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四ノ話・十五
「信忠は今宵、どこに泊っておる?」
信長は、ふと思い出したように嫡男信忠の寝所を尋ねた。
信忠も信長同様に京に滞在しており、昼の茶会で親子は顔を合わせていた。
「妙覚寺にご滞在でございます」
蘭丸が答えた。
妙覚寺は本能寺より六町ほど北にあり、近くには二条御所がある。
「兵はいかほどか」
蘭丸は顔を上げた。
言葉の意味がわからなかった。
「信忠には、どれほどの兵が付き従うておる」
信長は再度問うた。
「正確なところはわかりませぬが、さほど多くはないと思われまする」
「なれば、わしと信忠を一度に討つ者がおれば、天下を盗れるやもしれぬのう」
「ご冗談を」
蘭丸は弱々しく笑い、続けた。
「今やお館さまは東は上野、甲斐、西は播磨、但馬までを押さえておられるのでございます。
天下を見回してみても、わが軍を打ち破り、京に迫ることが出来る大名など、どこにもおりませぬ。
たとえ、武田信玄、上杉謙信存命であったとしても、この地まで攻め入ることなど、あり得ぬことでございます」
蘭丸の言葉を受け、信長は修羅ノ介に顔を向けた。




