森野春子の向かうところ
「コレは?」
春子は今精霊の神が円卓の上に出した白い畳まれた何かと、12芒星のネックレスを見ながら尋ねる。
「テルサ国の王から貴方へと預かって来たものです。」
それを聞いた春子はとりあえずネックレスを避け、畳まれた何かを両手で掲げるようにして広げた。
「....。」
すると白い何かは服だった。
しかし普通の服ではなく司祭服?牧師?肩のケープには金の糸で豪華な刺繍が施されている。
春子は掲げたまま視線だけを動かし横にいる精霊の神を窺い見る...と、その視線に気付いた精霊の神が口を開く。
「そちらは正式な場に赴く際、魔女が着用する正装だそうです。そして12芒星のネックレスは、魔女であると証明するものなので肌身離さず身につけてほしい。と、テルサ国の王が話していました。」
「ま、まじょ...?」
掲げた手を下げ春子が聞き返すと〝「まずはじめに言っておきますが」〟と精霊の神が話し始める。
「他国の精霊の地を管理する者は条約によって魔女しか認められていません。
ですが、精霊の地自体は、魔女以外に、テルサ国の王、加護を持つ者、そして精霊からの招待を受けた者。がその地に足を踏み入れることが許され、管理することができます。
そしてあなたを構築する前、精霊の地を管理してほしいと話をした時点では、その事も踏まえテルサ国の精霊の地の管理を考えていました。
なので貴方には、テルサ国の精霊の地は広いためそれが管理できるだけの膨大な魔力を授けてあります。」
「えぇっ、、と。それは...あ、りがとう、ございます。」
初耳である。膨大な魔力ってどんだけ?
なんか精霊の神様って加減が分かってなさそうで怖いんだけど...。
この前、自身の鑑定書に魔力の記載もあったが標準が分からなかったし。
内心そんなことを思いながら春子は少し不安げに御礼の言葉を口にするが精霊の神は気にせず話を進める。
「そして魔女についてですが、
テルサ国には研究員が多数います。
その中で加護を持つ者が、自身の研究で目立った成果、功績を挙げた場合、称号が付きます。
これはよその国では、まず加護持ち自体がいないので、爵位を除いて称号が付くことはありません。
そして加護持ちに称号が付くと国から魔女と認められ、その後、その者の魔力量に見合った精霊の地へ派遣されます。」
「それは魔女になるメリットあるんですか?」
「ん〜。私はその辺気にしたことがないので詳しくは知らないのですが、メリットはあったと思います。例えば、魔女は元々研究員ですから、精霊の地にある建物は自分だけの研究施設として使えますし、魔女になると研究費の予算が大幅に増えます。しかし辞退もできます。その場合ただの加護持ちとしてテルサ国の研究員に戻ります。」
「なるほど。精霊の神様は私がここで実験をはじめたときから称号を得るだろうと思っていた?」
「まぁ...。そうですね。精霊である貴方は既に加護を持った状態ですからね。とは言え、結果を出さねば称号は得られませんから、得るかどうかは半々といった感じでしたが...。」
「そうですか...。」
「そして現在、ヤーハン国とポロタム国以外に魔女はいません。」
「え!不在?ノークシュア国とパナイ国に魔女がいないって、それは条約的に大丈夫なんですか?」
(だって安全保障条約で魔女の派遣は絶対じゃないの?祝福の件だってあるのに?)
不在の地があると思っていなかった春子は驚きの声を上げる。
「パナイ国は10年ほど前まではいたようなんですが、魔女を辞めテルサ国に戻って教会に勤めているようです。
そしてノークシュア国は、テルサ国の次に精霊の地が広いので当然その分魔力量も必要になるのですが、それだけの魔力を持った魔女が存在せず、300年ほど不在のようですね。」
「さ、300年!!?」
春子は先程よりさらに驚き、目を大きく見開く。
「そして貴方が言った条約とは国連に加盟する際の祝福のことですよね。
普通の祝福は時間が経てば効果は切れます。しかし国連に加盟する際、当時のテルサ国の王が行った祝福は特殊なもので、現在のテルサ国の王に引き継がれ今も祝福の効果は継続しています。そして与えられた祝福は加盟国間で戦争を誘発する攻撃がなされた場合、被害を受けた精霊の地にいる魔女は加害国への呪いを発動する。というものでしたよね」
それに春子は大きく頷くと、精霊の神は円卓上の12芒星のネックレスに視線を向け告げる。
「魔女が不在の地で問題があればテルサ国の王が対処することになっています。それ以外だと、
この魔女であることを証明するネックレス、これはただのネックレスではなく、これが特殊な祝福を呪いに変える際に使用する鍵です。」
春子は手にした服を元通りになるよう畳なおしながら尋ねる。
「あの〜。このネックレスと魔女の正装を私に渡すということは...。」
「ええ。テルサ国の王が300年魔女が不在のノークシュア国の精霊の地を貴方に任せたいそうです。」
「な、なるほど...。」
「長期でなくとも、とりあえず貴方が成人を迎える年まで行ってもらえないか、と言っていましたよ。」
「因みに、テルサ国では何歳から成人ですか?」
「確か、18?だったと思います。」
「なるほど。」
あと4年くらいか...。
でも魔女っていうのがなぁ。その4年が平和なら問題ないけど...。
300年魔女不在かぁ。精霊の神様が私に膨大な魔力を授けたって言ってたし、これで断ったらノークシュア国の精霊の地はこれから先も魔女不在になるのか...。
春子は俯いていた顔を上げ少し姿勢を正して精霊の神に向き直る。
「...分かりました。とりあえず成人までということでその地に行きます。」
国はさ何処も行ったことないんだからこだわりはないんだよね。
ただ。魔女っつーのが大丈夫か?と思ったけど。
まぁ300年?無事な訳だからそんなこれから4、5年で戦争にはならないっしょ。
それに研究できるのは悪くないし
予算を気にせずやりたい放題...。うん、悪くない。
「では、そのようにテルサ国の王には伝えておきましょう。」
そう言うと精霊の神は春子に向かって微笑んだ。




