死神のオシャレ。
〝『お任せします。』〟
とは言ったものの春子はどうせならと精霊の神にリクエストしてみる。
「精霊の神様。私の髪の色はルリコンゴウインコに「大丈夫ですよ。私に任せてくださいね。」
「いやでも______ 。」
そこで春子の意識は強制的に刈り取られ暗転した。
物心つく頃には色彩豊かな物を好んで収集するようになっていた。
きっかけは浜辺で拾ったシーグラスだったように思う。
そして基本的にジャンル関係なく幅広く収集していたがある時からド派手な色をした生物を好むようになり生態調査に参加したりもした。
だから、目覚めた今。
自身の好みと真逆に位置する人物が鏡に映っているのを見て愕然となった。
(こ、コレは、精霊の神の趣味嗜好が大いに反映されたモノでは...?)
鏡には
白髪か?銀髪か?ショートカットの
瞳は薄い紫色で
全てのつくりが華奢な、色素の薄い
まだ子供と言って差し支え無さそうな少女がいた。
そこに、ルリコンゴウインコは何処にも無かった。
「精霊の神様。いくら何でも自身の癖を「違います。」
春子が意見しようとしたが言い終わる前に精霊の神が否定し、そのまま説明をはじめる。
「貴方の向かう世界には《魔素》というものが存在します。免疫の無い貴方は彼方の世界に降り立った瞬間から、おそらく魔素酔いを起こすでしょう。そしてその症状は成人だと長引き、成人未満だと割とはやく順応できる傾向にあるのです。」
(マズい...。思いの外しっかりした理由があった。)
「え〜...っと。申し訳ありませんでした。」
「ご理解頂けたようで良かったです。」
「あのっ!」
だが諦めきれず春子は意を決して再度声を上げる。
「なんでしょう。」
「あ、の...。っっっ...器。あ..りがとう..ございま(す)。」
しかし勢いよかったのは初めだけで、あとは尻すぼみに声のトーンが落ちると最後は聞こえるかどうかの声で御礼の言葉を口にした。
(くそぅ!精霊の神の癖を疑ったばかりにルリコンゴウインコの件が言えなくなってしまったじゃないか、バカ春子!)
「よくお似合いですよ。」
そして精霊の神が微笑むと春子はガックリ項垂れたのだった。
そんな精霊の神との遣り取りがあったあと
春子は手元に戻ってきた自身のキャリーケースを床に広げ、アレやコレやと中身を物色していると何やら気配を感じ顔を上げる。
(ぅお!!)
するとそこには今の春子と同じようにしゃがみ込んだ死の神がキャリーケースを覗き込んでいた。
「.......もしかして興味ある?」
〝コクリ。〟
「(おぉ!頷いた!!)そっか!死神、もしかしてコノ良さがわかる神!?コレはねモンゴルの敷物。デザインも素敵だし丈夫なの。」
〝コクリ。〟
(おぉ!!)
死の神のまさかの返事に春子のテンションが一気に上がり上機嫌で話を続ける。
「で、こっちはブータンの祭りの時の面。そしてコレは民族衣装なんだけど此処にあるのは女性用で《キラ》って言うの綺麗でしょ。」
〝コクリ。〟
「コレはペルーの《エケコ》っていうお人形〜こんなナリしてるけど福の神なんだって。知り合いの神様だったりする?」
〝...??。〟
そして暫く話をしていると春子は死の神がそこにある面を気にしているが分かり手に取る。
それはイタリアで開催されるベネチアカーニバルに行ったときに記念として購入した物で、春子はその面を死の神に見せどんなお祭りかを説明する。
「豪華なお面だよね。白地に装飾がよく映えてる。」
〝コクリ。〟
「着けてみる?」
〝ふるふる。〟
(お。コクリ以外の反応はじめて見た。横に頭が振れたという事は拒否か?遠慮してるのか?)
そう思うと春子はその面を死の神に差し出す。
「いいよ。着けてみなよ似合うと思うよ。」
すると少し躊躇う様子を見せた死の神だったが、
次には動きをみせその身に纏う布から手が伸ばされた。
(肌白ッ!そしてやっぱり人型なんだ。)
春子は若干動揺した気持ちを隠しながら、その手に面を掴ませる。
そして死の神はそのままフードの下にある自身の顔の位置に面を持っていくと装着した。
「わぁ!似合ってるよ華やかになった!!「不気味さが増したの間違いだろッ!」気に入った?」
〝コクリ。〟
「そか。じゃあ、それあげる。」
〝ふるふる。〟
「あげる。」
〝コ、コクリ。〟
春子は途中割り込んだ時渡りの神の雑音は完全にスルーし、ニコニコ顔で死の神を見る。
(というか、時渡りの神様まだいたんだね。)
それからまた他の荷物を〝『コレはあ〜で、こ〜で』〟と紹介していると再び死の神がある物に興味を示したのが分かった。
「それはね弥生時代の鎌を参考に自作したものなんだ〜といっても刃は鉄じゃないからホントおもちゃなんだけど。持ってみる?」
〝コクリ。〟
春子は学生時代興味本位で創作したボロ鎌を何の気なしに〝「はい」〟と死の神に渡す。
すると次の瞬間。30cmほどだった鎌が〝大鎌〟へ驚きの変貌を遂げ、春子はしゃがんだ状態から尻もちをついて呆然とそれを見上げる。
(なんということでしょ〜。
刃も柄も共に実家の庭で拾った、ただの廃材で作られた鎌が今や柄の部分は大きく成長し、漆黒の光沢感ある材質に。
三日月の刃は来るもの皆、傷付ける仕様に様変わり。)
「し...死神。気に入った?」
〝コクリ。〟
「そ、そか。じゃあ...それもあげるよ。」
〝コクリ。〟
だってかつて廃材だった面影は何処にもなく素材も形状も変わり果て、今や到底私の物と言えない。
「よく似合ってるよ。うん、ホントに...。」
〝コクリ。〟
と、ここで元のサイズに戻った鎌を死の神は自身を覆う布の下に収納した。
「....。」
春子は与えてはいけない物を与えたのでは?
と先程見た光景が脳裏をかすめたが、
大きく頭を振ると考えるのを放棄した。
それから後に死の神が大鎌を振り翳し天界で騒動を起こすが、それはまた別の話。