぼう!
チュロス休憩を終えて、僕たちは羽尾さんの提案でコーヒーカップに来ていた。コーヒーカップはカボチャの形になっていて、最大八組乗ることができる。三十分ほど待ち、僕たちの順番になった。
「赤色のやつに乗りましょ! この色が一番回しやすいようです!」
彼女はそう言って赤色のカップに乗り込む。それに続いて僕たちも乗り、従業員さんのチェックが終わるとゆっくりと動き出した。コーヒーカップというアトラクションには初めて乗るけれど、結構スピードがあるし、別のカップとぶつかるんじゃないかと思うくらいギリギリまで近づいていてちょっと怖い。
羽尾さんとユリアンさんはワクワクとした表情でカップの中心にあるハンドルを勢いよく回している。ユリアさんは青ざめた表情で僕の手を強く握っていた。物凄く速いから踏ん張らないと飛んでしまいそうだ。
「だ、大丈夫ですか? ユリアさん」
あまりに死にそうな顔をしているから声をかけるが、彼は放心状態のようでなんの反応も返ってこない。
アトラクションが終わり、ユリアさんを支えながらカップを出る。
「あの、ちょっと休憩したいのですが……」
「あ、僕も休憩したいな」
ということで、僕とユリアさんは自販機近くのベンチで休んでいた。羽尾さんたちはたぶん、絶叫系のアトラクションに乗っているんじゃないだろうか。
「……朔間さんは彼女らと遊ばなくてもよろしいのですか?」
周囲の声を聴きながらマップを見ていると、隣に座っていたユリアさんがそう言った。
「絶叫系はそんな得意じゃないので、少しだけ疲れてしまって」
「なるほど」
彼は頷くと膝を抱えて顔を伏せた。僕たちの間で沈黙が流れる。聴こえるのは他のお客さんの歓声だけだ。……何か言うべきだろうか。
「……貴方は、生前病院で暮らしていたんですよね」
悩んでいると、彼は顔を上げてこちらを見た。白く長い前髪の隙間から青色の瞳が見える。
「う、うん……そうだけど」
肯定すると、彼は顔を近づけ僕の顔を見つめた。
「質問します。気分を害されたら申し訳ございません。どうやって、生前の苦しみを乗り越えましたか?」
生前の苦しみ? ……そう言えば、この人は人と関わるのが苦手になってしまったとユリアンさんが言っていたな。生前、何かあったのだろう。_それにしても、生前の苦しみかぁ。
「僕にとっての苦しみは、自分の脚で、自由に歩けなかったことなんだ。でもこの国では自分の脚で自由に歩けているでしょ? その時点でもう、僕の苦しみは和らいでいるんだと思う」
「そう、ですか……」
彼は僕から離れ、ベンチに座りなおす。求めていた解答が得られなかったからだろうか、少し悲しそうだ。彼は生前の苦しみから抜け出したいから僕にこんな質問をしたのだろう。苦痛から抜け出したい気持ちは理解できるから少し申し訳ないな。
「お二人とも~! お待たせしましたっす!」
何か話しかけようとしたら向こうから小さなバケツを持った羽尾さんとフランクフルトを食べているユリアンさんがやって来た。羽尾さんにバケツのことを聞くと、売店でポップコーンを買ってきたらしい。カボチャプリン味で子供に人気なのだとか。
「疲れた身体には甘いものが一番っすからね!」
「近くにホットミルクチョコも売ってあったよ。兄さんこれ好きだったよね?」
「ありがとうございます」
ポップコーンは濃厚なカボチャの味にほろ苦いカラメルが絡んでいて美味しい。甘さ控えめでいくらでも食べれそうだ。ユリアさんは彼が買ってきたホットミルクチョコを両手で持ちながら飲んでいる。
「それで、今度は何処に行きます?」
「シューティングライドはどうでしょう。それなら酔わないでしょうし……それに、欲しい景品があるんです」
ユリアさんはスマホの画面を僕たちに見せる。「ハロウィン物語集」という、ハロウィン☆彡ワンダーランドでしか買うことができない本があるらしい。普通に売店でも売っているけれど、どうせなら景品で手に入れたいのだそう。
アトラクションはここから遠いところにあるからバスで行くことになった。黒猫のデザインの小型バスだ。僕たちのほかに五人ほど乗っていた。
アトラクションの前についた。ゾンビが銃で撃たれかけている看板が掲げられた建物で、待ち時間は75分。駄弁りながら待っていると僕たちの順番になった。四人乗りのゴンドラに羽尾さん、僕、ユリアンさん、ユリアさんの順番で座る。
目の前にはオレンジ色のレーザー銃が固定されていた。標的にヒットするとポイントが追加されるようで、終わるまでに獲得したポイントの数で景品が変わるようだ。ユリアさんの目当てであるハロウィン物語集は900~1000ポイント以内で貰えるらしい。
最初のステージは病院だった。緑色にライトアップされた廊下にゾンビのパネルが20体配置されていた。手前の右端に居るゾンビにレーザーを合わせて撃つとパネルが倒れ、銃の下にあるパネルに5ポイント追加された。倒れたパネルは10秒で戻るらしい。
「自分が撃ったものなのか他の人が撃ったものなのか判りづらいっすねこれ!」
隣で羽尾さんがそう言っているのを聞き、心の中で同意する。ライトが点滅する上に、他のゴンドラに乗っているお客さんのレーザーもあるから自分は今どこに銃を向けているのか判りづらい。それに同時に同じ的を撃ったらコンマで早かったほうに点が与えられるから思っていたよりも点が取れていない場合があるらしい。並んでいるときに目の前に居たお客さんたちがそんな会話をしていたのを思い出した。
そんなことを考えながら的を撃っていると、今度は森のステージ到着した。枯れ果てた杉林に二十五体ほどのゾンビのパネルが配置されていた。クマやオオカミ、人間の死体を食らっているゾンビのイラストもある。一番上の真ん中に居る一際大きなゾンビを撃つと30ポイントがもらえるそうだ。ただ、1回撃つと戻るまでに40秒かかるみたい。パネルの下にあるスピーカーがそんなことを言っていた。
森のステージが終わり、中間結果がモニターに写される。
「兄さんすごいね、もう500ポイントも集めたんだ」
「ん、まぁ。これくらいなら余裕です」
「うわー! 全然取れてない! ゲームコントローラーまで1000ポイント以上取らないとなのに!」
そんな会話を隣で聞きながら僕の今の点数を見ると、261ポイントだった。はじめてにしてはまぁ、結構とれているほうなんじゃないかな。
次のステージは市街地だった。左右にビルがあり、二車線の道路には爆発した車や窓が割れた車のイラストが描かれていた。少し煙っぽい。運転席に乗っているゾンビを撃つと10ポイント獲得した。スピーカーから何ポイント獲得したか、どのゾンビを撃てば高得点がもらえるかが逐一流れるので結構便利だ。ただ音量が小さくてステージのギミックや銃を撃つ音にかき消されてほとんど聞こえないのが難点だけど……。
『最終ステージまで来たよ! 観覧車やジェットコースターに乗ってるゾンビを撃つと_なななんと! 百ポイントも貰えちゃう! でも1回撃つと起き上がるまでに一分半かかっちゃうから早いもの勝ちだね!』
真ん中に観覧車があり、それを囲むようにジェットコースターのレールがあった。観覧車のゴンドラは五個。その中から四個のゴンドラに一匹ずつ乗っていた。ジェットコースターではおそらくカップルであろうゾンビが五組乗っていて、ギャーと悲鳴のような声を出している。
どちらも動いているから狙うのは大変そうだ。僕は下のほうに居る遊園地を楽しんでいるであろうゾンビを優先的に撃った。
「ゾンビ・ヒット・ガンは楽しんでいただけたかな? 出口にある景品受け渡し所で景品を受け取ってね! アディオス!」
ゴンドラから降りてキャストさんから景品を受け取る。僕のポイントは648ポイントで、棒のような手足が生えたジャック・オー・ランタンのぬいぐるみを貰った。
ユリアさんと羽尾さんはハロウィン物語集を、ユリアンさんは駄菓子詰め合わせセットを貰っていた。
「コンマ一秒でも早く観覧車のゾンビを撃っていれば……」
羽尾さんは肩を落とし項垂れている。どうやら狙っていたゾンビを何回もほかの客に横取りされてしまったらしい。
「今回の敗因は高得点の的ばかりを狙っていたことですね……」
「ユリアンさん、全然点取れてなかったね」
「はは。自分のレーザーがどこにあるか判らなかったんだ。_いや、誤魔化しじゃなくて、ほんとに」
「慣れてないからね、こういうの」と言いながら頬を掻くユリアンさん。
園内に設置されている時計を見ると正午だった。そろそろお昼時だ。
「きゃっ」
近くにあるレストランで食事をとろうかと話していると、正面から走ってきた少女とぶつかった。後ろに倒れそうになった彼女の手首をつかみ、転ぶのを阻止する。灰色がかった黒い髪を高い場所で2つ結びにしている、気の強そうな顔をしている女の子だった。
「大丈夫ですか?」
「平気よ。ありがとう」
彼女は微笑む。そして僕の顔を認識すると驚いたように目を丸めた。赤い瞳が僕を映す。
「あの、どうしましたか?」
声をかけると、少女は僕の両肩を掴んだ。眉を吊り上げ、怒りの表情で僕を見据える。
「アンタ、なんでここに居るのよ!」
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