時の女王(前編)
「お、お茶のおかわりは如何されますか?」
「ありがとう。いただくわ。」
いつもインスタントコーヒーや紅茶に適当に湯を注いで飲む春子は、今紅茶の茶葉が揺らぐポットを傾けながら、
〝どうか飲めるくらいにはマシな味でありますよーに〟と念じる。
少し前。
ドアを開けて、まず、その何か複雑に編み込まれ頭の高い位置で纏められいる水色の髪が目に入った。そして次に視線を下げればそこにある顔が非常に整っていて、さらに身に纏ったクリーム色のドレスが袖にゆとりのあるピラピラしたものだったためそれが創造の神を彷彿とさせ、てっきり何かの神だと思った。
が、次にその人物自ら〝時の称号〟を持つテルサ国の王だと名乗ると、さらに言葉を続け〝時の女王〟と呼んでくれればいいと春子に告げたことで、神では無いことが分かった。
そして確かに、いつだったか、今代のテルサ国の王は女性だと何かで読んだか聞いたかしたな〜と思ったが、
すぐにそれどころでは無いと思い至る。
その時点で、キッチン、ダイニング、寝室しか使用していなかったため、それ以外の部屋の家具にはまだ白い布が掛かったままで案内できるまともな部屋がなかったのだ。
焦った春子は事情を説明し、とりあえずダイニングテーブルの席に着いてもらうと、キッチンへ走りヤカンを火をかけ、そのまま今度は昨夜室内を見て回ったときに応接間ぽい部屋があったと走って向かい、その部屋に入ると窓を開け、ソファーやローテーブル、サイドテーブル、燭台、と片っ端から掛かっている布を引っぺがし、それを抱えて通路に出れば目についた部屋にぶち込んだ。
そして再びやって来たキッチンでヤカンを火から下ろしお茶を用意すると、そのあとやっと時の女王を応接間へ案内し、お茶とお菓子を出して自身は着替えるために一旦下がらせてもらった。
寝室に入った春子はドアが閉まると同時に着ていた寝巻き同然の服を脱ぎ捨て、収納魔法陣からブラウスとスカート出して着替えると、髪は手櫛で適当に整えた。
それから応接間に戻る前に再びキッチンに寄って新たに沸かした湯と数種類の茶葉、あとティーカップを収納魔法陣に入れ、キッチンをあとにし____。
そして今、
ローテーブルを挟んで向かいのソファーに腰掛ける、時の女王にお茶のおかわりと、はじめに出した菓子とは違う別の菓子も差し出す。
「頂き物(創造の神様に)なのですが、こちらも宜しければどうぞ。」
「ありがとう。ごめんなさいね。本来なら知らせを入れて来るべきだったのだけれど、事情があって出来なかったのよ。」
申し訳なさ気にそう話す時の女王に、春子は頭を〝ブンブン〟横に振り〝「いいえ。お気になさらず!」〟と返しソファーに座り直す。
「ところで貴方は〝人〟かしら?」
(!!)
前置き無くいきなり核心を突く発言に、
春子は、口元まで持ってきていたティーカップを持つ手に〝グッ〟と力が入ると、一旦ゆっくりした所作でソーサーに戻してから聞き返す。
「...どういう...意味でしょうか?」
しかし言ってすぐ、質問に質問で返してしまったと気付いた春子は〝「申し訳___」〟と声を上げたが、ここで何故か時の女王が春子の声に被せて謝罪の言葉を口にした。
「ごめんなさい。ちょっと省略し過ぎてしまったわ。」
それに春子が〝「え?」〟と声を漏らしたが、
時の女王はそのまま話をし始める。
「まず初めに、精霊の地を管理できる者というのが私や魔女や加護持ち、そして精霊から招待を受けた者。とされているのはもう知っていることかしら?」
「...はい。」
何かよく分からないまま始まった話に春子は〝ドキドキ〟しながら答える。
「そ。よかった。
しかしそうは言っても実際に精霊の招待を受けたという者はこれまでにいなかった。だから今現在一般的には〝加護持ち〟までが精霊の地を管理できる者として認知されているわ。
でも一年程前だったかしら、突然精霊の神が顕現され
〝テルサ国の精霊の地の管理を任せたい者がいる〟
とお告げになられたの。
驚いたわ。まさか精霊の神自ら誰かを招待するなんて考えもしていなかったから。
そしてそのあと〝しかしまだ連れて来れない〟と言葉が続いて〝『え?』〟と思いましたが、神様の判断で〝まだ〟と判断されたのでしたら〝まだ〟なのでしょう。と納得したわ。」
〝でもこのとき私の横にいた宰相が顔を赤くしたり青くしたり可笑しかったわ〜〟
と時の女王は〝ふふふ〟と上品に笑い声を上げる。
春子は何となく宰相の気持ちが分からんでもなかった。
おそらく〝精霊の神ぃ!?(で、興奮して赤くなって)〟
〝精霊の招待ぃ!?(で、何連れて来る気?と青くなったんだろな〜)〟
「それから何度か精霊の神が顕現され、貴方の話を聞かせてくださったわ。何か沢山実験したのでしょう?」
時の女王はそう言うと春子を見て微笑む。
そして春子は何故だか〝沢山〟が強調されて聞こえたことに
(あ〜爆発実験知ってるんだな)と直感的に思った。
するとここで笑みを消した時の女王が急に〝「お願いがあるの」〟と言うと目の前のテーブルの上に一枚の紙を置く。
「一度鑑定を受けてもらえないかしら。」
「エッ!?」
思わず春子が大きな声を上げると、時の女王が表情と口調を硬くし告げる。
「正直貴方が何処から来たのか私は知りません。そして知らないからといって聞くこともしません。それは精霊(の神)が招待した者だからです。精霊から招待された者に出自を聞くことはタブーとされているのです。
ですがこれから魔女としてあるなら私は立場的にもある程度は知っていなければならないのです。」
「...わ、、かりました。」
まぁそうだよね...。テルサ国...と言うかこの世界の一部の者からしたら私は得体の知れない存在なんだろう
ま。鑑定されても名前や国籍、職業、犯罪歴くらいしか分からないって以前精霊の神様言ってたし、それくらいならいっか。
そう思うと春子はその魔法陣が描かれた紙の上に手をのせ魔力を流した。
「名前はハルコ・モリノ。精霊の神が仰っていた名で間違いないわね」
時の女王が鑑定書を手に、そこに記載された文字を目で追いながら言うとそれに春子は頷く。
「うん、なるほど。あと半年ほどで15歳。それから国籍もテルサ国にちゃんとなってる、という事は人間なのは間違いないわね、そして称号もある。」
〝これなら問題ないわね。〟と時の女王発した瞬間、春子は反射的に聞き返す。
「問題?」
それに時の女王は視線を鑑定書から春子に移すと説明をはじめる。
「何というか、はじめは〝精霊の招待でテルサ国の精霊の地を管理する〟となっていたでしょ。でも正直それは、危険ではないかと思っていたの。先程も言ったけれど、過去に精霊に招待された者などいなかったから、そのような者が実際に現れたとなると、どんな人物かを探るため、他所の国から密偵がテルサ国内に侵入したと思うの、そうなると最悪、拉致される可能性もあるし。
それに比べれば、まだ魔女という存在の方が、一般的には馴染みがあると思うのよ。だから称号が付いて本当よかったわ。」
そこで読んでいた鑑定書を一度テーブルに置くと、
時の女王は何故か春子を見て思案する様子を見せた。
「でも、一番の問題は、その見た目かしらね。」
「見た目?」
「ええ。精霊の神から聞いてない?」
「?」
〝何を?〟と頭に疑問符を浮かべ首を傾げた春子を見て
時の女王は告げる。
「テルサ国は別名〝白の国〟とも呼ばれているの。」




