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呪いの魔女はわりと毎日忙しい  作者: 護郷いな
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森に来た人物

「馬車に乗るのは初めてですか?」


「はぃ。(しまった。おのぼりさん丸出しだったか)」

でもさ仕方ないじゃん。

本物の馬が引く馬車なんて初めて乗ったし

森を外から見たのも初めてだしさ


正面に座るラージルード公爵が〝クスッ〟と笑ったのを見た春子は、いつの間にか窓にへばりついて外の景色を見ていた事に焦りつつ、小窓に置いた手を〝そっ〟と離すと小声で返す。






少し前。

「精霊の呪い...ですか?」


森で会った二人を自宅の応接間に通すと

今春子の向かいのソファーに掛けているラージルード公爵とその後ろに立っているハセンに向かって聞き返す。


二人の名前や身分は森で聞いたが、

セファラム・ラージルードと名乗った人物はこの辺りに領地を持つ公爵で、もう一人はその男の従者で()()()と名乗った。だがこのハセンは昨日コルトルマの街で会った人物だったため春子はこの偶然(?)に若干警戒した。

そしてそんな人らが一体何用かと思えば...。


「ええ。私の身内の者が昨晩は普段と変わりない様子であったのですが今朝になって突然精霊の呪いで倒れ...。」

ラージルード公爵が深刻な表情でそう言うと

春子は自身の考えを口にする。

「それは祝福を受けたにも関わらず、犯罪か精霊に不義理なことをした。ということでは?もしそうであれば、呪いを解くことはしませんが。」


しかしそれにラージルード公爵は〝「いいえ」〟と否定する。

「それが、祝福は受けていないのです。」


「祝福を受けていない?それは確かですか?」

どういう事だ?

祝福を受けていないのに精霊の呪いをもらう?

それはつまり直接精霊に関わった...という事になるが、

この人の身内ならその者はノークシュア国の人でしょ?

精霊や妖精は祝福以外でテルサ国ではない国の者とは関わろうとしないし、存在も認識できないはずなんだけど...。

でも何か余程の事があれば別か...?


「一度、我が屋敷へ来て頂けませんか?」

春子が考えに耽っていると、そうラージルード公爵から声が掛けられる。


それに春子は少し思案し口を開く。

「...精霊の呪いの原因がその者にあった場合、私は何もしませんが、それでもいいですか?」





と、まあ。そこで彼らが了承したので、ラージルード公爵の馬車に同乗させてもらって、公爵の自宅へ向かう事になったのだが。


春子は、そこにある景色から車内に視線を戻すと、正面の席に座る二人を見る。

するとこちらを見ていたラージルード公爵とハセンの二人と目が合うと、彼等は()に向かってニコリと微笑んだ。

(....何だろうか。貴族とは微笑みを絶やすと死ぬ生き物だとでも?)

というか、ラージルード公爵に至っては、馬車に乗ってからずっと()を見てるし、観察されている気がする。

もしそうならここは()も観察し返すべきなのか?

そう思った春子はラージルード公爵を見つめる。

(え〜っと...とりあえず...)

年齢30歳くらい?いや32?3?4?

(もういいや。35!彫りの深い人種は年齢がさっぱりわからん)

顔は...黒い瞳で、美形...と思う。

(今思い出したけど、私は昔から外国の人は全員ハリウッドスターに見えるんだよね〜。まぁキレイな顔には違いないから軽く流そう。)

それで髪は...黒髪。

(元日本人の私からしたら慣れ過ぎた色で、まだ懐かしい〜と感じるほどでもないな)

前髪はサイドに垂らし、全体的にウェーブがかっていて腰辺り(なっが!)まである髪を後ろでゆるく纏めている。


ここで早々に飽きた春子はラージルード公爵から、その横に座っているハセンの方に視線を向けた。

(...うん。)

やっぱり昨日、見たときも思ったが、この人の髪、日に当たるとキラキラして濃紺なんだけどラメ?艶感?がある。

(あ!キラキラといえば、今日の熊。)

アレはコートにしようか、冬の布団もいいか?帽子もできるかな。

(あ〜...。馬車の揺れって、眠く...____。)




「...眠っちゃいましたね。」

寝息をたてはじめた春子を見てハセンが呟くと

その横に座るラージルード公爵が〝フッ〟と小さく笑い声を漏らした。






「え。お城に住んでるんですか?」

ここが自宅?

いや。バッキ○ガム宮殿でしょ?

家が観光地?観光地が家?


たった今。〝「着きましたよ」〟とハセンに起こされた春子は

寝起きでフラつきながら、ハセンが出した手に自身の手を重ね支えられて馬車から降りると、そこに城があった。

そして春子の横ではハセンが

〝「ラージルード公爵が所有、管理する公領にはいくか屋敷があってここは本邸です」〟だなんだと話しているが

家は一つで十分だと思っている春子からしたら大して興味のない話だった。


そして正面の大きく重厚な扉が開き中に進むと、そこにはメイドと思われる人達が〝ズラリ〟と整列していた。

それに春子が引いていると

そこから一人、一番恰幅の良い女性が〝「お帰りなさいませ」〟とラージルード公爵の側に寄り、外装を受け取って他のメイドに渡す。


「マリエッタの容体は?」

ラージルード公爵が恰幅の良い女性に聞くと、それに女性は首を横に振って答える。

するとここで春子の存在に気付いた女性が、ラージルード公爵に尋ねる。

「セファラム様。こちらの方は」

それにラージルード公爵が後ろを振り返り、春子の背に手を添え周囲の者達に告げる。

「呪いの魔女様です。」

瞬間、そこにいるメイド達がざわついた。

しかしそれは一瞬で、次に恰幅の良い女性が咳払いすると、元の静けさに戻る。

そしてその女性が春子の方へ向き直ると申し訳なさそうにしながら口を開いた。

「失礼致しました。呪いの魔女様。私はラージルード公爵家でメイド長をしております。ウルメと申します。」


それに春子も面を取ると〝「はじめまして。呪いの...魔女です。」〟と挨拶を返した。




「では、セファラム様。呪いの魔女様をお嬢様のお部屋にお通ししても?」

メイド長がラージルード公爵に尋ねれば、公爵が頷く。


そして〝「ご案内します」〟と言って歩き始めたメイド長に春子は付いて行く...が、

右へ左へ階段を上がって。と実に子供に優しくない家だった。

そしてやっとメイド長の足が止まるとそこにはまた一際大きな両開き仕様の扉があった。


するとここで、一番後ろから付いて来ていたハセンが

〝「私はここ(通路)で待ちます」〟と言ったため、

そこから先はラージルード公爵、メイド長、春子の3人で部屋に入ったのだが、(ここが私室!?)と声を上げなかった自分を褒めたい。

室内は広く天井も高い。大きな窓ガラスにはドレープ状のカーテンが掛かり、足元の絨毯はふかふかしている。

花瓶に生けられた花がアチコチに飾られ、繊細な彫刻が施されたキャビネットやテーブル...。

そんな何処もかしこも豪華で住む世界が違いすぎる。と一瞬で理解した。


「この奥が寝室になります。」

春子が若干意識を飛ばしかけていると、一枚のドアの前に立ったメイド長がそう告げて、そのドアをノックする。

しかしそれに返答はなくメイド長がドアを開け、春子を中に通すとそこでまた春子は目をしぱしぱさせた。

(す、スゴい。寝るだけの部屋にシャンデリアと用途が分からないスタンドテーブル、そしてまた豪華な刺繍が施されたソファーセットに壁には肖像画...。)

そしてその部屋の一角に天蓋付きのベッドがあった。


「近くに寄っても?」

春子は自身の横に立つラージルード公爵を見上げて尋ねる。


それにラージルード公爵は〝「こちらへ」〟と言うと春子の背に手を添えベッドの下まで案内すると、そこに掛かっている天蓋カーテンを開ける。


ベッドには赤い髪の女性が苦悶の表情を浮かべ横になっていた。


「呪いの魔女様こちらを。」

その声掛けに、春子が寝ている女性の足下に立つメイド長に視線を向けるとメイド長は女性に掛けられた布団を僅かに捲る。


それによって女性の足が見えると、春子はそこに馴染みのあるモノを見て

「あぁ。」

と声を漏らした。



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