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四ノ話・十一
「はて?わしは主君の名を聞かれたから答えたまでじゃが、おかしいかのう」
秀吉さまは、やはりその者に背を向けたままで答えました。
「おそれながら申し上げまする。
あの化物が尋ねたのは秀吉さまご自身のお名前で、主君の名ではござりませぬ」
その者は、さらに秀吉さまに詰め寄りました。
「では、わしの聞き違いであったかのう」
秀吉さまが苦し紛れにそう言ったところで、官兵衛さまが二人の間に割って入りました。
「これから死んでゆく化物に何を言おうと、どうでもよいことではござりませぬか。秀吉さまは、城攻めの準備をせねばなりませぬので、これにて」
官兵衛さまは早口でそう言いますと、城の方へと秀吉さまとともに立ち去って行ったのでございます。
そこまで話すと、修羅ノ介は大きく息を吐いた。
修羅ノ介の斜め前に置かれた蝋燭はだいぶ短くなり、じきに燃え尽きると思われた。
灯る炎は、薄暗い部屋にいる者たちに影を落とした。
「その毛むくじゃらの化物とは、一体何なのじゃ」
信長が問うた。
上座の席から身を乗り出していた。




