祝福の核
「〝コレ〟がその場に残っていたと?」
円卓の上に置かれた小さな箱の中に収まっているものを見たあと精霊の神は春子に向き直って尋ねる。
そのコレとは、一見ただのビー玉サイズの無色透明なガラス玉と思われそうな物だったが、よく見るとそのガラス玉の中心に収まっている石のようなものはキラキラと七色に輝いていた。
そしてコレは先日死の神と共に実験した際呪い人が消滅したあと《呪いの核》を回収しようとしてその場にあったのがコレだった。
「死神に《呪いの核》なら回収するかと思って渡そうとしたんですけど受け取ってもらえなくて...だから《呪いの核》とは違う物だと思うんです。ね、死神。」
春子は振り返り隣の席に着いている死の神に向かって確認すると、この話を始める少し前、精霊の神が用意したクッキーを黙々と面の口元に運んでいた死の神が動きを止めて首を縦に振る。
するとそこでその輝くビー玉を摘み自身の目線まで上げた精霊の神がその手を軽く動かし観察するように眺め口を開く。
「そうですね。確かにコレは《呪いの核》ではないので死の神には必要ないのでしょう。コレは言うなれば《祝福の核》という物になるでしょうね。」
「祝福の...核?」
「因みにどんな実験をしたか聞いても?」
それに春子は横に置いていたキャリーケースからノートを取り出すとこれまでの実験結果を書き留めておいたもの見せ〝呪い人を精霊魔法の火で燃やすことから始めた実験〟から説明を始める。
「_______だからあの日はそれまでやってきた実験を全て見直し圧縮した祝福と呪いの式を組み込んだ新たな魔法陣で行ったんです。」
春子が話し終えると思案顔で聞いていた精霊の神は手に持つ《祝福の核》を小箱に戻し〝「なるほど...。」〟と呟く。
「精霊魔法の祝福によって《呪いの核》の魔素が徐々に抜け、呪い人の器の維持ができなくなったところに精霊魔法の呪いが作用しボロボロと器が崩れ、結果その場に呪いの薄まった核と、朽ちた滓が残った。
しかし圧縮した事で、祝福が《呪いの核》から一気に魔素を抜き出せるようになると、次の呪いでも同じように一気に消滅する形になり滓も残らなかった。そしてその場に溜まっていた濃い祝福がカラになった核に入り結晶化した。という事でしょう。しかし凄いですね。自ら策を編み出すとは」
そう言うと精霊の神は春子の方を向いて笑んでみせ一瞬ドキッと心臓が弾む。
「わ、私みたいな素人が武器を持ったところで使えませんし、かといって無抵抗もイヤなわけで、そうなると必然的に自身の身を守る術を考えないといけませんよね。」
そこで一度言葉を切ると春子は少し思案したあと再び口を開く。
「...というか戦えない人は呪い人にあったら皆走って逃げる一択ですか?じ、実は、息を止めたら気付かれなかったり?」
「何故それで呪い人が気付かないと思われたのか不思議ですが、それでは普通に死にます。」
(ですよねっ!ごめんなさい!私がバカでしたッ!!)
精霊の神が向けていた笑顔がそこでスンッと無になった瞬間春子は調子に乗った自分を呪った。
(サンタクロースを信じる歳でもあるまいにキョンシーはいるとでも思ったンかい!!私の阿呆!!)
そして肩を落とし無言のまま己のアホさ加減を悔やむ春子を放置し精霊の神は話を続ける。
「私は人間に然程関心があるわけではないので詳しくはないのですが大方テルサ国の者だと精霊魔法で足や全身に風を纏わせ避難するのでしょう。祝福を受けている者であれば、さらに強力な風も纏えるでしょうし。他の国の者もやはり走って逃げるか、護衛を雇うか自身で戦うか?その様な感じではないでしょうか。」
「え?あ、そうですか。な、なるほど〜」
若干聞いていなかったところもあったがとりあえずそう返事したあと散漫になった意識を正す。
でもさ逃げるってねぇ...。それでは根本的な解決にならないじゃん?その時は逃げきれてもまた何処かでバッタリなんてヤなんだけど。
「でも少し困りましたね。この《祝福の核》は扱いには注意が必要でしょう。あまり人の手に渡らない様に管理して下さい。悪用されない様に。」
「...はい。」
確かにそれは《祝福の核》というワードが出たとき気付いていた。コレは世に出回ったらダメなヤツだろうと。
ログハウスに戻った春子は机の上にノートを広げると今日はあの後も幾つか疑問に思っていた事を教えてもらったため忘れないうちにノートに書き留めていく。
まずその世界で、呪い人が消滅した際その場に残った《呪いの核》はどうしてるのか気になって聞けば、呪い人は冒険者ギルドという所で、常時討伐依頼が出されているらしく、討伐した者はその証明として《呪いの核》を冒険者ギルドに提出するのだとか。
そしてそこで討伐達成の報酬と交換されると、次に冒険者ギルドは回収した《呪いの核》を教会に渡し、受け取った教会側はそれを死の神の祭壇に捧げ、それを死神が鏡を使って回収すると、その後教会側にある《呪いの核》は何の変哲も無いただのガラス玉になっている。とのことだった。
それから以前精霊の神様が〝『人であった核を持つ私は人としてあることもできる。しかし人間のふりという感じになるでしょうが...。』〟と言っていたが、〝ふり〟とは?と聞いてみると
その世界で国籍を取得できるのは人間のみで、それ以外の魔物や魔獣や精霊といった存在に国籍は得られない。というかそもそもそれらの存在に必要ない。
しかし今の私はテルサ国の国籍を持っている。
精霊であるにも関わらず国籍が取得できたのは何故か。
どうやら今、私の体の中ではA型とB型で骨髄移植したら徐々にドナーの血液型に変わるような現象が起きているらしい。
つまり人であった核が精霊の器に徐々に同化、吸収されていっている状態で100%完全同化していない間は人間と判断され国籍が取得できるそうだ。
そして精霊の神様の見立てでは、私はおそらく完全には100%にはならないだろうとの事で、僅かでも人の核の部分が残っていれば国籍は取得できるため人間と言っても問題ないだろう。ということだった。
ここで春子はペンを置きノートを閉じて椅子に掛けたまま両手を組んで真上に伸びをする。
「ふ、んーーーーっ....あ。」
そういえば先程、精霊の神様が外出していたのが私の国籍を取得するためだったと聞かされたのだが...。
「神様自らテルサ国に行ったという事だろうか?神託的な事をしたのかな??.....ダメだ。さっぱりわからん。」




