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呪いの魔女はわりと毎日忙しい  作者: 護郷いな
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祝福の違い

「以前、魔女や加護持ちと呼ばれる者が祝福を与えることができる。

そしてその祝福は魔女を除いてテルサ国の教会でしか受けることが出来ない。と話したことを覚えていますか?」


精霊の神にそう尋ねられた春子は静かに首を縦に振る。


「つまりそれは(テルサ)の認可を受けた教会でのみ加護持ちの祝福行為を認めると法律で定められているためです。

そしてどのような者が祝福をもらうのか、という例えで、旅に出る者、商売を始める者、出産を控えている者などと話をしましたが、もう少し具体的に言うと

旅に出てる者には靴や鞄。

商売を始める者には店や荷馬車。

出産を控えた者は直接その体に。

といった具合で形ある物に魔女や加護持ちは必要な詠唱や魔法陣を用いて祝福を与えます。

そして祝福を受けた者が何かしらの犯罪や精霊に悪であると判断されるような不義理な行いなどをすると呪いに変わる。というのが一般的に知られている祝福です」

ここまでは大丈夫ですか?と言う精霊の神に春子は()()()()と頷く。



「両手を出して」


(え?手?両手??)

どういうつもりかわからないが精霊の神がそう言うので春子は、とりあえず手のひらを上にし、物を受け取るようにして両手を差し出す。

すると精霊の神はその両手をとり手首が重なるように交差させたあと先程ベッドの上に出した縄を手にした。



「・・・・・。(秒で縛られてしまった。)」


春子は拘束された手首を呆然と見つめる。


縄はわりと緩めに縛られ、痛くはない。

しかし、痛くはないが、解けそうでもない。



「精霊の___」

「動かしてみて下さい」

「あ...はい。」

説明を求めようとしたタイミングで精霊の神からそう指示された春子は一先ず言葉を飲み込み言われた通りに縛られた手首をグニグニと捻ったり、交差した手首を離そうと()()と力を込める。




「......。(え〜っと...。まだ続けるべきか?)」

そこにいる精霊の神の視線を感じながら暫く手首を動かしてみたものの縄は解ける様子も緩む様子もみられない。

若干飽きてきた春子は一旦動くのを辞めて縄を観察する。


何だろ。知恵の輪的な外し方でもあるのか?


そうして春子が拘束された手首を色々な角度で見ていると視界の端から伸びてきた手がその縄に僅かに触れた。


「...精霊の神様?」


今のは?の意味を込めて春子が声をかける。

しかし精霊の神が表情なくそのままいると春子は(精霊の神様ってそういうトコあるよねぇ〜)と内心愚痴りつつ再度手首に力を込めた_________次の瞬間。


「い゛ッ!?」


春子の目が大きく見開く。


「あわわッ!いてて、いだだだだ!お、折れるッ!うぎぃぃぃーーーギ、ギブ!ギブ!!」


「お、おい...」

悲鳴を上げた春子が顔を赤くしながら縄と格闘していると時渡りの神が躊躇いがちに声をかけ一歩前に出る。


しかしここで何故か精霊の神が椅子に掛けたまま片手を軽く持ち上げそれを制したので、春子は思わず〝『ゥオイッッッ!!』〟と声を張りそうになったが、直後精霊の神が縄に触れ、縄は音なく解け床に落ちた。


「...どういうこと...ですか?はじめは動いても何ともなかったのに。突然縄が意思をもってるみたいにギッチギチに締まっていきましたよ??」

くっきりと縛られた痕が残った手首を摩りながら春子が若干苛立ち気味に尋ね、ベッドの傍に落ちた縄に視線を向ける。


「この縄はその素材自体はどの世界にも存在する植物で、その蔦を適当に編んで作った物なのですが、精霊が()()というひと手間を加えたことで祝福を受け《丈夫な縄》になった物です。

このレベルの祝福は精霊にとって無意識に付与できる程単純な祝福なのですが、これと同位の祝福を魔女や加護持ちは決められた詠唱を用いて行います。そしてこの祝福は犯罪や精霊への不義理な行いで呪いに変わる()()なので貴方には力で縄を解くような行為をしてもらいましたが、どうやら精霊の貴方には通用しなかったようなので少し手を加えさせてもらいました」


(...あの時、強制的に呪いに変えたのか)

春子は精霊の神が一瞬、縄に触れた意味を悟る。



「ですからこの縄で縛られると、その者に悪意があれば動く度に締め上げられ、そして動かなくなったあとも息を吐いたとき、肺が縮む瞬間、瞬間に締まっていき、最期は肺が膨らむことができず死に至る。

因みにこういった現象は植物系の精霊の呪いによく見られます」


(な、なんちゅう呪いじゃ。蛇の捕食のようだ)

春子は無意識のうちに体を抱きしめて腕を摩る。


「そして妖精が巣立った花についてですが、以前私はそれが普通の白い花だと伝えました。

しかしこの普通の解釈が貴方と私では一致していなかったというのが今回わかりました。


というのも貴方は普通の花とは何の効力も持たないくらいの捉え方だったようですがそのような植物は存在しないのです。」


「は?」


「つまりどういう事かというと世界に存在する植物は精霊の恩恵を受けていて普通の花といえど多少の祝福が付与されているのです。

まぁ。その効果は微々たるもので愛でれば癒される程度のものですが。」


「それって魔法や精霊が存在する世界では常識なんですか?」


「少なくとも精霊魔法を使用するテルサ国民はそういう認識はあると思います。

ですから今回の事故はその認識の齟齬によって招いた部分もあると思っています」



確かに...。

妖精が巣立ったあとは普通の白い花だと聞いた私は元の世界の感覚でその言葉の意味を捉えた。

でも妖精の母胎だったことを考えたとき、もしかすると薬効のある植物だったりしないかな?と思ってとりあえず乾燥させてみたんだよね...。



「精霊が植物に一手間を加えるとその物が祝福を受けた物になるということは当然貴方が行った場合もそうなります。

そして普通であれば魔女や加護持ちが扱う祝福とそんなに大差ないものになったと考えられるのですが、今回そこでの行為が()()だったことでその時点で出来た粉末は、妖精の花に僅かに残っていた祝福の密度が大きくなった状態になっていたと考えられます。そしてそれが一手間という祝福を受けて更に効力が増した。」


そこで一旦話を切った精霊の神が徐に呼び鈴を鳴らす。

するとログハウスのドアが開き、見習い天使数人がワゴンを押して入って来た。


(お、珍し。)

普段ログハウスから出たところにある円卓で神様たちとお茶をするとき見習い天使がテーブルセッティングをしてくれるのだがその姿を見ることはほぼほぼ無い。

しかし姿は見えなくとも彼らが周囲にいるときはふわっと花の香りがして暖かな風が一帯を包むので存在は感じとることができる...てっきりそれが普通だと思っていたのだけれど...?


こうして目視でハッキリ姿を確認できたのは初めてじゃない?


もしかして今まで避けられてた?

いや。あり得るよね。

神域にいる私は得体の知れない異物って思われていてもおかしくない。


そして春子がそんなことを考えながら眺めている間に見習い天使達は手際よく分担して行動し、いつの間にか室内に設置された丸テーブルにこれまたいつの間にか着席している時渡りの神と創造の神の前にお茶が用意され、死の神、精霊の神の傍にもお茶をサーブする者が付く。


「...どうぞ」

「!(わ、私にも!?いいの?)」

春子は一人の見習い天使が自身に差し出したお茶を受け取ると『ありがとうございます』とお礼を口にする



「...さて、」

ティーカップを傾け一口お茶を含んだあと精霊の神は一呼吸置いて口を開く。

「ここからは何故前回と違って今回呪いの核に祝福が発揮されなかったのか。について話をしますが端的に言ってしまうと今回のが魔女や加護持ちが扱う祝福で前回のが精霊が扱う祝福だった。というだけです。

以前魔女や加護持ちが扱う祝福の話をした際に貴方は精霊なので純粋な祝福と呪いを個で放てるとも話をしましたよね。

つまり前回の祝福が()()です。

先日祝福の核を拝見したとき、使用した術式を見せてもらいましたが()()には祝福と呪いの術式が複雑に組み込まれていました。そうして作ったあの術は精霊の魔力でのみ動かせる(もの)で強制力があります。

ですから普通ならば悪意のあるモノに発揮される事のない祝福が()()()に発揮された」


「あ〜...。」

確かに。結局あの粉末に付与された祝福は魔女やらが扱う祝福と同じだから悪意と害の塊でしかない呪い人に祝福が発揮されるワケないか。



「そして最後に爆発した件ですが...それについてはまず、

現存する魔女や加護持ちが祝福を行うとき、彼らは精霊に魔力を分けてもらう必要があります。しかし、彼らの受け取れる魔力は僅かなため、その祝福が呪いに変わったところで《死》に直結するような呪いにはなりません。

ですが貴方の場合彼らが使う様な祝福を使用すると一度(ひとたび)呪いに変わったとき精霊の純粋な魔力によって《死》に直結します。


まぁ爆発にまで至ったのは大方粉末の使用量が問題だったのでしょう。


前回は精霊の祝福が呪い人の核に干渉し魔素を抜き取った後その場に溜まっていた祝福が空になった核に吸収された形でしたが、今回は精霊の呪いのみが干渉した事でその性質も相まって呪い人ごと飲み込みその核の中に収まろうとした結果、一般魔法で呪われた呪い人と精霊の呪いという異なった呪いが核内部で反発し合い、熱が発生し爆発した。...という感じでしょうね」


話し終えると精霊の神はティーカップをソーサーに戻し()()と立ち上がる。


「...少し長居し過ぎましたね。色々話をしましたが今日はもう体を休めた方がいい。」


そう言うと精霊の神は春子の手に自身の手を翳し触れない距離でスッと横にスライドさせた。


「え。」

見れば、手首に残っていた縄の痕も擦れた痛みも引いているのに気付いて春子は瞬きを数回繰り返す。

「あ、ありがとうございま...s?」

春子が頭を上げると精霊の神の姿はなく微笑んだ創造の神と目が合う。

「じゃあ私達もお暇するわ。ゆっくり休んでね」


そして創造の神と時渡りの神がその場から姿を消すと春子は慌てて声を上げる。

「し、死神ッ!!」


目覚めてからずっと死の神のことが気になっていた春子は傍に来た死の神を見上げる。

「今回本当にごめんなさい。死神はケガしてない?大丈夫?」


コクリ。


「そか。よかっ..._____ 」

だがここで春子が〝ホッ〟とした直後、頭に手が置かれひと撫でされると、次には強制的に春子の意識は夢の中へと落とされたのだった。


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