四ノ話・八
化物の腕と足の数に話が及び、ご自身の指の数を気にされたのでございましょう。
秀吉さまは舌打ちをされ、官兵衛さまを睨みました。
しかし、官兵衛さまが秀吉さまを気にかける様子はありませんでした。
すぐに立ち上がると、機嫌が悪いのにも構わず、秀吉さまの袖を引き、やや離れた場所へと移られました。
そして、周りを何度も見回し、他の者に聞かれぬことを確認されると、秀吉さまの耳元で何ごとか囁かれたのでございます
秀吉さまのお顔は、みるみる青ざめてまいりました。
それでも、しだいに神妙な面持ちになり、何度も頷きながら聞き入っておられたのでございます。
やがて、官兵衛さまが側から離れますと、秀吉さまは一度咳ばらいをし、ひどく強張った顔で化物の前へと進み、立ち止まったのでございます。
先程までとは、まったく異なる姿でございました。
一方、檻の中の化物は、じぃっと秀吉さまを見上げておりました。
秀吉さまは少し間を置いて、
「化け物よ、そんなに名が知りたいか」
そう言われました。
その声は、かすかに震えておりました。
「それは、もう」
化物は、それまでの怯えた姿は消え失せ、大きな目をぎろりと光らせて秀吉さまを見ておりました。
化物も先程までとはまったく様子が違っていたのでございます。
秀吉さまは大きく深く息をすると、意を決したかのごとくに口を開きました。
「ならば、教えてやろう。
名はな・・・・・・、織田信長じゃ」




