三ノ話・一
ここ本能寺より北へ一里も行かぬ場所に、一条戻り橋という名の小さな橋がございます。堀川にかかるこの橋は、異界に通じているとも云われ、いくつもの伝承がございます。
平安の世におきまして、源頼光が四天王の一人、渡辺綱が鬼に出遭いましたのもこの橋でございました。
修羅ノ介がそこまで言ったところで、
「知っておる」
信長の声が響いた。さらに、
「鬼の腕が切り落とされる話であろう」
信長は得意げに言った。
「すでに知っておる話では満足できぬ。わしだけではない。他にも知っておる者がおるであろう?」
信長の声に呼応して、
「私も存じておりまする」
蘭丸はそう答えると、その場に座す者たちも同じようにうなずいた。
窮状したかとばかりに、信長はじめ、みなの目が修羅ノ介に向けられた。
それでも、修羅ノ介の顔は変わらなかった。
「橋を通ろうとした渡辺綱は、橋のたもとで一人の女を見かけました。
近づいてみましたところ、宮中でもなかなか見かけぬ華やかな女でございます。
綱は女に惹かれたものの、別のことも考えておりました。
何とも面妖なこと。こんな夜更けに、このような場所に女が一人。とても人とは思われぬ」
修羅ノ介がそこまで言ったところで、
「言ったはずじゃ。その話は知っておると」
信長が遮った。
修羅ノ介は語りを止めた。




