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呪いの魔女はわりと毎日忙しい  作者: 護郷いな
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魔女の存在

()の行く世界では、過去、殆どの国が精霊語を使用し、多くの者にとって精霊や妖精は身近な存在だったらしい。

しかし長い歴史の中で次第に精霊魔法より一般魔法が重要視されるようになると当時のテルサ国の王が〝『魔素を体内に取り込み魔力に変換して外に放つのは魔素を澱ませるおそれがある。

そしてそれが妖精の誕生に影響すれば魔素の循環が正常に行われなくなり、結果、魔素がその場に溜まり続け濃くなると魔物が凶悪化し、取り返しのつかないことになる。』〟と警鐘を鳴らしたが、それをテルサ国以外の国の者達は嘲笑った。

そしてある会合の場で〝『魔素が濃くなり獣が凶悪になろうと一般魔法は攻撃、防御共に優れているのだから蹴散らせるであろう。

大体生活魔法しか使えん精霊魔法に何の意味がある。一国の王が精霊に力を借りてまでしてその魔法を使う意味があるか?

それに比べ一般魔法は己の力で国を守れる。国の王なら民を守るため力がいる。それにはどちらが重要視されるべきであるかは明白であろう?』〟と意見する者がいるとそれに多くの者が賛同した。

しかし当時のテルサ国の王はそこでも一貫して否定的な立場をとり〝『それで個々が強くなったとて、全ての者がそうではない。民を守るためといって一般魔法を使用した結果、世界の魔素が濃くなり、そこで戦える者はいいかもしれんが弱者は周囲で増え続ける凶悪な魔物に怯えて暮らさねばならなくなる。その時その状況をつくったのが自分だと言えるのか?』〟と、周囲に同調することなく意見すると、また別の国の王が

〝『一般魔法を使って魔素が濃くなると魔物が凶悪化するかどうかなど確かなことではないし、大体弱者なんぞ今日も魔物関係なくあちこちで死んでおる。わし等は一国の王であって神ではない。全ての民を守れはせん、しかしそれでも多くの民を守ろうとするなら国が強くなければならん。国があるから民を守れる。それには精霊魔法では心許無いという話だよ。』〟と否定した。


そしてその後テルサ国以外の殆どの国が精霊語を捨て、新たに簡素化した言語を生み出し使用しはじめると今ではそれが世界の共通語(現代語)になり、精霊語は古代語という認識に変わっていった。



...が、これには続きがあって、当時簡素化した言語を用いて一般魔法を使用する者の中に、大量の魔素を体内に取り込み強大な魔法を放つ者が世に出始めた頃。

精霊語を使用し精霊や妖精と共存するテルサ国に精霊の神が国に加護を与えた。

そしてその後暫くして突如〝『テルサ国の《魔女》と呼ばれる者が使う精霊魔法の呪いによって、国ひとつ滅ぼすことなど造作もないことだ。』〟と各国の者達が騒ぎはじめ、何故かその者達は再び精霊語を習得しようとした。

しかし一度精霊語を捨てた者達に精霊や妖精が力を貸すはずもなく、結果。テルサ国で日常使っている会話を聴き取ることは出来ても詠唱や文字を読むといったことは二度と出来なかった。



すると今度は〝『テルサ国が呪いによって自国を滅ぼし統一を図る気だ!』〟と諸外国から抗議の声が上がり、当時のテルサ国の王はそれをすぐに否定した。


だが実際には、精霊魔法の呪いで国ひとつ滅ぼすことは不可能なことではなかった。


しかし精霊の神の加護を受けたテルサ国にとって精霊や妖精は自国民と同じ守るべき存在であるため、他国を滅ぼした結果民族の多様性が減少すると、それもまた魔素溜まりとは別の停滞が生まれ、それが妖精の誕生に影響すると考えると初めから統一する気など毛頭なかった。



「でも反発は収まらなかった...と。」

春子は読んでいた本から顔を上げローテーブルを挟んで向かいのソファーに座っている精霊の神を見る。


今日の春子は絨毯の上にクッションを置くと胡座をかいて座り、ローテーブルの上に本を開いて、そこにいる精霊の神の話を聞いていた。


というのも、毎日ソファーに腰掛け本を読んでいた春子だったが、ソファーの座り心地が良すぎて気付くと横になりいつの間にか寝落ちしている。というのが続いたため、あえてソファーから距離を取ったかたちだ。

そして精霊の神はそんな春子の事情など気にすることなく話を続ける。

「そうです。それで当時のテルサ国の王が安全保障条約を提案しました。」


「あ〜ここで国際連合を発足したんですよね。」

春子はここに来て読んだ本の内容を思い出しながら話す。

(地球と世界は違ってもそこに人がいて国ができれば問題が生じ、それの解決案を出したらそういう事になったんだろうけど、最初自分が行こうとしている世界の歴史書読んだ時《安保》や《国連》の文字に混乱したんだよねぇ。その内容は地球のそれとは色々違うけど。)

「確か《国連に加盟する国にはその国にある精霊の地に魔女を派遣する。そして加盟国となる際、その国には精霊魔法の祝福を受けてもらい、加盟国間で戦争を誘発する攻撃がなされた場合、被害国の地にいる魔女はそれが精霊の地への攻撃と見做し加害国の受けた祝福を呪いに切り替える。》そういう内容でしたよね?」


「そうです。あとは《政治的目的を持って国は魔女に干渉することは認められず、魔女には滞在する国の法律は適用されない。》といった内容です。

なのでその条約が締結されて以降加盟国以外の国では小さな衝突はあっても長らく大きな戦争は起こっていません。」


「なるほど〜」

(つまり魔女と呼ばれる存在が戦争の抑止力になってて、治外法権でもあるのか。)


ここで春子は少し前から気になっていた事を尋ねる。

「精霊魔法は呪い以外では生命を奪うことはできないんですよね?」


「はい。基本的に精霊魔法は生活魔法です。テルサ国の国民ほぼ全てが使用できる魔法で、家にいる妖精や外に揺蕩う精霊や妖精に力を貸してもらい使用する魔法です。

あと魔女や加護持ちと呼ばれる者は、生活魔法以外に精霊魔法の祝福を扱え人に与えることができます。しかしその者の与える祝福には呪いも含まれています。

そして貴方の場合は純粋な精霊魔法が使えます。

魔女や加護持ちの与える祝福は、その祝福を受けた者が犯罪や精霊へ不義理な行いをすると呪いに変化するものですが、貴方は精霊なので祝福を与えれるのは当然ですが、祝福と呪いを切り離した、純粋な祝福・純粋な呪いを放つ事が可能です。そして他には第三者に加護を与えることができます。

まぁ。それをすると自身が精霊であることを周囲に証明することにもなりますが。」


「なるほど〜」

(全っっっ然。加護を与えるつもりないし大丈夫だ。)


春子が目を閉じウンウンと首を縦に振るのを横目に精霊の神はソファーから立ち上がる。

「少し話が長くなりましたね。この辺で一旦休憩にしましょうか。どうやら死の神がお茶を用意しているみたいですよ。」


瞬間、閉じていた目を〝カッ〟と見開き秒で立ち上がった春子は円卓の席にいる死の神を視界に入れると満面の笑みを向けた。


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