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呪いの魔女はわりと毎日忙しい  作者: 護郷いな
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うぉのれ時渡り!

コロコロ

コロコロ

コロロロロ...。

(う〜ん。おかしい)


春子は机上に並べた8個の真っ黒なビー玉を前に爆発事故のあとから、ここ最近までの実験を振り返る。


幸いなことにビリヤード球サイズの物はあの日以来生産していない。

...が、ここ最近妖精の花を乾燥させた粉末の量を見直して実験を繰り返し行った結果、まるで黒い釉薬でコーティングしたかのような見た目の玉を量産してしまい


そしてそれを死神は受け取らなかった。


という事はそれはつまり〝呪いの核〟と認められる物では無いということで、きっと冒険者ギルドに持ち込んだとしても換金できないだろうと容易に想像がついた。


「...まぁ。見た目明らかに違うしね。(弾かれても仕方ないか)」

春子は黒光りしている玉を一つ手に取るとそこにあるランプに翳しながらポツリと呟く。


本来。その見た目、黒いビー玉に見える呪いの核だが正確にはその〝黒〟は〝ボヤけた黒〟という感じだ。

というのも玉の中に収まっている黒い靄の正体が薄まった魔素であるためそう見えるのだが。



(...やっぱりアレを試すしかないか)


春子は机の引き出しから魔法陣が描かれた紙を取り出すと

次に机上に積み重ねている書籍の中の一冊を手に取りパラパラとページを捲る。

そして目当てのページで手を止めた春子はそこに挟んでいた一本の押し花を慎重に剥がし用意した魔法陣の上に置くと少し間をおいたあと魔力を流した。






(押し花...ラミネートしたかったな。)

春子は内心そう呟くと若干残念な気持ちでそこにある元は押し花だったモノを眺める。


そもそも押し花(コレ)は先日精霊の神様から貰った3本の妖精の花のうち残しておいた1本で、気絶から目覚めたあの日ふと見ると枯れそうになっているのに気付いて慌てて押し花にしたのだった。


そして灰にすること自体は、はじめに思いついたことだった。

しかし実物を見て、いきなり灰にするより乾燥であればもし呪い人に振り掛けた結果なんの効果がなかったとしてもハーブとして食用になったりするのでは?という考えに至り変更したのだがそれで呪いの核でない物を量産しても仕方ない。


春子は押し花を見て灰にするのは惜しい気もしたがとにかく今は真っ黒(略)ビー玉からの脱却が最優先だ。と考えを改めた。


と、ここでログハウス内に一つだけあるドアが〝バンッ〟と勢いよく開かれ春子は肩を大きく跳ねさせる。





「(...はぁ。)」

春子は一つ溜め息をつくと咄嗟に魔法陣の紙で包んだ(ソレ)から押さえていた手を退かす。


そしてこんなノックも無しにドアを開ける非常識な人物は()()しかいない。と思った春子は振り返り文句を言おうとして目を見開く。


「と、と、時渡りの神様、それ、その頭に被っているウォーボンネット...私のでは?」

春子は()()が自分のだと確信していてもつい疑問形で尋ねる。


というのも、あの事故に遭った日被っていたものの神域(ココ)でキャリーケースを返してもらったとき中身を一通り確認したが入っていなかったため持ってこれなかったんだ。と思っていたのだ。


なのに...。(何故コイツが被っているんだ?)

春子は飛び掛かりたい欲求を〝グッ〟と抑えつけ時渡りの神を見る。


「コレか?拾った、似合うだろ」

そして時渡りの神が得意気にそう言うと春子は〝何じゃコイツ〟と青筋を立てる。

(そりゃそこそこマッチョで、まぁまぁ顔も良ければ似合わないわけないが、今はンな事聞きたいんじゃない)

「拾った?どこで?」

春子は感情的にならないよう気をつけながら尋ねる。


すると少し考える素振りを見せた時渡りの神が右手の親指を立てそれを横にクイクイと動かす。

「ん〜?アッチ?」


(なんと!この神域内に落ちてたのか!)

その事実に愕然となった春子は同時に悔やむ。


何故ならこの神域はかなり...というか恐ろしく広い。

そんな場所で過ごすようになってすぐの頃ログハウスからあまり離れると迷子になる危険があるの一人で遠くまで行かないようにと精霊の神から話をされた()は言い付けを守り彷徨くことをしなかった。


(まさか私物が落ちているなんて。)


春子は〝早く脱げ〜〟と念じながら、まだ感情を出さないよう冷静に伝える。

「そうですか。拾って下さってありがとうございます。では、それは私のなので返してもらっても?」


「バカ言うな。俺のだ」


「あ゛?」

(バカ言ってるのはお前だろうが!)

春子は今にもブチリブチリと血管が切れそうなのを必死に耐えながら言葉を続ける。

「いや。それの本当の持ち主が、今、目の前にいるんだから返して下さい。」

「持ち主?俺が手にしたからもうオレのだ。お前のなんて書いてないしな。」 


「な!!書いてなくても私のなんだから返しなさいよ!」

勝手な言い分に遂にキレた春子は連続でジャンプし時渡りの神の頭に向かって手を伸ばす。

「やめろ阿呆。大体子供のお前じゃコレは似合わんだろ」

「似合う似合わないの問題じゃなく、私のなんだってば!」

「だぁ、離れろ!あ、そうだちょっと落ち着け」

「それを返してくれたら落ち着きますよ!」

春子はそのままジャンプを続け時渡りの神からウォーボンネットの奪還を図る。

しかし時渡りの神はそれを軽く躱しながら何かを取り出し春子の顔の前に突きつけた。

「いいから!コレにサインしろ!」


「は?んな訳わからないのにサインするはずないでしょ!」


「コレはお前に必要なものだ!」

それに春子はチラリと視線を向ける。


コレって?どれ?この紙に描かれた魔法陣?

何、新しい式でも教えに来たんか?

いや、式より今はウォーボンネットの方が

いや、まてよ...。式を教えてもらっている隙にウォーボンネットを取り上げるか?


そう考えた春子は一旦ジャンプを止めると

魔法陣が描かれた用紙を受け取り、指定された箇所にサインをする。

「それで?私に必要なものって?この魔法陣を使う式ってなんです?」

春子は〝さっさと話せ〟と言わんばかりの態度で問いかける。


「式って何だ。誰がそんな事言った。」


しかし時渡りの神がそう返すと春子は〝「は?」〟と声を漏らす。

「だって...私に必要なものって。」


「コレをやる。物々交換だ。」

「コレって?この魔法陣??」


「お前は亜空間に時間停止機能付きの倉庫を持った。その魔法陣は門だ」

「え?門って何?いや要りませんよ、それより」


「要らないと言われてもお前はそれにサインした。もうそれの所有者はお前以外にいないし、なれない。返されても困る。じゃーな」


「時渡りッッッ!!!!」


瞬間消えた時渡りの神に春子は〝なんって神だ!〟鼻息を荒くする。

そして暫し立ち尽くした春子だったが

まだ神域の何処かに私物が落ちてるかも。と思い至る。


正直、事故に遭う前、自宅でキャリーケースに目一杯詰め過ぎて、何を入れたか記憶が曖昧だった春子はキャリーケースを掴みログハウスを飛び出すと、そのままの勢いで神域の奥へと走って行った。






「.......。」

結局あれからアチラコチラと歩いて、それらしい物が落ちていないか探し回ったが、発見には至っていない。


「もう落ちてないのかな。」

とぼとぼと歩いていた春子は足を止めるとキャリーケースから双眼鏡を取り出し360度見回す。


「はぁ...。完、っっっ全、迷子になった。」

周囲は空以外全て真っ白空間だ

雲の流れを見て、コッチ方面にログハウスがあるはずだと思ったが、全然見当たらないし。

勢いで出てきて気付いたらどれくらい歩いたのか、どっちから来たのか、わからなくなってしまった。


(子供は体力ないな〜)

足も疲れたし。

お腹も空いた気がするし。

若干眠いし。



「はぁ...。あ!」

そしてため息をついた春子だったが、ここで遭難信号を空に打ち上げることを思いつくと、その場にキャリーケースを倒し、中から紙とペンを取り出す。

あとついでに絨毯も出すと、さらに何か食べ物なかったかな...と漁っている最中急に手元に影がかかり不思議に思いった春子は顔を上げるとそこに立つ死の神と目が合った。




「〜〜〜〜っ。し、死神ィィィィ!(持つべきものは死神!心の友よ!!)」





そうして無事死の神に救助されログハウスに戻ることができた春子はその晩、キャリーケースをひっくり返し中身を出すと、次にクローゼットに向かいワンピースから下着のパンツまで持ち出しベッドにぶち撒け、それら全てに、日本語で

『森野春子』

と記入してからベッドに入ったのだった。

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