呪いの正当性
「これが妖精の花...ですか。」
春子は許可を得て保管部屋から黒い妖精の花が入ったガラスケースを持ち出すと、再び先程の女性の部屋へ戻り、そこにあったスタンドテーブルの上に乗せて〝「呪いの原因はこの妖精の花です」〟とテーブルを囲んだ者達に告げれば、その花を見たラージルード公爵がそう春子に向かって聞き返す。
それに春子は一つ頷いて肯定すると少し付け加える。
「はい。色が変わって、様子も少し違いますが、妖精の花であることに違いありません。」
本来ならこの花の色は白、そして妖精が宿った状態であればその蕾は七色に輝きとても綺麗だ、しかし今そこにある妖精の花はそれとは真逆の黒い見た目をしていた。
そして黒い妖精の花は、朽ち始めているのか、ガラスケースの底には粉が溜まっている。
これは花に宿った妖精が、誕生前で器が未完成の状態にもかかわらず呪いを放ったため自身の核まで呪いで汚れ、結果こうなったと考えられる。
でも、そうなると...呪いで汚れた核は...。
春子は、メイド長に尋ねる。
「この妖精の花を送ってきた人物というのは分かりますか?おそらく、その者も呪われ同じような状況になっていると考えられるのですが」
それにメイド長は戸惑った様子で口を開く。
「...それが、カードが付いていたはずなのですが見当たらず」
すると妖精の花を食い入るように見ていたネネが手を挙げた。
「私、知ってます!〝アボーノ・アントン〟様という方です!」
そしてネネは話を続ける。
「お嬢様のお誕生日に贈り物をされる方というのは大体面識のある方ばかりなので把握しているのですが、今回その方のお名前というのが初めて目にしたもので、お嬢様にお聞きしたんです。
しかし、お嬢様もご存知でないご様子でしたが...。」
「そうですね。そこで自身が知らないので私の知り合いではないかと考えたマリエッタが昨夜そのカードを持って私の元に訪ねて来ました。
確かに彼は騎士団に所属しているため全く知らない人物ではありません。ですがそれだけです。我が家とは派閥も違いますし、これまでなんの接点もありません。」
ネネのあとにラージルード公爵が続けて話すと、それを腕を組んで聞いていた春子は思案する。
(面識ない相手に花を一輪。ただの花なら告白と考えるが...。)
「呪いの魔女様、お嬢様を助けて下さいますか?」
胸の前で両手を組んだネネが真剣な目で春子を見る。
「...正直、彼女はただ花を受け取ったに過ぎず、それが妖精の花であったため、精霊の呪いを受ける対象となった事は気の毒に感じます。
しかし花に宿った妖精は、その地の環境が整っていればスムーズに誕生しますが、そうでない場合100年200年と誕生しません。
だからといって今回この花に宿った妖精がそれ程の歳月をかけたかは正直分かりません。ただ間もなくこの世界に誕生する段階まではきていたと思われます。しかし花は切られこの妖精は誕生できなくなった。それを考えると、この呪いは妥当であると考えます。」
そして誕生できないだけでなく、この妖精には次がないのだ。
核が呪いで汚れたため、輪廻の神様に弾かれるから...。
でも、それでいいのだろうか...。
「ラージルード公爵様。」
「〝セファラム〟で結構ですよ」
「....。(ナゼ?)」
ラージルード公爵に声を掛けると、そう返された春子は、
今呼び方を変える必要性が全く分からず困惑する。
そして一つ頷くと無視して話を進めることにした。
「〝ラージルード公爵様〟彼女を助けるには条件があります。」
瞬間、ラージルード公爵の横に立つ白衣の人物が〝ブフォッ!〟と吹き出したが、完全にスルーした。
「戻りました。」
サロンの扉が開かれそこからハセンが入って来ると、その手にしている封書をラージルード公爵に渡して報告する。
「やはりあちらも同じ状況になっておりました。症状はマリエッタお嬢様より重篤といったご様子で、医師が数人と祈祷師のような者がいました。
そして公爵の使いで私が行くと驚いておりましたが、魔女様が仰っていた事もしっかり伝え、二名のサインを貰って来ました。」
「ではこちらを。」
ラージルード公爵に差し出された封書を春子はお礼を言って受け取ると〝「確認しますね。」〟とその場で開封し中の紙を取り出す。
そしてそこに描かれた魔法陣に〝アボーノ・アントン〟の血判と〝テイラー・アントン〟のサインがある事を確認した。




