森野春子の本気
結論から言うと神の〝大丈夫〟は当てにならないと判明した。
というのも詳しく話を聞けば、
呪い人には《聖属性》が付与された武器での攻撃が効果的。ということだった。
だがそれは最近まで普通の人間をやっていた者からすると非常にハードルの高い話で〝(やはり走って逃げる一択なのでは?)〟と、若干諦めの境地でいると何を思ったか精霊の神が軽い口調で告げる。
「呪い人は普通の者が触れれば自身も呪いをもらいますが、貴方は精霊なので、おそらく触れたところが爛れるくらいでしょうか。」
まるで語尾に〝『良かったですね。』〟とでも続きそうな発言に目を見開いたまま固まった春子はそこに全く悪意の無い顔をした精霊の神を無言で見つめる。
「「...........。」」
(なんだろう。悪気なく言ったんだろうが腹立つな。こっちは足が速くなさそうと悪口を言われ、大丈夫だと言った〝それ〟は全然大丈夫ではなく。しまいには精霊だからか死にはしない的なことを言われたんだが。)
「...コホンッ。(ダメだ。)」
このままこの話を続けるべきではないと判断した春子は、そこで一つ咳払いをすると話題を変える。
(呪い人の件は何か別の方法を考えよう。)
「...そういえば、しばらく妖精が誕生してないんでしたっけ?」
春子が急に話を変えた事に精霊の神は数回パチパチと瞬きをしたあと口を開く。
「まったく誕生していない訳ではありませんが、数は少ないですね。」
「そうなると魔素が濃くなって魔獣や魔物がより凶暴化したり新種が誕生したりするんですよね?」
「はい。あとはダンジョンが出現したり、スタンピードが発生しやすくなります。」
(ダンジョン、スタンピード...。)
そんな事になったら自身の長生き素敵計画が早々に破綻するのでは...。
そう思うと春子はずっと疑問に思っていた事を尋ねる。
「精霊の神様が直接妖精の誕生を促したりはしないんですか?」
「する、しないで言えば〝しません。〟
できない事ではありませんが、
極端な話、ひとつの世界がそこの者達の選択によって、それが滅びに進むもその逆もどちらでも良いのです。
一応、精霊と共存を選択したテルサ国には今のところ加護を与えてはいますが、それ以上干渉すると今ある世界の流れに不自然さが生じ歪みの原因となる恐れもありますし。
その世界に存在する者が干渉するのが自然であり歪みが発生しないのです。
なので頑張って下さいね。」
「....(コクン)。」
最後何やら精霊の神の圧を感じた春子はぐっと喉を詰まらせ無言で頷いた。
(そうか。だから私を送り込むのか。神様なんだから、ちょちょいとヤっちゃえば?と思ったがそういう話でもないらしい。)
春子はチラリと精霊の神を盗み見る。
というか、どちらでも良いと言いながらも、
加護を与えたり、人を送り込んだりするのだから
その世界に機会を与えてくれている気がする。
そして精霊の神様って、やっぱり精霊だからか感情に疎いと思われる。
普段無表情なことが多いが、ふとした瞬間、感情が表情に出ている。しかしそれを本人は気付いてナイっぽい。
私も第三者から見たらあんな風に無表情なんだろうか。
気をつけるべきか?
春子は自身の頬を両手でつまむとムニムニ動かす。
しかし次には〝(あ!面をつければ表情なんて見えないか。)〟と気付くとそれ以上気にするのをヤメた。
ログハウスに戻った春子はそこにあるベッドに寝転がると背表紙に《精霊魔法書(上)》と書かれた本を読みながら熟思する。
そこの地から人がいなくなると今まで人の手が入っていたことで管理されていた土地や森は荒れ始める。
そしてそういう地が拡大していく環境下では精霊や妖精は生まれなくなり、それが世界にどう影響するかのといえば、私の行こうとしている世界には魔素が存在し、それは空気のように自然と流れるものでなく、その場に溜まるもので、それが溜まり続けるとダンジョンができ、そこから魔獣や魔物が生まれるのだが精霊や妖精はその魔素に干渉することができ、自然には流れない魔素に流れを生み出し魔素溜まりを解消する。
その結果魔獣や魔物の凶暴化や発生率を下げれる。
しかし現在その世界では、過去に当時のテルサ国の王が警鐘を鳴らしていたことが現実味を帯び、精霊や妖精が減少したことで、あちこちに魔素溜まりが発生し凶暴化した魔獣や魔物による被害が各国で出ているらしい。
(当時のテルサ国の王からしたら〝ほら。言わんこっちゃない〟って話だろうな。)
ここで春子は一旦読んでいる本を閉じて次に《一般魔法書(上)》と書かれている本を手に取る。
(...で、問題は呪い人をどうするかだよね〜。)
春子は〝一般魔法は魔素を体内に取り込んで魔力に変換し外に放つのだからそんな魔法でなった呪い人は魔素を纏っている事になるのではなかろうか。〟と考えていた。
さらに濃い魔素は魔獣や魔物を凶暴化させるというし、それなら呪い人が凶暴なのは濃い魔素を纏っているからでは?
そう考えたところで〝「よっ」〟と勢いをつけて体を起こした春子はベッドの上で胡座をかきそのままの姿勢で分厚い本のページを捲り読み込んでいく。
もしそうなら、その呪い人が纏う魔素に精霊や妖精が干渉すれば魔素が薄まるか、消えるかしないだろうか。
それが出来たら魔素の抜けた呪い人は弱体化するのでは?
(ん〜.........。)
そして目を閉じ胸の前で両腕を組んで熟考し始めた春子は、その晩からこれから行く世界に呪い人のような存在が他にもあるとしたら自身を守るためには全ての呪いを知る必要がある。と結論付け、精霊魔法・一般魔法の呪いを片っ端から調査、研究をすることにした。




