森野春子という因子。
(何?他の世界?異世界ってやつ?そういえば昔沖くんの家に通ってたときヤツの部屋にはそれ系の漫画が沢山あって読んだな...。)
精霊の神の発言を聞いて春子が記憶を思い返していると創造の神が話を先に進める。
「あなたが此方に来た時点では器はまだあったのよ。
しかし精霊の魔力によって時を止め、死者の座標を歪めたあなたはその影響を直に受け深い眠りに入った。
そして今回目覚めるまでの間に器は無に帰し核だけとなったのだけれど、もしあなたが輪廻の門を潜ろうとすれば、その時点で消滅してしまうわ。」
(え...。)
何故だか時間止めて死者の座標云々を私がやった風に聞こえたのだけど…?
いや。それより...。
輪廻の門も潜れず消滅?
それはつまり私はこの先何かの魂として繋がって行くことがないと?
するとそこで思考を読んだ創造の神が〝コクン〟と頷く。
『まったくの消滅?』
〝コクン。〟
『しょうめつ?』
〝コクン。〟
『ショウ=メツ?』
〝コ、コクン。〟
「言い方を変えても無駄だ。」
(そんな...。)
春子は余計な一言を加えた時渡りの神を完全に無視すると言葉少なにショックを受ける。
『あの〜...。この場所(神域)に来たのは、その面の影響があったというのはとりあえず理解しましたけど(百歩も千歩も譲ってだが)時間を止めたり?座標を歪めた?は、私のせいじゃないっていうか...全然、ホントぜんっぜん!まったく!心当たりがないんです。私にそんな摩訶不思議な能力ないですし。』
〝あ。神様達はご存知ないのでしょうが、地球でそんな不思議な現象を起こす人は手品師と言って、そこには種も仕掛けもありまくりで___〟
と、春子が説明しているとテーブルの上にドスンとそれが載せられた。
『!!』
どピンクのキャリーケース。
それは今では珍しくもない色だが社会人になりたての頃、海外に行く機会が増え他所の空港で自分のだと分かるようにその色を選んだ。
それから色彩豊かにマンドリルが描かれた木製の面は事故に遭ったあの日身につけていた...。
どちらも間違いなく私の物だ。
「通常此処には生前の品は持ち込むことはできん。
しかしお前はどういうわけかコレらを離さず持ち込んだ。
そして先程同様その面からも精霊の魔力が感じ取れる。その事からみて時が止まったのもその面による影響があったと考えられる。」
『コレはアフリカの少数民族調査の帰りにたまたま立ち寄った露店で購入した物で、そこにはまだまだ沢山のお面があったわけなんですが、それらにも精霊の魔力があるとしたら?それでも今回時が止まった要因になったのがコレだと?』
春子は何でもかんでも私物に原因があるとされるのは如何なものかと時渡りの神に向かって異議を唱える。
するとその時春子の横で静かにお茶をしていた精霊の神が〝「そうですね。」〟と呟く。
「通常時というのは気付かれていないだけで止まることもその逆もよくあります。しかしその場合、時を管理する時渡りの神が干渉して起こることが殆どです。そして普通はその面に感じられる精霊の魔力くらいでは時に干渉することはまずできません。が、そこに精霊と親和性の高い者の言霊が加われば別です。」
『言..霊...?』
「お前はあの時何と言ったか覚えているか。」
何故か神妙な顔した時渡りの神に春子はイヤな予感がする。
あの時?....それはつまり。
〝 「沖ッ!!!止まれーーーーー!」 〟
『....。』
「貴方は元々精霊と親和性が高いのでしょう。日常では気付くことはなくとも今回のように〝想い〟が言葉にのってしまえば、それに精霊が応えることはあるのです。」
「そしてお前は死者の座標に固定されていた者を無理矢理動かしそこに自身が収まった。」
精霊の神と時渡りの神が立て続けに話す内容を春子は頭で整理しながら聞いていたが、此処に来る前の暴挙を思い出し〝『あ。』〟と小さく声を漏らす。
つまり死者の座標って、固定って........沖くん?
春子は頭をゆっくり動かしその神に向くと
こちらを向いていた死の神が〝コクリ〟と頷く。
『なァァァーーーーッッッ!!』
アイツ固定されていたのか!
だからあんな重さに!
それを殴り飛ばして動かしたと…。
全然心当たりが無いどころかガッツリ加害者だった。
若干時間止めたのは不可抗力な気がするけど...。
ここである重要なことに気付いた春子は自身の〝仮の器〟に目をむける。
『...はじめから、私を断罪の業火で焼く気「違う。たまたまだ」
すかさず時渡りの神から否定が入ったが春子が疑いの目で死の神を見ると再び〝コクリ〟と頷き返された。