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四ノ話・十
さて、家臣の中に一人だけ、この場に残った者がおりました。
この者は、信長公より秀吉さまのもとへ遣わされております、謂わばお目付のような者でございます。
「そなたも戻ってよいぞ」
まったく目も合わせようとせず、秀吉さまは告げました。
その者は言われるままに立ち去ろうとしました。
が、ふと立ち止まると、秀吉さまの方を振り返られました。
そして、
「さきほど、われらが主君であられます信長公のお名前を口にされましたが、いかなることにございましょうか?」
そう尋ねたのでございます。
秀吉さまは、やはり目を合わせようともせず、
「それがどうかしたか」
と言いました。
「化物に名を聞かれ、信長公の名を口にされたはどういうことか、とお尋ねしておるのでございます」
その者は、言いながら秀吉さまに歩み寄りました。




