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三ノ話・四
信長公は、お市さまをお送りになる家臣に金をお渡しになり、京の各所を見物させるよう、ご命じになりました。
その家臣の者は京のあちらこちらに赴き、お市さまを愉しませました。
ところで、お市さま一行が寄られた場所の一つに、晴明神社のほど近く、先程私が話しました一条戻り橋がございました。
かつて、一度死んだ者がこの橋を渡ってこの世に戻ってきたという、特別な謂れのある場所でございます。
しかし、これより輿入れしようとする地元の花嫁がこの橋を渡ることは滅多にありません。
なぜなら、花嫁がこの橋を渡れば、いずれ実家に戻ることになる、そう云い伝えられているからでございます。
話を聞いた信長は、呆然となっていた。
修羅ノ介は続けた。
しかしながら、京に住んでいる者でも、婚礼前にこの橋を渡ることが無いわけではございませぬ。
例えば、親と子がそれぞれを尋常ではなく愛し、離れたくないと思っている。
あるいは、女にすでに誓い合う男がおり、その者と添い遂げたいと思っている。
あるいは・・・・・・、
そこまで言い、修羅ノ介は、ちらと信長を見た。




