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四ノ話・十二
修羅ノ介は一呼吸置いてから、
「これは山に住む妖の類で、蟹を好んで喰らい、人の姓名を知れば、その者を殺すと云われております」
と述べた。
修羅ノ介の「殺す」という言葉に反応したのであろう、場がざわついた。
「その化物が、姓名を知った者を殺すのであれば、藤吉郎はわしを殺そうとしたということになるが。
あるいは、側におった官兵衛が入れ知恵をしたか」
信長は目を見開いて問うた。
険しい顔になっていた。
「お館さま、落ち着かれませ。たかが御伽師の作り話ではござりませぬか。
秀吉さまがそのようなこと、仰せになるはずがありませぬ」
蘭丸が慌てて信長に奏上した。
「姓名を知った者を殺すと言うたが、どうやって殺すのじゃ」
信長は蘭丸にはまったく注意を払わず、さらに修羅ノ介に問うた。
「私には、わかりませぬ」
「わからぬか。それはつまらぬな。
しかし、いかにも藤吉郎が言いそうなことではある。
ところで、その化物はどうなったのじゃ」
「焼き殺されました」
修羅ノ介が答えた。




