四ノ話・七
「こやつ、言葉を話すくせに、わしの名を知らぬとは不届きな奴じゃ。ならば、教えてやろう、わしの名はな」
興奮した秀吉さまは、そう、まくし立てました。
この時、側に居た官兵衛さまが、急に前へと進み出たのでございます。
「お待ちくださいませ」
官兵衛さまは秀吉さまとは対照的に、落ち着いた声で言われますと、その場に跪き、頭を下げました。
「官兵衛、何じゃ。
今、無礼なこの化物に、わしの名を教えようとしておるのじゃ」
「申し上げたいことがございます。
大切なことゆえ、どうか、お聞きくださいませ」
官兵衛さまはそう言うと、頭を上げました。
ずいぶんと真剣な顔をしておりました。
秀吉さまも、官兵衛のただならぬ様子に、表情ががらり変わったのでございます。
「何じゃ、申してみよ。
ただし、この化物の命をたすけることだけは、いくらおまえの頼みでも聞けぬぞ」
すると、官兵衛さまは思いもよらぬことを言われました。
「この化物、腕が一本、足が一本づつしかありませぬ」
官兵衛さまに言われて、秀吉さまがよくよく檻の中をご覧になりますと、化物の腕と足はたしかに一本づつしありませぬ。
竹の檻に入れられていたため、気づかなかったのでございました。
「そうじゃな、わしも気づかんかったわ。
じゃが、それは、こやつが化物であるということのますますの証となるだけであろう」
言い終わって秀吉さまは、ご自身の片手の指を一本、他の指の陰に隠しました。
秀吉さまは一方の手に六本の指を持っていると云われております。
おそらくは、
修羅ノ介がそこまで言ったところで、
「たしかにそうじゃ」
信長は口をはさむと、
「藤吉郎の片手には、指が六本ある。
わしはからかって奴を、六ツめと呼んでおる」
そう言って笑った。
修羅ノ介はこれに対しては何も言わず、続けた。




