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四ノ話・六
「おたすけ下せえ。わしはこの近くの山に住む神ですじゃ。
たすけて下されば、あなた様に福をもたらすこと、お約束いたしまする」
「そんな話が信じられるか。
おまえが山の神ならば、百姓なんぞに捕まるはずがあるまい」
秀吉さまは振り返りもせず、言い捨てました。
それまで涙を流すだけだった化物は、もうたすからぬと思ったのでしょうか。
声を上げて泣きわめき出しました。
ただでさえ気味の悪い化け物の声でしたが、泣き声はさらに耳障りなものでした。
「ああ、うるさいわ。早く殺してしまえ」
あまりの大声に秀吉さまも立ち止まり、振り返りました。
すると、
「たすけて下さらねえなら、せめてあなた様のお名前だけでも教えて下せえ」
化物はなおも泣きわめきながら、そんなことを言ったのでございます。
「名前じゃと?殺されようかという時に、妙なことを聞くのじゃな」
信長が問うた。
「人の名というものは、とても大事なものでございます。
ことに、この化物にとっては」
修羅ノ介はそう言うと、話を続けた。




