帰宅
〝バタンッ!〟
ハァ、ハァ、ハァ、
「っま、間に合った〜。」
春子は肩で息をしながらそう言うと今出て来た転移の扉に凭れ、ずるずるとその場にへたり込む。
実は先程、最後に入った魔導具店で私がド田舎から来た者。と判断した店主に
『もうこの時間は最終の乗り合い馬車も行っちまったが、何処か宿はとってるのかい?』と聞かれ
それに私が『転移の扉で帰るから大丈夫だ』と返すと
壁の時計を見て表情を曇らせた店主が『街の転移の扉は16時...あと数分で閉まるが...。』と告げたのだ。
それに私は慌てて買い物をそこで切り上げると、店を出てから転移の扉まで全速力で走った。
そしてその甲斐あって転移の扉近付くに管理者らしき人物がいたが、まだ扉が施錠される前だったため無事帰宅することができたのだ。
実にギリギリだった。まさか転移の扉に利用時間が決められていたとは、危うくあの時間から宿探しをしなければいけなくなるとこだった。
春子は起き上がるのも億劫で回転しながら部屋まで移動しようかとも思ったが、何とかキャリーケースを杖代わりにして〝よっこいしょ〟と立ち上がると、次にマントを脱ごうとしてある事を思い出しキャリーケースから本を取り出してパラパラとページを捲る。
そして目当ての魔法陣を見つけると、そのページを破り取り折り畳んでマントの内側にある胸ポケットに仕舞った。
「コレでよし!」
え〜っと。魔石をここにセットして、土台にこの魔法陣を入れて...仕切り板を引き抜くと〜...。
「ついたぁ〜!!」
〝わ〜キレイ!〟〝わ〜明る〜い!〟〝すごい!すごい!〟
とダイニングのテーブル席を明るく照らす〝魔石ランプ〟に春子は盛り上がる。
この家で見つけたランプは、全てランタンの形をしたオイルランプだった。
そして今春子が目にしている物は、同じようなランタンの形をしているが〝魔石ランプ〟と呼ばれる物で、今日魔導具店で購入した物だ。
今日魔導具店に入ると、まずその店内の明るさが暖色系ではあるもののすごく明るい!と驚いた。
それで店内を見渡し、棚や天井から吊り下げられた照明器具に興味を持って近付いて見ると、炎が揺らいでいなかった。
それを不思議に思って見ているとカウンターにいた店主に『ランプを探してるのかい?』と声を掛けられたので
『今オイルランプを使っていて、それと違うこの照明はなんだ?』と聞けば、目を丸くした店主に
『今時オイルランプを使って、〝魔石ランプ〟を知らないなんて、どこの田舎から出て来たんだい』
と驚かれ、店主が『コレも魔石ランプだよ』と奥から持って来たランタンをカウンターに置くと、その使い方を教えてくれた。
まず、ランタンとは別売りの灯火の魔石と起動魔法陣と呼ばれる物を購入したら
魔石をオイルランプでいうところの芯の部分にセットする。
次にその下の土台にある小さな引き出しに魔法陣をセットし、その際、魔法陣には一回だけ魔力を流す。
そして魔石と魔法陣の間にある仕切り板と呼ばれる物を引き抜くと魔法陣よって、その上にある魔石が明るくなり、仕切り板を差し込むと魔法陣の働きを遮断し明かりは消える。
そして大体3ヵ月くらいで魔法陣は焼き切れ効果がなくなるからその都度購入する必要がある。と説明を受けた。
「でも結構高価だったな...。いや、コレ1つで、オイルランプ3つ分くらいの明るさになるから妥当か」
結局今日は時間がなくて店主が説明するため奥から持ってきたランタンをそのまま購入したが、次に行ったら奮発して大きな照明器具を購入しよう。
そしてそれまでは明るいといってもまだ部屋全体が明るいわけではないので今日もオイルランプに火を灯した。
夕食も入浴も済ませ、再びダイニングの席に戻って来た春子はキャリーケースから本を取り出そうとしてお菓子の紙袋がついて出てくると〝「あ。」〟と声を漏らす。
「こっちは死神用。そしてこっちは頂き物だから自分で食べるとして...。」
春子はキャリーケースの中をガサゴソ漁るともう一つの紙袋も取り出しコレを貰ったときの事を振り返る。
少しだけ長い濃紺の髪を後ろで縛って、目は糸のように細かった。でも一瞬見開いたときに見えた瞳は髪と同じで濃い青だったなぁ。
はじめは警戒したけど、お金の話とお菓子もくれて、ただの良い人だった。
ん〜名前....。何かに仕えてる、ナントカって言ってたな。
「...ダメだ。さっぱり思い出せん。」
頭打ち過ぎて記憶力低下してるとか?
まあいいか。もう会うこともないだろうし。
そう思うと春子は飴を口に放り込んで頭を切り替える。
「さてさて。今日は魔法陣一枚使っちゃったから、またストックしておかなきゃね〜。ん?何味だコレ」
今日使った呪いは、死にはしない呪いで魔法陣は試作品だった。
元々それ系の呪いは、神域にいた頃から考えていて
その頃は(誰をとは言わないが)呪って一生眠らせよう。と考えていた。
しかしそのあと時の女王から〝精霊の加護〟を奪う者がいると聞くと、もしそういう輩に遭遇した場合、精霊を奪う目的や方法なんかの話を眠らせたら聞き出せないと思い、風に呪いを纏わせる方法に変えたのだが、そのままだとちょっと殺傷能力が高かったため、死なない程度に改良したのが今回の呪いだった。
そして今日は念のためその魔法陣を胸ポケットに入れておいて、それらしい者が寄って来たら術を放つつもりだった。
結果、関係ない者の腕を撥ね飛ばしたが。
まあ。試せてよかった。
でも腕より足を切断がいいかな。
逃げられたら追いつけないし
あと痛みを感じないようにしたけど、あった方がいいかな。
でも、騒がれるとうるさいか?
ま。いいや、色々ストックしておこう。
「ホント。物騒な世の中だから対策立てるの大変だ〜」
そう言うと、春子は自身が一番物騒な物を生み出していることに気付くことなく一晩中せっせと魔法陣の制作に励んだのだった。




