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三ノ話・六

「もし、市が橋を渡っていなければ、長政がわしに逆らうことも無く、長政と市は別れなかったというのか」


「それは、私にもわかりませぬ」


修羅ノ介が答えると、信長は黙り込んだ。

しばしの静寂があった。


「もし、再び橋をお市さまが渡られたなら、あらためて輿入れなされた先よりまた戻られる、ということがあるやもしれませぬ」


修羅ノ介の言葉に、信長はしばし考えこんだ後、口を開いた。


「二度と渡らせることはあるまい。それと、今度こそ然るべき者を探さねばならぬな。市が生涯添い遂げるに相応しい相手を。そして、しっかと送り届けるに相応しい者を」


言い終わり、信長は大きくため息を吐いた。


「一条戻り橋には、別の伝承もございます。

戦に出る前の武将や兵がこの橋を渡ったならば、戦場で死なず戻ってくる、というものでございます」


「ならば、堺にいる信雄を京へ呼び戻さねばな。

戻り橋を渡らせるために」


信長は本気とも冗談ともつかぬ言い回しをした。


信長が名前を出した信雄とは、信長の三男、織田信雄のことである。

しばらく前より、信雄は堺に滞在していた。四国に遠征し、長曾我部氏を討つためである。

丁度、日付の変わった六月二日、四国に向け出陣することとなっていた。


「そういえば、思い出してござりまする」


急に口を開いたのは蘭丸だった。

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