イシクラゲ
「はぁ〜。いいお湯でした。」
精霊の地で川を挟んだ対岸に〝転移の扉〟があるのに気付くと春子は川を横断することにし、再びキャリーケースに腹ばいになるとパドリングで前進した。そしてこのとき山から川に落ちた瞬間は必死すぎてうっかりしていた精霊魔法を使用し、水と風を操って自身を対岸まで誘導すると案外楽に岸に辿り着いた。
そして何の支えも無くそこで自立してポツンとある〝転移の扉〟を見ると、扉には自宅の座標が記された魔法陣が一枚貼ってあるだけだった。
(そっか。自宅からココに行き来するだけの扉なんだ...。でも正直助かるな。川を挟んだこっちの山に来るのは大変だと思って、いつも双眼鏡で見るだけだったんだよねぇ。でもボートか橋が欲し___、)
「ぶふぇっくしょいッッ!」
ここで再び派手にくしゃみをした春子は自身の濡れた状態を思い出すと、さっさと魔力を流して帰還する事にした。
そしてお風呂でさっぱりした春子はダイニングテーブルの席に着くとキャリーケースからケーキと山盛りのジャムがのった皿を出し食べ始める。
「く〜!!疲れた体に糖分が染み渡る〜。」
(あ、でもコレが創造の神様に貰った最後のケーキなんだよね...。クッキーはまだあるけど...買い出し行かなきゃかな。そういえばこの前図書館閉まってたから、明日またコルトルマの街に行こうかな。)
「そうだ。」
春子はアレの存在を思い出し、またキャリーケースをゴソゴソ漁る。
そして光る瓶と本を取り出すと、食べかけのケーキ皿を脇に押しやり、鑑定の魔法陣の上に瓶をのせ、魔力を流す。
(どれどれ〜...。)
「〝イシクラゲ〟?」
鑑定した結果。石のような物と思っていたそれは〝石〟に擬態している〝クラゲ〟で何処の川にでも生息している生物。ということだった。
そしてこの〝イシクラゲ〟。普通は発光しないそうだ。
それがなぜ光っているのか、それは精霊の地に流れる川が祝福を受けた事により特殊な微生物が存在するようになり、それをイシクラゲが取り込むとイシクラゲが祝福を受けた状態になって発光していると鑑定書に記されていた。
(ん?祝福って私が毎度毎度流した影響?)
「という事は、この精霊の地の川にその微生物が居続け、それをイシクラゲが体内に取り込めている間は発光し続ける。ってことよね」
(じゃあ。コレをランプの代わりにすれば高価なランプを購入せずに済むのでは?)
春子は瓶に入った〝石〟にしか見えない〝クラゲ〟を見る。
こうして衝撃を与えると〝石〟になるが、鑑定によると、本来は透明で中心の臓器が透けて見えるらしい。
(でも、このままじゃちょっと光が弱すぎるよね...。)
「光の量とオンオフをどうするか...。」
そう思うと春子は立ち上がり、家中を見て回って、使えそうな物がないかと探し始めた。
カチャカチャ。
カチャカチャ。
カチャカチャ。
「で、できた!」
はじめは圧縮して光を倍化させる事も考えたが、生物を殺してしまう恐れがあったため、瓶の方に光を倍化させる魔法陣を仕込む事にした。
そしてオンオフに関しては〝イシクラゲ〟を水から引き上げると発光しないので、キッチンで見つけた小さなミカンネットのような物に〝イシクラゲ〟を入れ、オフのときは瓶から引き上げることにしたのだが...。
「超・ダセぇ...。」
光は瓶に仕込んだ魔法陣によって、蛍光灯くらいの明るさになり十分だが、いかんせんネットがダサ過ぎる。
「いやでも。今ある材料でできるのはここまでだな。あとは追々改良すればいい。」
そう言うと、春子はそれを持って寝室へ移動する。
そして同時刻。ノークシュア国の南で突如スタンピードが発生し、ひとつの小さな村が襲われた。




