精霊魔法の呪いと一般魔法の呪い
「魔女や加護持ちと呼ばれる者が与える祝福は場合によっては呪いに変わる物騒なものなのにそれを受けたい人っているんですか?」
おやつタイムを経て満たされた春子は午後もキャリーケースからノートとペンを出し意欲的に勉強する。
「まず、祝福は魔女以外だとテルサ国の教会でのみ受ける事ができます。それはつまりそこに加護持ちいるからなのですが、他の理由としては加護持ちが行う祝福は国に管理されているため所定の場以外で自己判断による祝福行為は認められていないためです。そして一般的な祝福は一時的なもので効果は次第に切れます。そのため多くは、旅に出る者や商売を始める者、出産を控えた者、と理由は様々ですが自身の目的があって祝福を受けるので呪いになるような犯罪や精霊への不義理な行いをする者は、ほぼいません。」
「へぇ〜。(飲んだら副作用が出る可能性が0では無い風邪薬を飲むようなもんか。副作用がでなければただの効果抜群な良い薬って認識で。)
...とはいえ呪いに変わると生命を刈り取られるなんてリスキーですねぇ。」
(交通安全に商売繁盛、安産祈願〜)
とノートに書きこみながら春子が言うと精霊の神が〝「いいえ。」〟と否定する。
「生命を刈り取ることができる精霊魔法の呪いですが、現存している魔女や加護持ちの中にそこまでの呪いを扱える者はいません。」
瞬間春子は〝「え?」〟と声を漏らし俯いていた顔を上げる。
「どういう事ですか?魔女や加護持ちは祝福を与えることができ、その祝福には呪いも含まれているって...。
精霊魔法の呪いは生命を刈り取ることができるって、呪い=《死》ではないんですか?」
精霊魔法は生活魔法とされる中、唯一生命を刈り取ることができるのが《呪い》で、魔女や加護持ちは祝福とセットで呪いを扱うと言っていたにも関わらず現存する魔女や加護持ちはその呪いを扱えない(?)と話す精霊の神に、(じゃあその者等が使う精霊魔法の呪いとはナンダ?)と脳内疑問符だらけで春子が質問すると精霊の神は手にしている本を閉じてそれに答える。
「呪いで生命を刈る場合、呪いにそれなりの量の魔力を込めます。そして魔女や加護持ちがそれをするには、自身に加護を与えた精霊から魔力を分けてもらう必要があるのですが、現存する魔女や加護持ちの中にその量を受け止めれる者がいないのです。なので今の魔女や加護持ちは自身が受け止めれるだけの魔力を精霊に分けてもらうとその範囲内ででしか呪いを扱えません。」
「(へ〜。)じゃあ今の魔女や加護持ちが与える祝福は呪いに変わったところで死ぬことはない。ということですね。」
「まぁ...そうですね。その場合は《死》に直結することはほぼないと思います...が、加護を与えている精霊が手を下す場合もありますから。」
「...ん?(つまりどういう事だ?)」
「例えば、魔女が自身の扱えるだけの魔力を使って商人に祝福を与え、その者の店が大いに繁盛し利益をあげたとします。しかしそこで脱税でもすると祝福が呪いに変わって店が全焼する。といったことになったりします。
でもこれが商人が妖精を捕えオークションにかける。といったものだと、魔女に加護を与えている精霊が単独で呪いを放つでしょう。その場合そこには《死》しかありません。」
(なるほどね〜。)
ペンを走らせこれまでの内容を纏めていた春子だったが、ふと手を止める。
「でも精霊の神様。過去に諸外国の者達が〝魔女の呪いで 国一つ滅ぼせる。〟と騒いだのは何故なのでしょう。一度捨てた精霊語を再度習得しようとしたり?何か変じゃないですか?それまでは一般魔法最強派だった者達が突然方針を変えるなんて...。
確かに一般魔法を駆使して派手な戦争するより呪いで王族や国の中枢を担う者達を一人、二人とコツコツ呪い殺せば戦争より案外早く国は傾くと思うけど...。でもこれまでの話からすると魔女や加護持ちが精霊魔法の呪いで生命を刈り取るにはそれなりの量の魔力を精霊に分けてもらう必要があって、その魔力を受け止めれなければ呪いで生命を刈ることはできないんですよね?当時それが可能な魔女が多く存在したんですか?」
魔女や加護持ちといった精霊の加護がある者でも扱える魔力量には個人差があって、精霊魔法の呪いで生命の刈り取りができるといっても、扱えるかは別。と知ると午前中話していた内容に引っ掛かりを感じた。
当時の諸外国の者達は、何故魔女の呪いで国が滅ぼせると思ったのか。
それまで一般魔法推しだった者達が焦って精霊魔法に切り替えようとする程に、精霊魔法の呪いとそれを使う魔女が便利で良いものにうつったのだろうか。
そんな疑問が湧いて質問すると、精霊の神が顎に手を当て〝「ん〜」〟と何か言いにくそうに口を開く。
「それは当時の諸外国の王が誤った情報を事実と受け止めた結果そうなった?...という感じです。そしてその裏には怯えもあったのでしょう。」
「.....。(は?全然わからんが?)」
そのあと精霊の神が話してくれたそれは、本にも載っていないことだった。
当時いち早く精霊語を捨て一般魔法に切り替えたザイードという国があり、その国の者達は体内に魔素を取り込むとそこそこ威力のある魔法を放つことができた。
そして中でもザイード国の王は、魔素を大量に体内に取り込むことができたため攻撃力の高い魔法を放つことができ、その力を使って次々と周辺国を攻め落とすと国の領土を拡大していった...が、それも30年程経つと国の内外で強力な魔法を放つ者らが現れ始め、そのとき100歳をゆうに超えていたザイードの王はこれからの老いを想像し焦りを感じた。
すると暫くして〝テルサ国の魔女と呼ばれる者には精霊がついており、その精霊に魔力を分けてもらえる魔女の寿命は長い。〟という話を耳にしたザイードの王はすぐさま行動に移すと、ある策を講じてテルサ国から魔女を拉致し、その者から精霊を引き離すと同時にその背にあった羽を切って特殊な檻に入れようとした...が、このとき精霊に呪いを放たれザイード国は一夜にして砂と化した。
そしてその出来事には世界が戦慄し、一夜にして国が無くなった原因を知ろうと、各国が諜報員を放ったが、かつてザイード国があったそこはすでに砂漠と化し事実を話せる者などもう誰も存在しなかった。
その結果。〝ザイード国の王がテルサ国の魔女を拉致、監禁したのち魔女の放った呪いによって国が滅んだ。〟
という話が広まり、それを鵜呑みにした諸外国の王は、魔女の存在は大変危険だが有益でもあると再び精霊魔法を習得しようとした。
というのが〝あの〟背景にあったことらしい。
「実際、国を滅ぼしたのは精霊でもその事実までは辿りつけず、魔女を拉致したからそうなった。という結論になったんですね。当時その事実を知るのはテルサ国の者だけだった?」
(まぁ。昨日まであった国が今日なかったらそりゃビビるか。)
「そうですね。とはいえ当時のテルサ国民が知っていた内容は、ザイード国が魔女を拉致した。というそれだけです。実際魔女ではなく、精霊が呪いを放ったという事実を知るのは当時のテルサの王とあと一部の者だけだったはずです。」
(ふーん。じゃあおそらく各国の諜報員がテルサ国民から情報を仕入れそのまま信じた。ってことか。他に話せる者がいないんだしそうなるか。)
「で、当時拉致された魔女と精霊はその後どうなったんですか?精霊は羽を切られたって事は怪我してたんですよね?(ザイード国の王め。碌でもないヤツだ。)」
「聞いた話によると拉致された魔女はザイード国に着いた頃にはすでに亡くなっていたそうです。そして怪我を負った精霊は暫く私の加護のあるテルサ国にいて回復をはかっていたようですがその後の行方は聞いていません。」
(そっかぁ...。)
「あと今日は精霊魔法の呪いについて話をしたので、ついででお伝えしますが《呪い人》という存在が纏う呪いは精霊魔法の呪いと全く別物で、あれは一般魔法の呪いです。」
(...呪い人?)
春子は最近読んだ本に、それについて載っていたな。と記憶を辿る。
「あ〜確か、一般魔法の術が施されたお墓を荒らしたりすると呪い人になるんでしたっけ?」
「そうです。基本的に精霊魔法の呪いは対象者以外が呪われる事はありませんが、一般魔法でなった呪い人は歩く死人で、当然ながら理性もなく、瘴気を放ち、迂闊に触れれば呪いをもらいます。」
「それは墓を掘り返したのが普通の獣や魔獣でも呪われるんですか?(呪い人ではなく、呪い...獣?)」
「はい。その場合、魔獣は呪われた獣と化してより凶暴になります。」
(ええ〜。)
想像した春子は無意識に眉間に皺が寄る。
「そんな物騒なモノになるのに墓荒らし対策でそんな術を施していいんですか?」
(荒されるお墓には申し訳ないが、お墓に術は施さない方がいいのでは?呪い人が徘徊する方が被害が出そうだ)
「なので現在ではその術は禁止されているようですが、前からある物はそのままという感じで、数も正確には把握できていないのでしょう。」
「えぇ〜。もし遭遇したらどうすれば?」
問われた精霊の神は何故か春子の全身を見て口を開く。
「足は速く...なさそうですね。」
「は?」
(ま、まさか、走って逃げろと!?)
「いえ、大丈夫。方法はあります。」
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(ホントに?)




