四ノ話・二十
修羅ノ介は、にやと笑った。
ここまで、この者が見せることのなかった、ふてぶてしいとも言える笑みだった。
「きさまぁ、よくもそのような無礼なことを。今度こそ殺してくれるわ」
蘭丸は太刀を抜いた。
だが、修羅ノ介はこれを気にすることも無かった。
その傍らには、いつの間にか帳面が一つ置かれていた。
修羅ノ介はそれを手に取ると、開いた頁を蝋燭の炎にかざした。
頁を照らす蝋燭は、時が進み、さらに短くなっていた。
「これは、閻魔帳にございます。
ここに、死する者の名前、さらには、生前の行いが事細かに書かれております。
私は、名前が記された方々を速やかにあの世へ導くため、今宵、ここへ参ったのでございます」
修羅ノ介が言い終わらぬうちに、蘭丸が帳面をひったくった。
切羽詰まった顔のまま、帳面の頁を乱雑にめくった。
「世迷言を言いおって。
ここには何も書かれておらぬではないか。
名前も、行いも、何も載ってはおらぬぞ」
感情むき出しの蘭丸の声は裏返っていた。
修羅ノ介は、まったく顔を動かさず、再びにやと笑った。
「何も書いておらぬは、当然のことにございます」
「なに?」
「どういうことじゃ?」
蘭丸に続き、信長も声を上げた。
「ここにおられる方々のお名前、行いなど、この後、私が書き込むのでございます」
修羅ノ介はぐるり見回し言った。




