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四ノ話・五
これを聞いた秀吉さまは、ぐるり辺りを見回しました。
たった今、叱責された家臣の一人が、声を発したと思われたのです。
しかし、家臣たちではありませんでした。
もちろん、官兵衛さまでもございません。
秀吉さまは、おそるおそる檻の中に目をやりました。
「お偉いさま、殺すのだけは勘弁してくだせえ」
なんと、声を発していたのは檻の中の化物でございました。
化物は、毛むくじゃらの醜い顔の奥に光る目に、涙を浮かべておりました。
「なんじゃ、こいつ、口を利きおったぞ」
秀吉さまは、たいそう驚かれました。
「どうか、命ばかりはたすけてくだせえ」
化物は、はらはらと目から涙を流し、何度も哀願いたします。
しかし、秀吉さまは化物を見ようともせず、
「薄気味の悪い奴じゃ。さっさと殺してしまえ」
そう言うと、背を向けてしまいました。




