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呪いの魔女はわりと毎日忙しい  作者: 護郷いな
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訪問者

「そうなんですね〜。」

春子はそう気の抜けた返事をすると同時にチラリと向かいのソファーに掛けケーキを食べている人物を盗み見る...と、

その視線に気付いた女性が口を開く。


「ハルコ。どうかしましたの?」


(いや。〝どうかしたか〟とそれを聞きたいのは私の方で...。)

何故また今日も?と聞いていいのか。

そして〝今日も〟というのは________。





精霊の呪いを解呪したあと、ラージルード公爵家にある転移の扉を使って自宅に帰った春子は、すぐに夕食を摂って風呂に入り、その後やっとベッドに横になると一息ついた。


「あ〜やっぱり自分ンちサイコー。」

春子がこの世界に来てまだ数日だが、すっかりこの家に居心地の良さを感じてそう声を漏らせば、ゴロンと仰向けになり今日の出来事を振り返る。

はじめて森を出ると、そこに人が住んでいそうな家屋などはなくただ草原が広がっているだけで遠くにコルニーダ山脈という3000m級の山々があるのが見てとれた。

そして春子の家がある森は通称〝魔女の森〟と呼ばれ

その魔女の森から一歩出れば、周囲は全てラージルード公爵の領地だと馬車の中でハセンが話していた。

まぁ。その辺はもっと詳しく知りたいので今度図書館に行ったときにでも調べる事にしようと決めた春子だったが、とにかく周囲に誰もいない、何もない。という事は分かった。

だが正直。その事は森に住みだして早い段階で薄々気付いていた。

だから〝呪い〟の称号持ちになった事を、あのとき神域で村八分になったら〜っと嘆いたが無用な心配だったと思うと同時に吹っ切れ〝呪い〟呼びでも何ら問題ない。と切り替えた。

そして昨日行ったコルトルマの街だが、魔女の森から徒歩だと1時間30分程かかるらしい。

地図でみたら近そうだと思ったが、そうでもなかった...。

(いや。感覚の違いか?この世界の者からすれば1時間半は〝すぐそこ〟という感覚かも?)

そんなアレコレ考えていた春子だったが、慣れない馬車移動と環境下に置かれた事で疲れていたのか一度大きな欠伸をしたあと気付くと夢の中へと落ちたのだった。






翌朝、春子は精霊の地に訪れ、いつも通り魔力を流すと、その後双眼鏡を覗き白い妖精の花を数本見付けて摘み取り、ズボンのポケットから出した収納魔法陣に入れる。

そしていつもはこのあたりで一旦自宅に帰って朝食にするのだが今日の春子はそこで終わらず再び首に下げている双眼鏡を覗いて周囲を見渡す。


「妖精が宿っていない花は〜どこかなぁ〜...お!」


しかしここで〝リーンゴーン・リーンゴーン〟と鳴る音に気付くと、春子は一度精霊の地を後にした。



春子は森の中を進みながら、先程聞こえた音が訪問のベルだと考えていた。


というのも()()の存在を知ったのは昨日で、ラージルード公爵が教えてくれた為知ったのだが、どうやら我が家は訪問のベルという魔法陣が焼き切れた状態になっていたようで、それは本来街の魔導具店で購入できるそうなのだが、昨夜ラージルード公爵家を後にしようとした際、公爵がその訪問のベルの魔法陣を持たせてくれた。そしてその時、〝家の外壁に貼ると、自宅から外に出てもある程度の距離までは聞こえる〟と言っていた為、今朝起きてその事を思い出すと、春子はすぐ玄関に行き外に出てドアに貼った。のだが...。


森の境界線まで来ると、そこに昨日自身も乗ったラージルード公爵家の馬車が停まっていた。

「(なんだろう。昨日の今日でまだ何か言い忘れたことでもあったのか?)」

そう思うと春子はさらに近付こうとして...足を止める。


馬車の扉が開いたのを見て、春子はそこからラージルード公爵が降りてくるものだと思っていたが、降りてきた人物は赤髪の女性だった。

そしてその人物の事を知っていた春子は、一瞬驚きはしたものの次にはそばまで行くと声を掛ける。


「もう起き上がられて大丈夫なんですか?マ...マガリクネッタ様「マリエッタですわっ!」

しかし秒で言い返されると、春子は謝罪し言い直す。

「すみません。マリエッタ..そう、マリエッタ様でしたね。お体大丈夫ですか?」


「...大丈夫ですわ。」


「「・・・・・・。」」

そしてそう言ったあとマリエッタと春子の間に沈黙が流れると、その沈黙を破ったのはマリエッタと共に馬車から降りたネネだった。

「マリエッタお嬢様。こちらが呪いの魔女様ご本人です!そして呪いの魔女様!本日はお嬢様が昨日の御礼をということで急に訪問しまして申し訳ありません。」


「あ〜。御礼は必要ありませんよ、きちんと料金も請求させて頂きましたし。」

と、春子が返すと、それにネネの後ろにいたマリエッタが再び口を開く。

「魔女様はプリンがお好きだとか、今日は持参して「さ!立ち話もなんですので自宅へどうぞ。」

〝『あ。馬車は境界線のこちら側に移動を』〟

途端に態度を変えテキパキと春子がそこにいる二人と御者に向かって声を掛け自宅に向かって歩き出す。

それに互いの顔を見合わせたマリエッタとネネだが、どんどん先に行く春子に慌てて続いた。





「美味しい〜。」

自宅の応接間に二人を通し、そこでマリエッタから昨日の事を感謝されると、その後手渡されたプリンを春子は慎重に口へ運び〝ほぉ〜〟と、うっとりしながら声を漏らす。


「ところで魔女様はおいくつでらっしゃるの?」

ソファーに掛けたマリエッタがその手にしているティーカップをソーサーに重ね、目の前の席でプリンに夢中になっている春子に問いかける。


それに春子は軽い口調で〝「14です。」〟と返すとマリエッタは続けて話し掛ける。


「そう。やはり年下でらっしゃるのね。そういえば昨日、わたくしの兄が魔女様のお名前を聞いた際、それにお答えいただけなかったと聞いたのだけどそれはどうしてかしら?」


(名前?)

春子はそこで昨日の事を振り返り〝あ〜〟と思い出して答える。

「...必要性を感じなかったから...ですかね。」

(まぁ。プリンを奪われた怨みもあったし)



「なるほど。ならば私は魔女様にとって必要な存在だと思うから教えてくださるわよね。」

何故か自信満々にマリエッタがそう言うと、春子は頭に(?)を浮かべて聞き返す。

「私に必要?」


「ええ!魔女様はこの地に来られてまだ数日だとか。私、自慢ではありませんが学園での成績は常に上位ですの。そして貴族の事に関しても、それ以外でも魔女様より詳しく、何でもお教えできますわッ!」

昨日苦悶の表情を浮かべベッドに横になっていたのが嘘のように元気になったマリエッタが、前のめりになって自身をアピールすると、それを不思議な思いで聞いていた春子が尋ねる。

「はぁ...。では美味しいプリンがあるお店も?」


「勿論!ネネ。」

「はい!王都のローディーポット店ですッ!」

「...じゃあ。チョコケーキ。」

「ネネ。」

「はい!ルルボの街、マダム・ランジュの店ですッ!」

「........。」

(これは、マリエッタ様が詳しいというか、ネネさんが詳しいという事なのでは?)

春子がそう思って二人を見るとマリエッタが慌てて声を上げる。

「わ、私も本当に詳しいのよ!」


〝『ホントのホントよ!』〟と繰り返して言うマリエッタに春子は〝「いや。別にいいんですけど」〟と言うと自身の名前を告げる。

「森野春子です。...あ〜。ハルコが名でモリノが家名ですね。」


「ハ..ルコ..モリ..ノ」

マリエッタは声に出して反芻し、次に満面の笑みを春子に向ける。

「ハルコ!私のことはマリーと呼んで頂戴!」


(いやいや。私の事はそれでいいが、公爵家のお嬢様を呼び捨てはマズいでしょ。)

「さすがにそれは...マリー...様。でどうですか?」

春子がとりあえず(人目の少ない場に限定して)そう呼ぶ事を伝えると少し難色を示したマリエッタだったが了承し頷く。


そのあと暫くお茶をしながら、アントン伯爵家には抗議文を出した話や、明日、ラージルード公爵家で開かれる自身の誕生日パーティーの話。今は秋休みだがもうすぐ王都にある学園に戻る話。この休みの期間は沢山のお茶会に行かねばならないのだという話を聞き。

帰り際、馬車に乗り込んだマリエッタが小窓を開けて

「次からは転移の扉で来てもいいかしら。」

と言うのに、春子は頷いて返すとその後馬車を見送った。





それからまた一人になると、春子は摘み取った妖精の花を乾燥して粉末にしたり、押し花にしたり、燃やして灰にしたり、あとは黒い妖精の花が崩れて粉になったものを鑑定したりとアレコレしていると気付けば日が傾きはじめていた。



「どこだったかな〜。」

精霊の地に再びやって来た春子が、山の斜面をくだりながら周囲を見渡して呟く。


「あれ〜もう結構下まで来たけど...あ!あった、あった。」

そう言うと春子はさらに斜面を下り、午前中見つけていた妖精の花のある場所まで移動する。

そしてそのまだ蕾が緑色した妖精の花の前まで来ると、春子はズボンのポケットから巾着を出して中身を取り出す。

「...まだ濁ったままか。」

(まぁ。そんな早くは浄化されないか)

ここで春子はキャリーケースからスコップを出し、目の前にある緑色した妖精の花の手前を掘り始める。


そして掘った穴に〝濁った祝福の核〟をいれると上から土を被せ軽く押さえつけた。

「よし!」

(呪いで汚れた核の浄化が進めば自然と祝福の核から抜け、この妖精の花に宿るだろう。あとは様子見だ。)


そう思うと春子は立ち上がり手や服に付いた土を〝パンパン〟と叩き落とすと〝ズッ〟と足が滑った。

瞬間、春子はキャリーケースの取手を掴んだ...が何故かそのままキャリーケースに乗っかるような体勢になると、次には勢いよく斜面を滑り出す。

〝ズザザザーーーーーーーーーーーーーーー!〟

「ぎゃぁぁぁっぁあぁぁぁあぁぁあぁぁあ!!」


枯れ草が顔にビシバシ当たり、

ゴツゴツした岩肌によって春子の乗るキャリーケースが跳ねまくる。

「アガ、ガ、ガ、ガ、ガ、ガ、ガ、ガ..うわあああああ!!」

そして目の前に迫る大きな岩を避けきれず正面から衝突すると春子とキャリーケースは宙を舞い

 ・

 ・

 ・

落ちた。



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