人間やめました。
「 。」
「 」
「 ?」
...なん、だろう
誰かの話し声が
春子は眠りから覚めるように意識が浮上する。
「あ!起きたわ!!わかる?私の声聞こえるかしら?」
「フン。やっと起きたか寝坊助め」
「おや。てっきりもうダメだと...。」
(え、何が?)
突如視界に入った見覚えのない人物にそう声をかけられた春子は疑問符を浮かべる。
だがどうやら私はよく寝ていたらしく
はじめに意識の確認をしてきた金髪の眩しい美女は今はどこかほっとした様子をみせている。
そして次に悪態をついた黒髪短髪の上半身ほぼ裸の男には何故か睨まれている...が、それより気になるのはその横にいる人物。
若草色した髪が肩程まであり中性的だがおそらく男性なのだろう。
(この人全然表情が読めないな。でもたしか見切りをつけたように言ってたような...。)
すると突然何故か慌てた様子で美女が〝「違うのよ!」〟と声を上げる。
「わりと長い期間眠っていたものだから心配だったの!」
それに春子は〝(今わたし声に出して何か言った?)〟と不思議に思うも寝起きすぐのはっきりしない頭では判断が付かず適当に流すと、とりあえず初対面の相手に心配をかけたようなので謝罪しとくかとそこにいる三人に視線を向ける。
『え〜っと。この度は.....。』
春子は今、声に出して言ったつもりだった。
しかしそこで声が出ていないような?違和感を覚えると一度言葉を切りそのまま黙り込む。
「おいマメ!」
『え。(ま、まめ?)』
その声掛けに春子は反射的に視線を上げそこにいる黒髪の男を見る。
(まめって豆?私に言ったの?)
「お前は先に現実を見たほうがいい。」
そして男はそう言うとその手に持つ鏡をドンッとそこにある円形のテーブルの上に置く。
(えぇ〜。何なの...。)
春子はさっきからその黒髪の男がとる行動や発言の意味が分からずどうしたものかと考える。
何故なら日本人女性の平均身長よりやや高い春子は、決して〝「マメ」〟と呼ばれるほど小柄ではない、そして当然だが名前でもない、かすりさえしていない。なのでその男の発言がピンとこず〝(何だ?ただの悪口か?)〟と考える。
...と、ここで何気なくテーブルに置かれた鏡に視線を移した春子だったがそこに映っているものを見て固まる。
...どういう事だろうか。
鏡にはドーム型のガラスケースに何やら発光し浮遊する小さい何かが収まっているのが映っている。
しかもそれは私が動くとケースの中の光も動く。
右往左往する私とそれに連動する光....。
(!!!)
『うぇえええええええッッッ!!!』
〝私!?この豆粒が私!?
声云々の前に口も無いどころか人間ですら無い!!
しかも発光してるンですけどーーーーッ!〟
あまりの衝撃に春子はガラスのケースの中をカン!カン!と衝突音をたてながら縦横無尽に飛び回る。
そうして飛び回って・飛び回って暫く飛んでいると誰かの手に包み込まれた。
いつの間にかガラスケースから出ていたらしい。
「時渡りの神。急な刺激を与えないで下さい。消滅してしまうでしょう」
そうサラッと物騒なことを言う静かな声色の持ち主を春子は手の中に収まった状態のまま僅かな指の隙間から見ると若草色の髪が見えた。
(あ。見切りをつけようとしてた人だ。)
「違います。心配していたのです。」
(まただ。)
春子は今間髪入れずに否定されたことでどうやらここにいる三人には自身の考えが筒抜けらしいと悟る。
「ごめんなさいね。ここはシンイキだから」
そしてこのタイミングでそう美女が謝罪の言葉を口にすれば春子は〝(ほらね。)〟と確信し、次に〝(シンイキ?)〟と言う言葉を反芻する。
(え〜っと。シン、イキ...シンイキってなんだっけ。シンイキだから?...だからがどうだって言うんだ?シンイキ、シンイキ...神域..か?)
それに気付いた春子は自身がいる真っ白な空間を見回し、そして改めてそこにいる者達を見る。
(つまりなんだ、ここは神の領域でそしてそこにいるこの人達は神だから思考も読める...と?)
そう春子が口には出さずにいると
金髪の眩しい美女は苦笑いで頷き
黒髪短髪筋肉剥き出し男はフンッと鼻を鳴らし
若草色した髪の男は表情を変えることなく一度だけゆっくりと瞬きをした。
(へぇ〜もう全部夢かな。)
人間をいつの間にかやめ、豆になった春子は、
今この状況が余りにも非現実的過ぎて理解する前に思考を放棄をする。
「マメ。お前どこまでの記憶がある」
しかし先程〝『トキなんちゃらの神』〟と呼ばれていた男がそう春子に声を掛けると、マメには敢えて反応せずに聞かれたことを考える。
記憶?
・
・
・
・
あ〜。
そうか 私 死んだのか。