四ノ話・九
「どういうことじゃ?何故、藤吉郎はわしの名を語ったのじゃ」
信長が口をはさんだ。
「それはこの後、話の中で申し上げる次第でございます」
修羅ノ介が変わらぬ声で言った。
張り詰めていた場の空気は、さらに緊迫した。
今にも動き出そうかという蘭丸を信長は手で制した。
「ならば、そちがどう締めくくるか、愉しみにするとしよう」
信長の言葉に、修羅ノ介は何も言わず、頭を下げた。
家臣たちは唖然としておりました。
一方、化物は檻の中でにたりと笑いました。黒い毛の奥の二つの目は妖しく輝き、檻に閉じ込められているとは思えぬ様子でございました。
「とうとう知ってしもうた。
名前さえ知れば、こっちのもんじゃ」
化物は小躍りするように檻の中を一本の足と腕で、ばたばたとはしゃぎ回りました。
それを見ていた秀吉さまは、こちらも恐ろしげな顔でにたぁーっと笑い、
「願いがかなってよかったのう。
ところで、やはりわしはお前のような化物の顔なぞ見とうないわ」
そう言うと、家臣たちの方を向きました。
「さっさとこいつを焼き殺してしまえ」
秀吉さまの命を受け、二人の領民は化物の入った檻の上に棒を通し、両端を担ぐと、戻って行きました。
その間、檻の中の化物は耳障りな声でなにやら喚いておりました。
しかし、領民たちが気に留めることはなく、やがて見えなくなったのでございます。




