うしろを歩く男
「え。じゃあその少年は今回の件で除隊になってしまうんですか?」
「ん〜...。とりあえずその者は聴聞会にかけられたあとから反省室送りになっている。そしてどの様な処分になるかはザンサが城に戻ってから決まるだろう。...だがまぁ幸い死者は出ていないし、見習いという点を考慮して数週間の謹慎くらいで済むと思うがな。」
「そうなんですね...。」
アップルパイを食べながら春子は今聞いた話を整理する。
例の低級ダンジョン入り口を崩落させた見習い騎士はその場で取り押さえられると城に戻ってすぐ聴聞会にかけられたそうだ。
そして何故今回そんな勝手な行動をとったのかと聞けば、
なんでもその少年は昨年両親を亡くすと幼い妹を連れ職を求めて王都に出て来たそうなのだが、身寄りもなく歳も14と若過ぎて何処も雇ってもらえずにいると、元から魔法の扱いに長けていた彼は危険ではあるが冒険者として日銭を稼ぎ生活していたという。
そしてそんなある日城で騎士になるための入団試験が行われると知ると彼は迷わずそれを受け見事合格したそうなのだが、今回の件は一日でも早く見習いから正式な騎士になるため認められようとした結果起こしたことらしい。
「なんでそんな焦ったんですかね?そんなやる気のある者なら遅かれ早かれ騎士になれるのでは?」
騎士がどの様なものか詳しくはないが、普通に考えて入団試験に合格しているのだから、あとは経験を積めば騎士にはなれるのでしょ?と春子は不思議に思って質問する。
「まず彼が何を目的に入団試験を受けたかだが、見習い騎士は正式な騎士になるまでの期間、決して高くはないが給金が支払われる。そして正式に騎士となれば年齢関係なく王都の何処にでも部屋を借りることができるのだが、それが彼が騎士を目指した動機だ。」
「?」
「彼の現在の居住地はスラム街にある。というもの、身寄りのない彼がここ王都で借りれた家がそこだけだったらしい。そしてそこで妹と暮らす彼は妹を守るためにも安全な居住地に移る必要があると考えていたそうだ。」
「...あぁ。」
「で、大体見習い騎士の期間は2年だが優秀な者は1年程で正式な騎士になる者もいる。だから彼もと思ったらしい。」
それから暫くあーだこーだ話をしプリンまで完食すると、帰り際手土産をもらった春子はバルハン医師にお礼を言うと店先で別れた。
「兄妹か...いいな。」
確かに集団行動の中、自分勝手な行動をした彼は問題だったと思う。
でもそれとは別で、私と年齢の近い者が自分のためでなく妹を守ろうと考え、行動するのは格好いいし、きっと妹からすれば心強い存在だと思う。
マリエッタ様の時も兄であるラージルード公爵様が行動を起こし私の所に来たし。
それから怪我を負ったユーシス様(だったか?)の手を取り声を掛け続けていた___________。
春子はコルトルマの街から出ると外壁沿いを歩き、転移の扉まであと少しのところで足を止め、振り返る。
「...いつまでついて来るんです?」
「!!」
春子がそう声を掛けるとそこにいる赤髪の男は肩をビクつかせ足を止めた。
実はザンサ隊長さんと街中に出たときもこの赤髪の男は両脇を同僚に羽交い締めにされた状態でついて来ていた。
そして先程バルハン様と別れるとまたこの男は私の後ろをついて来たため声を掛けたのだが、男は下を向いたまま動かない。
(16時で転移の扉閉まるンだけど。)
そう思うと春子は〝「用がないならついて来ないで。」〟と言いまた歩き出す。
「悪かった!!」
「・・・・・。」
それに内心溜め息をついた春子は再び足を止め、男に向き直る。
「兄を助けてくれてありがとう。」
「御礼はバルハン様にどうぞ。」
「も、勿論マルセ医師にも言うが、でも兄が助かったのは呪いの魔女である貴方が手を貸してくれたからで...なのに俺、〝植物〟の称号を持つ魔女ならまだしも〝呪い〟の称号持ちに何ができるんだと思って酷い態度を...。」
(16時...。まだ扉を閉める管理者は来てないか?)
「別に謝罪は必要ないですが、それじゃ気がすまないのでしたら謝罪は受け入れるのでもういいですか?ついて来ないで下さいね。」
そう言うと春子は男の後方に鍵を〝チャラチャラ〟鳴らしながら歩いて来る管理者を視界に捉え、春子はそそくさと転移の扉に向かう。
「俺は〝カロ〟!。兄が回復したら改めて礼に伺わせてもらうが、その前に我がヘッダー侯爵家から知らせを入れるから!」
(へ、ヘッダー侯爵?貴族なの!?)
「御礼も謝罪ももういいので。お大事に!」
その男の発言に、転移の扉まで早歩きで向かっていた春子はズッコケそうになったが何とか踏ん張り、今一度振り返ってそう返事をするとその後は振り返らず転移の扉を開けた。




