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呪いの魔女はわりと毎日忙しい  作者: 護郷いな
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誰じゃお前は

「きゃああああああああ!!誰かッ!誰か来てーーーッ!!」

早朝。ラージルード邸で悲鳴が上がると、ひとりのメイドが部屋から飛び出し走り去る。






「おお〜。今日も順調、順調〜」

精霊の地を訪れた春子は双眼鏡を覗きながらそう声を漏らす。


まだ妖精が宿っているのは少ないが、全く無いわけではないし、生まれたてと思われる妖精もふよふよ浮遊しているのが確認できた。

初めて見たときは、見た目、色も白いし、纏まったままのタンポポの綿毛かと思ったが、昨晩それが発光し、浮遊しているのを見て妖精なんだと気付いた。

きっとここが本来のあるべき姿に戻ったときは、さぞ幻想的な光景になるに違いない。

そう思うと春子は今日も気合いを入れ、その場にキャリーケースを寝かせるとその上に本を開いて置き、すでに完成された魔法陣に少し書き足す。そしてページを破り取ると畳んでスカートのポケットに入れた。

それから春子はそこのちょっと太めの木があるところまで移動すると、その木の前で腰を下ろし、次にキャリーケースから取り出した()()()()で木と自分とをまとめて縛った。

そして先程ポケットに仕舞った魔法陣を取り出すと、地面に広げ魔力を流す。

(え〜ッと。大地に祝福マシマシ〜。それから風にも祝福を〜この一帯隅々まで流れてけ〜あと生まれた妖精にも祝福を〜誕生おめでと〜そして必要な魔力は勝手に持ってけ〜)

と春子は心の中で唱える。

といってもこれは詠唱ではなく単なる呟きで

精霊の春子は精霊魔法を使うのに詠唱なんてものは殆ど必要ない。

ただ式を作ることができ、それを魔法陣に正しく組み込んで設計できれば、あとはそれに魔力を流すだけで、魔法陣という指示書通りの現象を起こすことができるのだ。

なのでマシマシ〜なんていい加減なことを思おうが呟こうが、結果。今日も祝福を受けた大地は輝きだし、風はこの地一帯に心地よく流れ、妖精はイマイチ変化はわからないがきっと喜んでいる...はず。そして魔力もガッツリ持っていかれた。



「あれ、取れない...。」

春子は縄をきつく締めすぎたと愚痴る。


この方法で吹き飛ばされることはなくなったのだが、

どうもこの地での祝福は、それが圧縮かどうか関係なく大量の魔力が必要で、その大きな魔力が動くと反動も大きいものになるのだが、これはもうこの規模に魔力を流すとそうなる事は仕方ないようだ。魔力をケチるわけにはいかないし。

なので身体強化ができる年齢になるまでは木に自分を縛り付けることにしたのだが....。

「誰か〜。縄を解いてもらえませんか〜....。」

まぁ。こういう事が起きたりもする。





「まったく。ひとりっちゅーのは()()というとき大変だね」

〝沖君も死神もいないしさ〜〟と、あれからなんとか脱出できた春子がキッチンで呟きながら皿にケーキを盛ると、それとコーヒーを持って移動する。


そしてダイニングテーブルの席に着いたとき、

春子はそこにある窓に目を向け動きを止めた。

『       。』

〝ガタン!〟

「やっぱり何か聞こえる!」

椅子から立ち上がってそう言うと、春子は窓に駆け寄って開ける。


『  の  さま。』


「人の声...だよね。」

春子は振り返りダイニングテーブルの上に置いたケーキを見る。

どうしよっかな。

まだ朝食摂ってないし、

無視していいか?

お腹空いたし。


〝うん。ほっとこう〟そう決め、窓を閉めようとした時だった。

「グオォォオオォオオオ!!!!!!」

その聞き覚えのある咆哮に、春子はキャリーケースを掴むと自宅を飛び出した。




この前より獣の声は近かったように思う。

森に入った春子は、近くの岩陰でキャリーケースから本を取り出しページを捲る。そして目当ての魔法陣を見つけるとそのページを破って地面に置き、その中央にスカートのポケットから出した妖精の花の乾燥粉末をひとつまみのせると手を翳し魔力を流す。

そうして祝福で睡眠効果となるものを呪いで使えるようにすると、その粉末を魔法陣の紙で包んでポケットに入れ、春子は周囲を警戒しながら再び移動を始める。





『うわ〜。アレか、声の主は』


今、大きな岩と岩の隙間からそれを見た春子は、小声で呟く。


200メートルか、もっとか、先にいるのに、ハッキリ分かるその大きさに遠近感が狂う。

『アレは熊...かな?毛が青いけど。キラキラしてて綺麗だな〜。そういえば私、冬用コート持ってないんだよねぇ。絶滅危惧種だったりしないかな。魔獣か動物か、どっちだろ。』

『アレはゴッツベアと言う魔獣です。』

『へ〜。ゴッツ〝「わぁッ!!」〟』

自分の背後からした声に驚いた春子は声を上げて振り返った。

しかしそこにいた人物は春子を見ておらず、その先に視線を向けた状態で「あ、気付かれましたね」と言うと嫌な予感がした春子はゆっくりと視線を戻し熊とバッチリ目が合った。


瞬間、凄い形相をした熊が四足歩行で勢いよくこちらに向かって来る。

それに春子は急いでポケットから粉末を取り出すと、それを精霊魔法で起こした風にのせて飛ばした。




ズドーーーーーーーーン!!!



地響きと同時に、その一帯にいた鳥が一斉に飛び立つ。


熊は、春子のすぐそば迄きて倒れ、それによって周囲に土埃が舞い上がった。

「ゴホッ、ゴホッ。ゴホッ、ゴホッ。」


「大丈夫ですか?」


「大、じょうぶ、かって、(ゴホッ)あなたが驚かさな(ゴホッ)ければっ、」

春子は咽せながら、そこにいる人物に抗議する。






「ぐおー。すぴぴぴぴ。ぐおー。すぴぴぴぴ。」


そして暫くしてやっと呼吸が落ち着いた春子は、そこにいる 熊に近付くと、眠っているのを確認してから収納魔法陣で回収する。




「....あの、何故まだここにいるんですか?」

いつの間にか自身の背後にいて、熊を回収した今も何故かずっとこの場に居続ける二人の人物に、春子は疑問に思って声を掛けると、終始笑みを浮かべ、一癖も二癖もありそうな、やたら美形な方が口を開く。


「貴方を訪ねて来たのです。呪いの魔女様。」



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