一ノ話・十七
天正三年、今より七年前のことにございます。
信長公は徳川家康公とともに、三河の設楽原にて武田勝頼の軍を討ち果たしました。世に長篠の合戦と呼ばれる戦にございます。
この勝負を左右いたしましたのが、南蛮より伝えられし火縄銃でございます。
鉛の弾を飛ばし相手を殺すこの鉄の筒は、大隅の種子島に伝来するや、またたく間に広まり、この国の戦の様相を大きく変えてしまったのでございます。
しかしながら、この鉄の武器にも弱点がございました。
修羅ノ介がここまで語ったところで信長が、
「何じゃ、それは?」
と問うた。
「火を使いますゆえ、雨が降れば役に立たなくなることでございます」
修羅ノ介は即答した。
「たしかにそうじゃ」
信長がうなずいた。
修羅ノ介は続けた。
この日、設楽原は朝から小雨が降っておりました。
もし、そのまま雨が降り止まなかったならば、どうなっていたでありましょうか。しかも、戦が起きたのは梅雨の頃。雨が降り続いても何らおかしくはなかったのでございます。
しかし、雨は止みました。
この時、雨を止めたのが、あの黒蛇だったのでございます。
戦がどうなったのかは、皆さまご承知の通りでございましょう。織田、徳川方の大勝でございました。
話を聞いていた信長は頬杖をついたまま、にやと笑った。
「そのようなものが憑いているというのか。何とも心強いものじゃ。
第六天魔王と呼ばるるわしに相応しいわ」
修羅ノ介は深く頭を下げた。
「なかなかに面白かった。じゃが、まだまだそちを修羅ノ介と認め、許すまでには至っておらん。他に話はあるか」
「もちろんでございます」
修羅ノ介は、わずかに顔を上げた。




