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呪いの魔女はわりと毎日忙しい  作者: 護郷いな
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ハセン(前編)

「な、何ですかアレ。精霊魔法? いや、精霊魔法であんな攻撃は...。」

しかし主君はそれに答えることなく、その場に項垂れ座ったまま動かなくなった男に近付いて行く。


「失礼。その腕少し見せていただいても?」

そう主君が男に声をかけるが、男は何の反応も示さない。

それがわかると男の意志は無視して主君と共に男の腕を見ると、有ろう事か、男の腕は肘から先が左右逆に付けられていた。

それにハセンは思わず〝「うわぁ...。」〟と声を漏らすが、

横に立つ主君は、こんな有り得ないものを見ても顔色ひとつ変えることなく〝「追いますよ。」〟それだけ言うと、彼女が去った方向に向かって歩き出した。





数ヶ月前


「え。コルトルマの街に覆面の見張りを増やす...ですか?」

ラージルード公爵の書斎で、ソファーに座り書類の整理をしていたハセンは向かいの人物に聞き返した。


「ええ。魔女の森からだと我が領地が一番近いですからね。もしかすると王都より先に訪れる可能性があります。」

そう話すのは一年程前、主君の父であるオズワル・ラージルード公爵から跡を継ぎ、この地の新たな領主になられたセファラム・ラージルード様だ。


普段、主君は領地の経営をしながら、宰相をされているオズワル様の補佐として王城にお勤めなのだが、最近この国に魔女が派遣されることが決まって、また別の仕事も任されてしまったようで、城と領地を頻繁に行き来することが増えた。

そしてそんな多忙な主君に仕えているハセンは書類を整理しながら会話を続ける。

「まぁ。近いといえば近いですが、王都より先に来ますかね。転移の扉を使えば距離は然程関係ないのでは?まぁ。使用する魔力は大幅に違ってはきますが...。」

そう言うと、主君は手に持つ書類から視線を上げ、ハセンに問いかける。

「今回の魔女は極めて情報が少ない。おかしなことにテルサ国内でもその存在を知る者がいないのです。そこでもし、その魔女が、今まで外に出る機会がなかった。と過程すると、まず近場から覗いてみようと思いませんか?」

それにハセンは視線を動かし斜め上をみるようにして考えながら答える。

「まぁ、確かに、外の世界を知らなければそう思うかも?...って、いやいや。外を知らないって、監禁でもされてないと、いや監禁でも関わる人間はゼロではないし...。」


そんなぐるぐる考えだした侍従を無視し、〝セファラム〟は静かに呟く。

「存在を知られず過ごせる場所があるなら、そこは何処なのでしょうね。」




そして今朝、コルトルマの街の見張りから連絡が入った。

それで急遽、主君と向かうことになったハセンだったが、ここで気になった事を尋ねてみた。

「セファラム様。私もですが、街の見張りは魔女を見た事がないのに、何故その人物が魔女と分かったのでしょうか?」

すると主君は〝「見張りには魔女の話はしていません。」〟とハセンに告げる。

「ただ、転移の扉を一人で通過した者がいれば連絡するように伝えました。転移の扉は誰もが使用できるものではありませんし、貴族なら馬車で通過するか、御忍びでも複数で通るはずです。そこを一人で通る者がいれば、〝それ以外〟ということになりますからね。」


そうしてラージルード家にある転移の扉からコルトルマの街へ移動して来たのだが、その人物はコルトルマの街入り口に立って、そこを行き来する者や街中を覗いているようだった。


ハセンはその場で足を止め、その人物を観察する。

なんだろうか。あの出立ちは。

紫のマントは良しとしても、フードを深く被ってはいるが、チラチラ見える顔には、何やら個性的なデザインがされた仮面を着けている。それからアノ車輪の着いたピンクの不思議な箱はなんだ?


ハセンは隣にいる主君に尋ねた。

「セファラム様。人違いでは?不思議な格好で異国の方だとは思いますが....子供のようですし。」

しかし主君はそれに答えることなく、その人物を追って街の中へと入って行くと慌ててハセンも主君のあとを追いかけた。




「セファラム様。やっぱり人違いですよ。」

ハセンは強く主張する。

何故ならその人物のあとをついて来てみれば、そこはお菓子屋だった。

「街に来て早々、お菓子屋行くなんて見た目はアレですけど普通の子供ですって」

そうハセンが意見するが、主君はそれを無視し店内に入って行く。

焦ったハセンは〝「我々入ったら浮きますって!セファラム様ぁ〜」〟と止めることもできず、結局追いかけ、店内に入った。


そして店内では隅の方から様子を見ていると、その人物はクッキーを選んだりもしていたが、何故か大量の飴を籠に入れていた。

それからその籠を持ってカウンターに行ったのだが

そこで店員と何か話をしたあとに、100万エン硬貨を大量に店員に渡した。

(ブフォッ!!、ゴホッ!ゴホッ、ゴホッ)

『せ、セファラム様っ。あの者、もしかして買い物したことないのでは?あ、というかあの者、買わずにそのまま店を出て行きますよっ!』

咽せたハセンが涙目になりながらそう言うと、主君は出口には行かず、カウンターに向かい店主に告げる。


「今の子供が購入できなかった品を包んでください。」






店を出たあと、再びその人物を追うと、向かった先はコルトルマの街の中央広場だった。

そこでハセンらは広場全体の様子を窺い見ることができる位置に身を潜めると、そこにいる人物を見た。


「あ〜。お菓子買えなかったから明らかに落ち込んでますね。

セファラム様。その購入したお菓子、渡すんですか?」

ハセンがその人物から視線を移し、自身の後ろに立つ主君を見て問いかける。

すると軽く頷いた主君は、ハセンに向かって紙袋を差し出した。

「行ってきなさい。」

それに慌ててハセンが言い返す。

「わ、私がですか!?いきなりでは不審者扱いされますよ!」

しかし主君も引くことなく指示を出す。

「それは私が行っても同じこと。まあ適当に、公爵家に仕えている者は皆、街の警邏も兼ねていて困っている方を見ると助けるのも仕事のうちと言えばいいでしょう。」

「えぇ。何ですかそれ初耳なんですが!」

「いいから。ホラ。」

と、押し出され無理矢理向かわされたのだが、案の定、警戒され、でも何とかお金の話とお菓子を渡すことはできた。

しかしそれにホッとしたのも束の間。その人物が仮面をずらしお礼を伝えてきたのだが、その顔を見て驚いた。

子供なのは間違いないのだが、精巧な人形のような顔をしていた。

肌は真っ白、眉もまつ毛も色素が薄く、瞳には薄い紫の宝石が嵌め込まれているかのようで、唯一、血の気を感じるパーツは唇だけだった。


そしてそこで一瞬呆けたハセンだったが、何とかその場をあとにし、主君の元へ戻り報告する。

「セファラム様。そこから見えましたか?顔が!顔が!人間というより、人形?妖精?精霊?神?いやとにかく!人間離れしてましたよ。そして間違いなく子供で、女の子でした!」


「...だから仮面なのでしょうか。」

主君はそう言うと再び移動を始めた彼女のあとを追い尾行を始めハセンはその後ろから〝「まだついて行くんですか〜?」〟と抗議の声を上げた。


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